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男の俺がホストに行くことなど、彼の職場を知ってから一度も考えたことは無かった。
だから、ホストのノリも分からない。
受付のときに「指名されるホストは居ますか」と訊かれ、「不破 湊」と言えなかった。
あの名刺はたまたま落としただけで、俺に来て欲しくはなかっただろうし……指名をしても迷惑かと思ったから。
その質問に答えられずに居ると、隣に突然現れた
“ 貴美 ”という男に招待された。
顔を覗き込まれてから行動に移されたので、きっと顔面を気に入ってくれたんだと思う。
……こんなことなら、来るんじゃなかった。
試しに自分から話を振ってみると、彼は眉尻を下げて笑いながら頷いた。
微妙な反応。やっぱりNo.2は不服なのだろうか。
じゃあきっと、湊のことも…… 。
咄嗟に否定の文を並べ、口にする。
貴美さんは“ お兄さん ”って感じで余裕があって、
大人な雰囲気がある。
……何で湊が、No.1になったんだろう。
もっと、俺に愛を向けてくれたかもしれない。
貴美さんに手を握られ、見つめられる。
整った顔で甘い言葉を吐かれ、びっくりしてろくに言葉が出なかった。
湊を見るはずだったのに、俺は何をしているんだろう。
別の男の人に可愛いとか言われちゃって、こうやって手を握られても拒否できなくて。
……こんなんじゃ、浮気みたい 。
肩にポンと手を置かれ、頭上から声がする。
俺が探していた人。仕事場だからか、いつもより少し声のトーンが高く感じて。
全身がぶわぁって、暑く感じた。
貴美さんにグイッと肩を引かれ、寄り掛かる。
湊の前で、…………どうしよう。
きっとどうでもいいだろうけど、恋人が浮気なんて絶対に嫌なはず。
…でもここで貴美さんを好きになれれば、苦しまなくて済むのかもしれない。
俺に向けてニコッと笑みを浮かべられ、内心戸惑いながらも頷いた 。
この感じ、少しだけ機嫌が悪い。
やっぱり失敗だ。最初から湊を指名しておけば、きっと今よりは機嫌が悪くなかっただろうに。
と、湊に手を引かれ、ソファから立ち上がる。
運良く指名が入り、貴美さんは俺に「短い時間だったけど、ありがとね」と言って笑みを浮かべた。
湊と仲が悪そうだったけど、共通の客だとしても態度を変えないのは流石だ。
俺は会釈をし、彼は別の席へ脚を動かす。
その間に席に促され、言われた通りに座る。
目の前の湊は貴美さんの言った通りプロ意識が高くて、…プライベートを知っている俺としては、少し怖く感じる。
帰ってきて上着を脱いだときの白シャツ姿とか、シてるときの乱れた髪型とか…… 。
そういうところが、全然違うから。
ニコニコとした湊は俺を見て、そのまま表情を変えずに口を開いた。
恋人と別れる理由は、誤解か浮気が多いらしい。
なんて、……………知りたくなかった話だ。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。