父さんは拗ねたように口を尖らせる。
子供っぽいなんて言えないからつまらないよな。
息子よ…成長して…。と、頭を撫でようとするが、俺はスッと避けた。子供扱いするな。
実際話した事ないけど。と、付け足した父さん。
俺はズルッと滑りたくなる。
何処が好きなの?何処で告った?など、
息子の恋愛に興味津々な父親。
この立場は母親が多い気がするんだが…。
俺の前じゃこんなんだが、
会社の人達の前だとキリッと変わるんだから、
みんな騙されるわけだよ本当に。
俺は父さんの背中をぐいぐい押して、
無理やりドアの外に出す。
ショボーン…と、あからさまに沈む父。
俺は小さくため息をついた。
本当にいつかだけど。
そう思いながら歩き出す父を見送る。
危ない。これ以上質問されたらいらん事答えてた。
小さくそう呟いて、後ろを向く。
その瞬間、驚きで声が出なかった。
後ろを向けば、目の前にあなたがいるものだから、本当に焦る。座敷わらし見つけたみたいな。
俺はジィッと見られる視線から目を逸らした。
絶対嘘だってバレたよな。
何かのプレゼントかなー?なんてウキウキして、
両手を出せば、ドサドサッッ!と置かれる紙。
字をよく見れば、報告書やら何やら。
何が嬉しいのかニヤニヤし始めたあなた。
俺は、諦めたように死んだ目で微笑んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!