「おかえりなさいませ、光様」
光が黄瀬邸に入った際、
綾瀬率いるメイドや執事たちが発した挨拶だ
大抵帰ってきた際はいつもこんな感じで、最初こそビビったけど、今はもう大分慣れた
綾瀬「お荷物お預かりします、まずは旦那様にご挨拶を」
綾瀬とは、こうして話せるには話せるんだけど、周りのメイドや執事はというと…
メイド「夕陽様、お召し物のご用意ができました」
執事「夕陽様、次の会社の面会についてご相談が…」
執事「夕陽様、先方からメッセージが届いております」
ご覧の通り、みんな夕陽につきっきり。挨拶だけして、あとはみーんな夕陽の方に向かってしまう
綾瀬「いいえ。光様は放って置くと、勝手にどこかに行って勝手なことをしてしまうので」
親父と、不本意ではあるけど副社長の老人たちに軽く挨拶をしたあと、広々とした自室にいるのはあまりにも退屈だったので外の庭を歩くことにした
アレだけたくさんの執事やメイドの意見だけでなく、老人たちの意見まで対応していて…
次期代表が夕陽になって、大丈夫だろうかと不安視していた自分がいたけど…
庭を歩く足を急に止めた光の視線の先には、洋風の庭が広がっていた景色とは一変して、侘び寂びの効いた和風庭園がこぢんまりと広がっていた
そしてその庭園の隅に弓道場があり、光はそれを見ていた
和風庭園を歩き、弓道場に向かう
普段は鍵を閉めてる弓道場は今日は開いていて、中に入った瞬間聞こえた弦の音で、誰がいるのかわかった
光の存在を見た瞬間、弓道具一式をポイ捨てしてこっちにマッハで駆けつけてきた
ここの景色もすごい久しぶり…定期的に顔は見せてきたけど、ここに立ち入ったことは無かったからか、新鮮な景色だ
最奥に設置された的を見ると、二本ほど的を外して壁に突き刺さった矢が
そう、百発百中なのだ。
夕陽は、まるで吸い寄せられるかのように確実に的に矢を当てるのだ
どこまでも正確で、どこまでも冷静で…どこまでも人とは違う機械的なやり方
そんな夕陽が外すなんて、槍の雨でも降るのかと思うくらい驚きを隠せない
…杞憂…なのかもしれないな
夕陽は一人でなんでも出来ちゃうから、きっと誰かに相談とかもしてるんだと思うし…いざとなれば、側近の葛西とか黄瀬の執事やメイドたちが聞いてくれるかもだし…
本当は、大丈夫じゃ無い。
的を狙おうとした瞬間、あの時の光景が目に浮かんできて、スランプに陥ってるなんて…
黄瀬の名を背負う者としてこれ以上情けない姿を見せては行けない…誰にも頼っちゃいけない…何事も完璧にこなさなくては…!
夕食をかなり厳しいテーブルマナーを守りながら済ませた後、急に老人たちに呼ばれた
副社長「挨拶は丁寧になったが、口調は相変わらずだな…まぁいい…話というのはお前のことでな」
そう言い出すと、目の前に出されたのは複数の用紙に赤ペンでなにか書かれたものだ
だけどそれは…夕陽のテスト用紙だった
副社長「君の意思を問わずに回収してもらうように頼んでな…見ろこの結果を」
そんな…これ…
副社長「こほん…夕陽は学年上位に常に立ってもらわなくては、黄瀬の名に傷がつく。だというのにお前は夕陽をたぶらかしてゲーム部に入れたらしいな?」
副社長「何も無い空っぽの分際でよくもまぁここまで落としてくれたものだ…」
副社長「…選べ。お前が学園を辞めるか、お前の弟が学園を辞めるか」
僕か光が…学園を辞める…?
そんなのどっちも選べるわけない!!なんでそんな酷いことを…
副社長「夕陽はこれから次代の代表を担う役目を持つ選ばれた人間…選ばれた人間は選ばれた上のもの達によって大切に扱われるべきだ。だがな光、お前は違う」
おじいさまの目つきが一層鋭くなって、光を睨みつける
副社長「お前はな、悪だ。我ら黄瀬にあだなす滅ぼされるべき邪悪だ。何をしても結果を生み出すことができなかった何も持たない人間風情が、自由を得られるとでも?思い上がるのも甚だしい…!」
綾瀬「…っ…!」
エミヤ「待て、美遊」
綾瀬「しかし…!」
エミヤ「これは光の問答だ。光がどういう答えを出すのか、ここで見守りたい」
副社長「貴様のような悪から夕陽を守ることこそが、我らにとっての…」
副社長「正義だ!」
いけない…光がまた傷ついちゃう…悲しんじゃう…
ダメ…光はまだ、弱い人間だ
僕でさえおじいさまに押し潰されそうになってるのに、光じゃ…
その時、ダン!と音を立てて、光が一歩踏み出した
アレだけの言葉を、否定を、ものともせず
副社長「何…!」
光は…光は抗うの?
おじいさまの理不尽に、否定する言葉に…荒波のような正義に…
副社長「っ…やはりお前は、正義の鉄槌を下すべきだな…!ゴミめ!」
副社長「く、クソジジ…!?」
副社長「ほう…面白い…受けようじゃないかその賭け…生意気を言うようになった者だなあの泣き虫が…」
堂々と立ち去る光の姿は、まるで悪役で、正義のヒーローみたいだった。
あの時見た、全てに絶望して泣きながら怒りを叫んでいた光は、もうどこにもなかったんだ…
わからない…光に出来ることは、僕にもできて当然なはず…なのになんで…なんでいつも光は
僕の持ってないものを持ってるの…?
綾瀬「光さま…」
エミヤ「光…」













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。