「そうなのー?」
「なになに?詳しく教えて!」
複数の女子が思いのままに喋りだす。
少し興奮気味なように感じた。
「なんかさー、自分の見た目利用して、純粋な少年アピールしてるのか知らないけど、絶対思ってもないようなこと言ってくるんだよねー」
「思ってもないこと?」
「具体的にどんな感じ?」
「キャラ作ってるってこと?」
「まあ、そんな感じー。たぶん、あれは絶対、素じゃないから!だってさ、神様だの愛だの、目に見えないもののことばっかり語りだして、僕って純粋だなとしか思ってないでしょ!」
「えー、なんか引くかも」
「どれくらい語ってるか見てないから分からないけど、話だけ聞いてると無理かもー」
「絶対、それ裏あるでしょ。残念だなー、ちょっと気になってたのに」
「そうそう。だから、あんま関わらないほうがいいよってこと。あと、素直でいることが正義だと思ってるのか知らないけど、思ったこと普通に口にするから、優しくもなんともないよ」
「怖いわー」
「やだなー。教えてくれてありがとー」
遠ざかっていく足音。
私は、トイレから出るタイミングを失って、今の話を全て聞いていた。
こうやって、どんどんクラス中に泉くんの情報が広まっていったんだろうな。
人間って怖い。
そう言ってる君たちも裏が酷いくせに、と言ってやりたくなったが、そういう自分もまた、きっと腹黒いのだ。
自分から噂を発信はしないものの、噂話には好奇心で自ら耳を傾けていた気がする。
そんなこと聞いたって何も得しないのに。
堂々と扉を開けて、噂話を止めてあげればよかったのに。
でも、そんな力を私が持っているわけない、自信がない、傷付きたくない、怖い。
もうこれ以上自己嫌悪を膨らませたくないから、私は自分の目でしっかりと捉えるまでは、泉くんとの関わりを絶たないという判断をすることに決めた。
ゆっくりと扉を開ける。
誰もいないことに安心して、思わず、ため息が出た。
私は、ゆっくりと深呼吸をする。
腕時計を見ると、チャイムまで1分を切っていた。
教室まで走り出しながら強く願う。
どうか、泉くんの今の姿に偽りがありませんように。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。