第6話

6,女子たちの噂
9
2020/05/03 16:01
「そうなのー?」

「なになに?詳しく教えて!」

複数の女子が思いのままに喋りだす。

少し興奮気味なように感じた。

「なんかさー、自分の見た目利用して、純粋な少年アピールしてるのか知らないけど、絶対思ってもないようなこと言ってくるんだよねー」

「思ってもないこと?」

「具体的にどんな感じ?」

「キャラ作ってるってこと?」

「まあ、そんな感じー。たぶん、あれは絶対、素じゃないから!だってさ、神様だの愛だの、目に見えないもののことばっかり語りだして、僕って純粋だなとしか思ってないでしょ!」

「えー、なんか引くかも」

「どれくらい語ってるか見てないから分からないけど、話だけ聞いてると無理かもー」

「絶対、それ裏あるでしょ。残念だなー、ちょっと気になってたのに」

「そうそう。だから、あんま関わらないほうがいいよってこと。あと、素直でいることが正義だと思ってるのか知らないけど、思ったこと普通に口にするから、優しくもなんともないよ」

「怖いわー」

「やだなー。教えてくれてありがとー」

遠ざかっていく足音。

私は、トイレから出るタイミングを失って、今の話を全て聞いていた。

こうやって、どんどんクラス中に泉くんの情報が広まっていったんだろうな。

人間って怖い。

そう言ってる君たちも裏が酷いくせに、と言ってやりたくなったが、そういう自分もまた、きっと腹黒いのだ。

自分から噂を発信はしないものの、噂話には好奇心で自ら耳を傾けていた気がする。

そんなこと聞いたって何も得しないのに。

堂々と扉を開けて、噂話を止めてあげればよかったのに。

でも、そんな力を私が持っているわけない、自信がない、傷付きたくない、怖い。

もうこれ以上自己嫌悪を膨らませたくないから、私は自分の目でしっかりと捉えるまでは、泉くんとの関わりを絶たないという判断をすることに決めた。

ゆっくりと扉を開ける。

誰もいないことに安心して、思わず、ため息が出た。

私は、ゆっくりと深呼吸をする。

腕時計を見ると、チャイムまで1分を切っていた。

教室まで走り出しながら強く願う。

どうか、泉くんの今の姿に偽りがありませんように。

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