恋なんて、もっと簡単なものだと思っていた。
好きなら好き。
会いたいなら会いたい。
そんなふうに、心のままに進めばいいものだと。
先生に出会うまでは。
放課後。
ひとり教室で自習していた私のノートをヨンジェ先生は覗き込んだ。
そう言って笑う。
その笑顔が、ずるいと思った。
先生はいつもそうだった。
優しいのに、近すぎない。
ちゃんと見てくれるのに、決して踏み込みすぎない。
だから私は、いつの間にか先生のことばかり考えるようになっていた。
今日も、先生は何を考えているんだろう。
どんな音楽を聴くんだろう。
休日は何をしているんだろう。
好きな人は、いるんだろうか。
知りたい。
でも、聞けない。
そんなことを考えていたら、先生がふいに顔を上げた。
クスッと先生が笑う。
冗談だった。
本当に、ただの冗談のつもりだった。
なのに先生は少しだけ黙ってから、
そう言った。
その言葉が、なぜか胸に残った。
窓の外では、夕暮れがゆっくり色を変えていた。
私はまだ知らなかった。
この人を好きになったことよりも、
この人を好きなまま、自分自身を知っていくことのほうが、ずっと難しいことを。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。