今日は四月一日、所謂四月馬鹿だ。此れ迄の四月馬鹿では太宰さんに完敗してきた私だが、今年は違う!今年私が太宰さんにつく嘘の内容は、「愛想を尽かして別れを持ち掛ける」だ。これ自体は在り来りだが、私の事を溺愛している(自分で云うのも何だが)太宰さんにはよく効く筈だ。だが、今年の私は一味違う!太宰さんは頭が良いから、私のつく嘘なんて簡単に見破ってしまう。でも面と向かって嘘をつかなければバレない筈!私と太宰さんは同棲している。何時もは私が太宰さんを起こして一緒に出社するのだが、今日は別れようと云う旨の置き手紙を残し、先に出社する。…ふふふ!完璧な流れ……!今年の四月馬鹿は私の勝ちね!
太宰視点
朝、あの子に起こされずに目が覚めた。何だが妙な気配を感じ居間へ行くと、あの子の姿は無く、机の上に一枚の紙だけが残されていた。
開いてみるとそこにはあの子の字でこう記されてあった。
「太宰さんへ
別れて下さい。こんな形になってすみません。でももう貴方の顔も見たく無いのです。付き合い初めは本当に好きでした。ですが、私以外の女性を心中に誘ったり、逢引に毎回遅刻して来たり、今に始まった事では無いのにそんな事も許容できない自分が嫌ですし、辞めてくれない太宰さんの事も嫌になったのです。此の儘の関係を維持しても、私が苦しむだけです。私の事が本当に好きなら、此の儘私を手放して下さい。 あなた」
背骨を氷に変えられた様な感覚だった。
急いで思考を巡らせる。あの子の云う私の駄目なところは、身に覚えがあり過ぎた。でも、あの子以外のご婦人を心中に誘うのはあの子に嫉妬して欲しいからだ。遅刻をするのは、あの子に心配して欲しいから。どれもあの子の注意を引くためにやっていた。だがそのどれもが、あの子を苦しめていたとは気付きもしなかった。
只々絶望だった。私はあの子無しでどう生きれば良いんだ?あの子も又、織田作の様に、
否、社に行けばあの子も居るはず。そこであの子を説得するんだ。そうすれば理解してくれるはず、だ。
あなた視点
書類整理を淡々とこなしながら、太宰さんの事を考える。
そうやって私の四月馬鹿計画を国木田さんに教えようとすると、社の扉が勢い良く開け放たれた。
国木田さんも私もギョッとした顔で太宰さんを見つめる。太宰さんは髪が何時にもましてぼさぼさで、服もぐちゃぐちゃ、包帯は所々解けて素肌が覗いている。顔にいつもの飄々とした感じは無くて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
太宰さんは私に近づくと勢い良く私を抱き締めた、と云うより遂に縋り付いた。
最後の方は涙が滲んで震えた声になっていた。先刻の科白を云う太宰さんは何時よりもちいさく見えた。カタカタと震え、私に縋る様はさながら雨に打たれる仔犬の様だった。
よわよわなだざむもいいよねって話です。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!