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第1話

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2026/02/09 09:09 更新
「転生費五百万、ちょうどいただきますね」

静かな石造りの建物――“教会”と呼ばれる場所に、事務的な声が淡々と響いた。
ここは、貴族が生涯の伴侶を得るために必ず通る場所。
血と家柄を守るため、運命の相手を転生させることは義務であり、決まりだった。

白衣を着た職員は、まるで店員のように書類をめくりながら説明を続ける。

「年齢は二十六歳。攻撃性は見られませんので、しつけは比較的容易でしょう。
前世での精神的負担がかなり大きかったようですね。新しい環境に慣れるまでは、優しく接してあげてください」

その言葉を聞きながら――
日向は小さく息を呑み、肩をすくめた。

転生装置の光に包まれてから、まだ時間は経っていない。
心は落ち着かず、人の視線も声も、すべてが怖かった。

そんな日向の前に立っていたのは、一人の青年だった。

早乙女家の長男――早乙女 高人。

高人はじっと日向を見つめると、ゆっくりと歩み寄り、しゃがんで視線を合わせた。
その仕草は驚くほど穏やかで、けれど反論を許さない重みを伴っている。

「俯かなくていいよ。背筋を伸ばして、前を見るんだ。いいね」

その声音は静かで、胸の奥にまで届いた。

日向の体は条件反射のようにびくりと震え、
気づけば言われた通り、背筋を伸ばしていた。

「……はい」

それだけで、高人は満足そうに微笑んだ。

「君、名前は?」

聞かれただけなのに、喉が詰まる。
男の人が怖い――前世で刷り込まれた恐怖が、まだ日向を縛っていた。

それでも、必死に勇気を振り絞る。

「ひ、日向……柊 日向です」

絞り出した声は弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。

高人はその名を一度、ゆっくりと口にし、静かに微笑む。

「俺は高人。早乙女 高人。よろしく」

そして、当たり前のように告げる。

「俺のお嫁さん」

日向の心臓が大きく跳ね、世界が一瞬止まったように感じた。

恐怖のすぐ隣で――
初めて、ほんの少しだけ体が温かくなる。

高人はすっと手を差し出す。

「行こう、日向。今日から君は、俺が守る」

その掌は、信じられないほど優しい温度をしていた。

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