第31話

彰人くんが可愛すぎる件(ニーゴver.)
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2025/03/07 12:24 更新
電気は付いているものの、少し薄暗いこの部屋に、パソコンのブルーライトが光眩しく部屋を照らした。
未だに整頓されていない部屋で、私ともう一人が窮屈に身を寄せ合いながら互いのパソコンに向かい合っていた。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
……奏
宵崎奏
宵崎奏
……あ、もうこんな時間か……
そのもう一人こと奏の名前を呼ぶと、奏は時計を一瞥し、いつもの定位置に腰を下ろした。
宵崎奏
宵崎奏
それじゃあ、始めようか
静かで凛とした奏の声を軽く聞き流し、控えめに頷いてから手慣れた動作でナイトコードに入って黙々と作業を始める。
宵崎奏
宵崎奏
あ、デモを少し調整したんだ。もし、雪がよければ聴いて欲しいな
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
うん
宵崎奏
宵崎奏
ありがとう。雪
最早、恒例となった平坦な会話を交わしながら私達は各々の作業に取り掛かる。
すると、ピコンとこの場にはそぐわない軽やかな音が静かなこの部屋に響いた。
暁山瑞希
暁山瑞希
『ごめ~ん!ちょっと遅れた!』
東雲絵名
東雲絵名
『私も、もう2人は作業してる感じ?』
宵崎奏
宵崎奏
『Amia、えななん、お疲れ様。わたし達もさっき始めたばかりだから大丈夫だよ』
他の三人が会話しているのを聞くともなく聞きながら作業を続ける。
宵崎奏
宵崎奏
『二人も、デモを調整したから聴いて欲しいな』
奏が手際よく操作してデモの音源を送信するのを横目で見る。
そのまま他愛ない会話を聞きながら作業を続けてると、ふとある人物が脳裏をよぎった。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『……えななん』
東雲絵名
東雲絵名
『え!?』
私が絵名を呼ぶと驚いたのか、甲高い声がキンと頭に響く。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『……なに』
東雲絵名
東雲絵名
『え、いや。あんたが作業してる時になんか話すの珍しいから……』
絵名の言葉に、瑞希と奏が同意の意を示す。
あまり意識したことなかったけど、みんなが言うならそうなのかな。
暁山瑞希
暁山瑞希
『そうだよ、すっごく珍しいよ!いやぁ~雪も成長したね〜!』
東雲絵名
東雲絵名
『いや、あんたは何目線なのよ』
このまま放っておくと、話が逸れそう。
いつものことだけど。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『話して良い……?』
東雲絵名
東雲絵名
『あ、うん。で、なに?』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『えななんの、弟さん……』
東雲絵名
東雲絵名
『は?彰人?』
まさか、私の口から絵名の弟さんに関する話題が出てくるとは考えてもいなかったのだろう。
心底驚いたように、絵名は聞き返す。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『うん』
東雲絵名
東雲絵名
『あいつがどうしたのよ』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『今日、弟さんと会った』
暁山瑞希
暁山瑞希
『え!弟くんと!?』
東雲絵名
東雲絵名
『は!?あいつと?』
二人が同時に話すと、分からないんだけど。
それに、声が大きい。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『そうだけど』
宵崎奏
宵崎奏
『そうなんだ、偶然だね』
私は言葉を発さずに頷いた。
暁山瑞希
暁山瑞希
『それで、弟くんがどうかしたの〜?』
興味津々、いや、何か悪いことを企んでいそうな声色で瑞希が話を促してくる。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『歌を、聞いて』
暁山瑞希
暁山瑞希
『歌?弟くんの?』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『うん』
暁山瑞希
暁山瑞希
『そっか~……』
一体何が残念なのだろう。
瑞希は少し、つまらなさそうに相槌を打った。
宵崎奏
宵崎奏
『雪は、その歌を聴いて、どう思ったの……?』
奏はいつもの常套句を私に問いかけてくる。
どう思った、私には難しい質問。
優等生の私なら、思ってもいないことをペラペラと口にするのだけど。
そんな私に奏は、真剣な瞳を送ってくる。
