慎side―――
俺は今、どこを走っているのかわからない。
ただ、あいつらから逃げている。
必死に。まだ7歳の龍と一緒に。
お兄ちゃん達は逃げきれているのだろうか?
心配しながら、俺たちは必死に逃げる―――。
俺たちは、人間だ。
今の日本は『獣人』が力を持ってるって、
1番上のお兄ちゃん、陣兄ぃが言ってた。
逆らったら殺されるらしい。
いや、殺されると言うより、俺たちみたいに
強制的に働かされるらしい。
俺は物心がついた時から、この薄暗い工場で
働いている。この工場は俺たち以外にも人間がいる。
何を作ってるのか分からないけど、
とにかく働かされる。
飯は昼だけ。硬いパンと薄い味付けのスープ。
ご飯が出るだけありがたいか。
そんなこんなで働いていたが―――
ある日―――、
だだっ広い工場の1部から、何か叩かれる
音が響いた。
叩かれたのは母さんだ。陣兄ぃが咄嗟に
支えに行く。母さんの手はボロボロ。
俺が生まれた時はまだあんなにボロボロじゃ
無かったのに…。1番幼いたっくんには
見せないように、やましょー兄ちゃんが
目を押えてあげている。
そう。逆らっても今殺されるだけ。
だから、陣兄ぃも、俺たちも何も言えない。
ほんとに…俺たち殺されちゃうの…?
獣人たちの笑い声が遠ざかるにつれて、
母さんの泣き声が大きくなる。
翔吾兄ちゃんと樹兄ちゃんは俺たちとは
違う場所で働いていたから、道がどこにどう
繋がってるのかわかるらしい。
そうして夜―――
遂に俺たちはこの工場を出る。
抜け道は翔吾兄ちゃんと樹兄ちゃんが
探してくれた。2人に案内してもらいながら逃げる。
無事に外に出られるか心配だけど、
やるしかない。
看守の獣人が人間が床に屍のように雑魚寝
している寝床の監視を終え、部屋から出たのと
同時に俺達も動き出す。
並び順は樹兄ちゃん、翔吾兄ちゃん、俺、龍、母さん、
やましょー兄ちゃん、健太兄ちゃん、たっくん、
陣兄ぃ。
そこからどんどん進んでいって、
空気も変わっていった。工場の中の空気は
濁ってて呼吸をしても気持ち悪かった。
でも、今の空気は澄んでいて気持ちいい。
初めて空気が美味しいと感じる。
だけどその時、たっくんが足元に落ちてある
木の枝を踏んでしまった。
バレた…?
いや、でも看守の足音は聞こえない。
そう思って安心していたら―――
看守に見つかったと同時に、外が見えた。
翔吾兄ちゃんの言う通り、俺たちは走る。
必死に。俺たちが走ってる時、工場の
サイレンはずっと鳴っていた。
耳障りな警戒音。俺たちが逃げたことを
全体に知らせるため。
それでも必死に。手足を動かして、
外を目指した。あともうちょっと。
その時、工場と外に繋がる大きな扉が
閉まり始めた。大丈夫。まだ間に合う。
けど、龍が転んでしまった。
俺は急いで龍に駆け寄り手を繋ぐ。
扉に向かおうとすると、もう半分以上が
閉まっていた。どうしよう。間に合わない。
俺たちと母さん以外は全員もう扉の外。
間に合わない…
ドンッ
いきなり背中を押され、俺と龍は転がるように
扉の外に出た。何が起きたのかよく分からない。
体を起こし、後ろを向くと―――、
看守に捕まった母さんが俺たちを見て、
微笑みながらそう言って扉が閉まった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。