朝目が覚めると、湊の姿はもうなくて。
それでも、俺だけにかかっている毛布を見て…湊がしてくれたんだと思い込み、赤くなった。
あぁ、……馬鹿だな、俺。
重い身体を起こして、リビングに向かう。
ソファに掛けられていた服も、湊の面影も何もかも見えなくなっていた。
俺にはそれが、“ 空っぽ ”にしか見えない。
昔はよく、ダイニングテーブルに置き手紙を置いていってくれた。
「 行ってくるね 」とか、「 早く帰ってくるね 」とか。
そんなのもう、何一つないけれど。
過去にばかり縋り付いて、俺は息をしている。
溜まっていた皿を洗い、洗濯カゴに脱ぎ捨てられた服を洗濯して干す。
掃除機をかけたり、トイレや風呂の掃除をしたり……そういう家事全般を終えて、一息ついた。
俺は在宅勤務で、湊はホスト。
家で気軽に仕事をしている俺と、日によって仕事の時間が増える湊では、どちらが家事をするべきかなんて目に見えていた。
俺がどれだけ頑張っても、女の子からシャンパンを貰える湊より給料は安いし。
湊のためになるなら、何でもいい。
そうして、湊中心な考え方をする俺に嫌気がさす。
どれだけ俺があの人を愛したって、あの人が俺を愛すことはないって分かってるのに。
確信のない希望を、捨てきれずにいた。
ピロン 、
と、自分のスマホに通知が来る。
連絡を寄越してきたのは古くからの友人で、その上…俺と湊のことに関する、相談相手。
ただ最近は、もう愛がないことなんて分かり始めたし…相談も何もしていなかった。
なんて返すも、心残りが生まれる。
今の終わりかけのこの関係のことも、相談してみるべきじゃないだろうか。
どんなに馬鹿みたいなことを相談しても真剣に考えてくれる____なら、分かってくれるかもしれない。
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カ ラ ン カ ラ ン …
あまり人の集まらないカフェに入ると、穏やかな雰囲気のお姉さんがそう言う。
それを耳に通し、窓際の一番端の席に腰を下ろし。
窓の外を見て佇んでいると、店員さんが側にやってきた。
お冷と暖かいおしぼりを出しながら、既に決まっているような台詞を言う店員さん。
そんな彼女を遮りそう言うと、快く「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
丁寧に相槌を打った店員さんは去っていき、俺はひとり窓の外を眺める。
こんな綺麗な内装のカフェ、そうそうないのに…穴場だなんて、本当に得した気分だ。
……ここに、湊と来れたら。
そう考えたって、無理なものは無理だけど。
最後に笑顔を見せてくれたのは、いつだろう。
いつしか知らぬ間に関係が拗れていって、残ったのは偽りの“ 愛 ”だけ。
俺はもう湊に、「 好き 」と言われない。
カ ラ ン カ ラ ン …
そうしているうちに、店の扉が開く。
机に肘を置き窓の外を眺めていた体制から、頭だけを手から離してそちらに向けた。
現れたのは、俺が待っていた“ 相談相手 ”。
緩く結んだ茶髪、のほほんとした雰囲気を醸し出すような垂れ目。
しかし手に浮き出る骨や血管が何だかギャップで、高校時代からよくモテていた……“ 叶 ”だ。
穏やかな表情で向かい合わせた彼は、荷物を隣の椅子に置き腰を下ろす。
甘ったるい声で好き好き言われると、やっぱりどうしても照れてしまう。
もう湊に、そう言われることなんてないから。
店員さんに持ってきてもらったレモンティーを一口吸い、視線を下げる。
両手で顔を押さえながら呟くと、叶がいつもと変わらないトーンで声をかけてくる。
少し間を開けたあと、頷いた。
湊は“ ホスト ”。 そんなの、分かってる。
愛が無いことも分かっているし、きっとお客さんに……本命が居るんじゃないかってことも。
どれだけ気持ちが俺に向かなくとも、事実上“ 恋人 ”は俺、なのに。
嫉妬の気持ちで、いっぱいだ。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。