第2話

1.
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2023/07/07 13:00 更新

朝目が覚めると、湊の姿はもうなくて。

それでも、俺だけにかかっている毛布を見て…湊がしてくれたんだと思い込み、赤くなった。

あぁ、……馬鹿だな、俺。
あなた
…… 。

重い身体を起こして、リビングに向かう。

ソファに掛けられていた服も、湊の面影も何もかも見えなくなっていた。

俺にはそれが、“ 空っぽ ”にしか見えない。


昔はよく、ダイニングテーブルに置き手紙を置いていってくれた。

「 行ってくるね 」とか、「 早く帰ってくるね 」とか。

そんなのもう、何一つないけれど。



過去にばかり縋り付いて、俺は息をしている。






溜まっていた皿を洗い、洗濯カゴに脱ぎ捨てられた服を洗濯して干す。

掃除機をかけたり、トイレや風呂の掃除をしたり……そういう家事全般を終えて、一息ついた。

俺は在宅勤務で、湊はホスト。

家で気軽に仕事をしている俺と、日によって仕事の時間が増える湊では、どちらが家事をするべきかなんて目に見えていた。

俺がどれだけ頑張っても、女の子からシャンパンを貰える湊より給料は安いし。

湊のためになるなら、何でもいい。
あなた
……はぁ、

そうして、湊中心な考え方をする俺に嫌気がさす。

どれだけ俺があの人を愛したって、あの人が俺を愛すことはないって分かってるのに。

確信のない希望を、捨てきれずにいた。



ピロン 、
_
『 最近音沙汰ないけど、大丈夫? 』

と、自分のスマホに通知が来る。

連絡を寄越してきたのは古くからの友人で、その上…俺と湊のことに関する、相談相手。

ただ最近は、もう愛がないことなんて分かり始めたし…相談も何もしていなかった。
あなた
『 うん、大丈夫。 』

なんて返すも、心残りが生まれる。

今の終わりかけのこの関係のことも、相談してみるべきじゃないだろうか。

どんなに馬鹿みたいなことを相談しても真剣に考えてくれる____なら、分かってくれるかもしれない。
あなた
____『 今日、 会えない? 』



______________________

_______________
 
カ ラ ン カ ラ ン …
店員
いらっしゃいませ、
お好きな席へどうぞ〜。

あまり人の集まらないカフェに入ると、穏やかな雰囲気のお姉さんがそう言う。

それを耳に通し、窓際の一番端の席に腰を下ろし。


窓の外を見て佇んでいると、店員さんが側にやってきた。
店員
ご注文がお決まりになりましたら、またお声かけください。そちらの棚にある本も、お好きに読んでいただいて構いませんので。
あなた
あ、…注文、もう良いですか。

お冷と暖かいおしぼりを出しながら、既に決まっているような台詞を言う店員さん。

そんな彼女を遮りそう言うと、快く「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
あなた
紅茶……レモンティーとアップルティー、お願いします。
店員
かしこまりました。

丁寧に相槌を打った店員さんは去っていき、俺はひとり窓の外を眺める。

こんな綺麗な内装のカフェ、そうそうないのに…穴場だなんて、本当に得した気分だ。


……ここに、湊と来れたら。

そう考えたって、無理なものは無理だけど。



最後に笑顔を見せてくれたのは、いつだろう。

いつしか知らぬ間に関係が拗れていって、残ったのは偽りの“ 愛 ”だけ。

俺はもう湊に、「 好き 」と言われない。



カ ラ ン カ ラ ン …



そうしているうちに、店の扉が開く。

机に肘を置き窓の外を眺めていた体制から、頭だけを手から離してそちらに向けた。

現れたのは、俺が待っていた“ 相談相手 ”。

あなた
もうアップルティー、頼んでおいた。

え、まじ?ありがと〜。

緩く結んだ茶髪、のほほんとした雰囲気を醸し出すような垂れ目。

しかし手に浮き出る骨や血管が何だかギャップで、高校時代からよくモテていた……“ 叶 ”だ。

穏やかな表情で向かい合わせた彼は、荷物を隣の椅子に置き腰を下ろす。
なんか久しぶりじゃない?あなた、最近何にも言ってこないし。
あなた
うん、ごめん。…あんまり相談ばっかしてちゃ、迷惑かなって。
そんなの気にすることないよ。
あなたの声好きだし。昔からそういう気遣いができるところ、好きだよ。
あなた
……やめてよ、笑

甘ったるい声で好き好き言われると、やっぱりどうしても照れてしまう。

もう湊に、そう言われることなんてないから。
あなた
…… 。

店員さんに持ってきてもらったレモンティーを一口吸い、視線を下げる。

あなた
……俺、心狭いのかな。

…………それ、相談?

両手で顔を押さえながら呟くと、叶がいつもと変わらないトーンで声をかけてくる。

少し間を開けたあと、頷いた。


湊は“ ホスト ”。 そんなの、分かってる。

愛が無いことも分かっているし、きっとお客さんに……本命が居るんじゃないかってことも。

どれだけ気持ちが俺に向かなくとも、事実上“ 恋人 ”は俺、なのに。



嫉妬の気持ちで、いっぱいだ。

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