そんな思いを無下にするほど、私は薄情ではない……はず。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『分からない……』
そう、分からないのだ。
あの熱狂的な歌も、酔いそうなほどの歓声も、全部。
私の五感に触れた途端冷えて、たちまち燃え尽きてしまう。
そして、まるで何もなかったかのように淡々と時間が過ぎていく。
宵崎奏
宵崎奏
『……そっか』
私の答えに、奏は少し悲しそうに目を伏せ、優しく微笑んでくれた。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『……でも、………可愛かった……と思う』
宵崎奏
宵崎奏
『え?』
暁山瑞希
暁山瑞希
『ん?』
東雲絵名
東雲絵名
『は?』
私の言葉に各々が反応した後、ナイトコードは静まり返った。
どうしたんだろう。
いつもなら思い思いに口を開いてうるさいのに。
暁山瑞希
暁山瑞希
『……あはは〜。ボク聞き間違えちゃったみたい!雪、もう一回言ってくれないかな?』
Amiaにしては珍しく、言い淀みながらさっきの発言を繰り返してほしいと頼んでくる。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『……可愛い』
暁山瑞希
暁山瑞希
『……え〜っと、誰が……??』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『弟さん』
暁山瑞希
暁山瑞希
『聞き間違えじゃなかった……』
──何故か画面越しでもわかるほど肩を落としている瑞希。
東雲絵名
東雲絵名
『は?……え、え!?……は!?』
──独り言をブツブツと呟いている絵名。
宵崎奏
宵崎奏
『それは、ちょっと分かるな……』
──唯一首を縦に振ってくれる奏。
三者三様の反応を示しているみんなを、左から右へと聞き流す。
東雲絵名
東雲絵名
『え?あいつが歌ってるのってストリートでしょ!?』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『うん』
東雲絵名
東雲絵名
『な、なんでそれで可愛いって思ったのよ……』
確かに、ストリートと言う熱狂的で盛り上がる系統の曲を聴いても『可愛い』と言う思考にはあまり至らない。
だから絵名は、あの曲の雰囲気と私の発言が結びつかなくて困惑していたのかな。
少し言葉が足りなかったのかも。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『……ファンサ、みたいなのされた』
宵崎奏
宵崎奏
『ファンサ……?』
合ってるか分からないけど、ウィンクをされたのはファンサと言う認識で合ってるはずだ。
暁山瑞希
暁山瑞希
『んー。……弟くんがそんな事するイメージないけどな〜』
東雲絵名
東雲絵名
『ファンサってなにされたの?』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『ウィンク』
暁山瑞希
暁山瑞希
『え〜!?いいな〜ボクも弟くんにウィンクさ〜れ〜た〜い〜!!』
東雲絵名
東雲絵名
『そんなの知らないわよ』
さっきまでの珍しく静かな雰囲気は跡形もなくなり、いつもの賑やかなみんなに戻ってしまった。
……少し心地が良い気がするからいいけど。
東雲絵名
東雲絵名
『まぁ、あいつがそんなことしないっていうのには同感だけどね』
宵崎奏
宵崎奏
『そうなんだ……』
東雲絵名
東雲絵名
『そ。でも、あいつなりの優しさなんじゃない』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『優しさ……?』
東雲絵名
東雲絵名
『そうよ。どうせあんたのことだから無表情とか死んだ顔で見てたんじゃないの?』
言われてみれば、私は周りの人達みたいに歓声を上げたり音楽に乗ったりしなかった。
彰人くんから見れば、あまり楽しそうに見えなかった可能性もある。
折角楽しませようとしてくれた彰人くんになんだか申し訳ないな。
東雲絵名
東雲絵名
『……全く。だから、そんなあんたが少しでも楽しめるようにやってくれたんじゃないの』
そうだったんだ。
私のために、普段なら絶対にやらない様なことをやってくれたんだ。
そういうところがすごく、格好良くて可愛いんだよね。
それに、絵名も彰人くんの考えてることが分かるなんてやっぱり姉弟だな。
今回ばかりは、姉って感じがする。
東雲絵名
東雲絵名
『でも、やっぱり雪だけずるいわよ!』
暁山瑞希
暁山瑞希
『そうだそうだ〜!ボクだってやってほしいのに〜!!』
前言撤回。
絵名はうるさくて我儘。どっちが年上か分からない。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『日頃の行いじゃない』
東雲絵名
東雲絵名
『はぁ!?なによ!?』
宵崎奏
宵崎奏
『ま、まあまあ……』
奏も、こんな我儘放っておけばいいのに。
そんなことより、絵名の話を聞いて彰人くんのことが少し分かった気がする。
