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第2話

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2022/10/31 07:49 更新
「目が覚めたみたいやね」




「…ッ、大先生…」




ふわっと煙草の匂いを纏わせて入って来たのは、
他でもない大先生だった。

「あかんやんシッマ。折角長い間寝かしとってやったんやから、もっと体力回復せな」

「なん…」

そう言って、
近くにあった蝋燭をこちらへ向けて来る。

一瞬身構えるが、どうやら熱をこちらに届けやすくしているようだ。

「あったかい?」

…ふざけんな。

「ふざけんな!何でこんな…」

睨み付けて、初めて顔をしっかりと見た。

その瞬間、凍りつく。

「誰や…お前……」

頭からは黒い角が生え、耳先は尖り、あろうことか、両目の結膜はどす黒く染まっていた。

その反応を待っていたかの様に、
大先生…だと思っていた何かは口の端を歪める。

「シッマ、今日何の日か知っとる?」

「今日はハロウィーン、お化けの日やで」

「昔は虐げられて来た俺らも、今じゃ大分動き易くなったよ、時代の変化やな」

何の話かは分からないが、何やら1人語りを始めた。

「むしろ今日こそが俺らの本領発揮と言っても過言じゃないねん」

「だから、ずっと前から準備してた」

「コイツの体を乗っ取って、記憶も搾り取って、完璧を追求した」

「今日のこの日を待ちに待った、それは途方も無い時間をね」

段々と語気が強まる、気がした。
それと同時に、本来のコイツが垣間見えてくる。

「それなのに、」
「それなのにっ!」

「…バレたんだ、あのニット帽に」

「名前はそう…シャオロンとか言ったっけ」

…!?

「何でバレたんだろうね」

「昨日いきなり、『お前は俺らの知ってる大先生じゃない』とか言ってきやがって」

「そりゃあ、焦ったよ。まさかバレるとは思ってなかったから」

「だから、予定より少し早いけど、」
「抹消することにしたんだ」

……は…?

「人間ってホント面白いよね〜」
「勝てないの分かってるくせに何度も立ち上がってさ」
「『大先生を返せ』ーなんてほざいちゃって」

そうからからと笑って、徐に懐に手を入れる。

-カランッ

床に投げつけられた血のこびり付いたそれは、

豚の顔をかたどったピンバッジだった。


その途端、
自分の中で何かがぷつりと切れる音がした。

壁に埋め込まれた鉄塊を、力任せに引き抜く。

手首の血管の一部が千切れて肉が抉れる。

痛い、筈なのに、何も感じなかった。

自由になった両手で近くにあった燭台をぶん取り、思い切り足の鎖に突き立てる。

燭台は歪んだが、鎖は案外あっさりと砕け散った。

そのまま背後の壁を蹴り上げ、
正面の狂人に襲い掛かる。

勢いのまま首を掴み、
反対の壁に叩きつけた。

何やら足掻きもがいているが、その呻き声すら心地良かった。

そうや、そのまま苦しんで死ね。

殺してやる。

とその時、
歪な瞳孔が、こちらを真っ直ぐ睨め付けて言った。

「俺を殺したらさ、コイツの体、もう戻らないよ?」


!!!


卑怯だ。

一瞬握る力を弱めてしまった己を恨む。

ニタリと笑ったかと思うと、
腹を思いきり蹴られた。

反対壁まで吹っ飛ぶ。

肋の折れる音を聞いた。

追撃に備えて立ち上がろうとするが、
貧血と打撃のショックで視界が眩む。

その瞬間、
胸に激痛が走った。

何が起きたのか分からないまま視線を下げると、

自身の胸に深々と突き刺さった燭台があった。

視界にアイツのニヤけ顔がちらつく。

違う、アイツじゃない。
大先生はそんな顔で笑ったりしない。

言い聞かせるも、足に力が入らなくなり思わず膝をつく。

喉に衝撃を感じて咽せたら、
地面に吐かれたものは血だった。

倒れそうになるが、必死で手をついて堪えた。

燭台が地面と擦れて傷口が広がる。
あまりの痛みに悶絶しそうになる。

簡単に抜けないという事は、
恐らく貫通しているのだろう。

視界が陰る。

「だから、無理なんだって。人間如きが」

うるさい。

でも、勝てない。

耳に入る言葉を絶つ術を、俺は知らなかった。

「吸血鬼様に勝つなんて」

そうか、吸血鬼。

今更ながらのCOだが、考える気力も無く情報を飲み込んだ。

大先生も、シャオロンも、俺も、
こんな奴に負けたんか。

段々と意識が遠くなっていく。


「トリックオアトリート」


無理矢理、目線が吸血鬼の元へ向けられる。

触るな。

抵抗しようとしたが、腕は既に動かなかった。


「お菓子は無いから、いたずらだね」


狡猾に笑うその口元には、
鋭い牙が光っていた。

その牙が、首筋に迫る。


「ハッピーハロウィン、相棒」


それが、最後に聞いた言葉だった。

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