人のために行動することができて、自身に対して少し厳しい節がある、とか。
もっと彰人くんを知りたいな。
東雲絵名
東雲絵名
『あ、そう言えばAmia』
暁山瑞希
暁山瑞希
『なに~?えななん』
東雲絵名
東雲絵名
『彰人の寝顔、ゲットしたわよ!!』
暁山瑞希
暁山瑞希
『え、ほんと!?見たい見たい〜!!!』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『寝顔……?』
今、絵名は確かに彰人くんの寝顔と言った。
写真とかなのかな。
暁山瑞希
暁山瑞希
『お!珍しく食いついたじゃん!』
東雲絵名
東雲絵名
『なによ、雪も見たいの〜?』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『見たい』
宵崎奏
宵崎奏
『そ、即答だね……』
当たり前だ。
率直に気になる。
何気に、こんなにも心を突き動かされるのは初めてかも。
東雲絵名
東雲絵名
『まあ、あんたがそんなに食いつくのは珍しいからいいけど……』
戸惑い気味に絵名が呟くと、ピロンと軽快な音がパソコンから鳴った。
通知マークがついたチャットを開くと、絵名が一つのリンクを貼っていた。
リンクをクリックして、突然目の前に映し出された映像に思わず言葉を失う。
暁山瑞希
暁山瑞希
『うわ~!!可愛い〜〜!』
瑞希の言葉は、私の心をそのまま代弁してくれていた。
歌っている時にギラギラと鋭く光っていた綺麗な瞳は固く閉じられて伺うことはできないが、少し日焼けた健康肌に長い睫毛。
普段から手入れをしているのか潤っていて可愛らしい唇。
彰人くんの寝顔が液晶一面に広がっていた。
心の準備をせず油断しきっていた無防備な私に、今まで感じたことのない、未知の感情が押し寄せてくる。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
可愛い……
宵崎奏
宵崎奏
え……?
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『彰人くんってこんなに可愛いんだね。』
東雲絵名
東雲絵名
『私の弟だし当然でしょ』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『他に何かないの』
東雲絵名
東雲絵名
『ほか?彰人の写真ならあと何個かあるけど……』
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『送って』
東雲絵名
東雲絵名
『はいはい』
彰人くんのことをもっと知りたい。
彰人くんの可愛いところをもっと見たい。
ただその一心で、絵名に強請る。
暁山瑞希
暁山瑞希
『あはは!雪もすっかり弟くんの虜だね〜!』
当たり前だ。
あんな可愛い姿を見て虜にならないほうが可笑しい。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
『Amiaも人のこと言えない』
暁山瑞希
暁山瑞希
『まぁね〜♪』
軽口を叩き合いながら絵名から送られた彰人くんの写真を、釘が打たれたかのように眺める。
すると、すぐ傍から温かい視線を感じて奏の方に目をやった。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
……なに、K
宵崎奏
宵崎奏
え?あ、た、楽しそうだなって……
突然話しかけられて驚いたのか、少し言葉を詰まらせながら奏が答えた。
──楽しい。
奏に言われて気がついたが、彰人くんの話を聞いて胸がざわついたり温かくなったりしている……気がする。
これが楽しいって言う感情なのかな。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
……そうかも
私が肯定すると、奏は一瞬目を見開き、口元を弧に描いて目を細めた。
作業はほとんど進歩していないけど、こうやって談笑するだけなのも偶にはありなのかな。
彰人くんのことも沢山知ることができたし、みんなも楽しそうに会話をしているし。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
……楽しい、のかな
宵崎奏
宵崎奏
……?何か言った……?
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
別に……
──この時間がずっと終わらないでほしい。

そう思ってしまったのはここだけの話。
ちなみに、結局作業そっちのけで彰人くんの話に夢中になり気がついたら太陽が昇っていて何もせずにお開きになった。
朝比奈まふゆ
朝比奈まふゆ
永遠に語れる可愛い彰人くんが悪い
宵崎奏
宵崎奏
あ、あはは……


















彰人くんが可愛いすぎる件

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