第14話

先輩に避けられています
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2021/01/08 09:00

更生計画の実践中、
先輩は突然真っ赤な顔で何も言わず
階段を駆け降りていった。


そして、その日から先輩からの連絡が
ぱたりと来なくなった。
椎名まこと
椎名まこと
(私、何かしちゃった?
それとももしかして風邪とか!?)

休み時間に来ていたLIMEの呼び出しもない。


***
まこと
先輩、もしかして風邪ひきました?
まこと
それとも何かあったんですか?
話ならききますよ!
まこと
やっぱりこういうのお節介ですよね…
まこと
ヒマな時連絡下さい
***


送ったメッセージはすべて既読スルー。

私、避けられてるのかな……?

大きなため息をつきながらふと廊下へ目を向けると
先輩の姿を見つけた。

椎名まこと
椎名まこと
先輩、お昼ご飯ですか?
よかったら一緒に
楠木大雅
楠木大雅
わっ!!

なぜか思わず逃げようとした先輩の前に
立ちはだかる。
椎名まこと
椎名まこと
どうして逃げようとするんですか?
楠木大雅
楠木大雅
うっ、いや、逃げてねーし
椎名まこと
椎名まこと
じゃあなんで
目あわせてくれないんですか?
楠木大雅
楠木大雅
そ、それはっ!
椎名まこと
椎名まこと
私、何か失礼なこと
しちゃいましたか?
楠木大雅
楠木大雅
それはない!
椎名まこと
椎名まこと
じゃあ、体調が悪いとか?
よく見たらまた目の下に隈が……
やっぱり寝てないんですね?

問い詰めるほどに先輩の頬は
徐々に赤く染まっていって​───。
椎名まこと
椎名まこと
顔が赤いですよ
熱があるのかも!
楠木大雅
楠木大雅
うわ!近っ

今にも逃げ出しそうな先輩の手首を掴むと
勢いよく振り払われた。
椎名まこと
椎名まこと
えっ
楠木大雅
楠木大雅
わ、悪い!

申し訳なさそうにそう言うと
先輩は私を置いて走り去っていった。
椎名まこと
椎名まこと
 やっぱり……避けられてる?
言葉に出してつぶやくと、ズキンと胸が痛んだ。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まことー!
椎名まこと
椎名まこと
わ!!

振り返るとほのかが
嬉しそうな顔で立っていた。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
今のこっそり見てたんだけど
もしかしてやっと恋人のフリ、終了?
椎名まこと
椎名まこと
え?違うけど……
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
じゃあいつまで?
恋人のフリなんて
ずっと続けるわけじゃないよね?

詰め寄ってくるほのかは
むっと頬を膨らませ、怒った顔。
椎名まこと
椎名まこと
うーん…どうだろう
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
でも先輩
あきらかに嫌がってたよね
椎名まこと
椎名まこと
そう……だよね
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
大丈夫?
先輩、まことのこと
飽きちゃったんじゃない?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
ほら、クズ男って飽きたらポイ!
すぐに次の女にのりかえるじゃん
椎名まこと
椎名まこと
でも先輩はクズじゃ……

そう、先輩はクズじゃない……はず!

あの放課後デートの日から、
私は先輩の本当の素顔にやっと少しだけ
近づけた気がしたのに……。

瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まあ別れたらすぐ教えてね!
って別れるも何も恋人のフリなら
付き合ってないか~

ほのかは鼻歌を歌いながら
教室へと戻っていった。

なんだか胸がもやもやする。

このままじゃお昼ごはんも
喉を通りそうにない。
椎名まこと
椎名まこと
(よし…!放課後はいつもの
裏階段に行ってみよう!)

先輩のお気に入りの場所だし、きっと
待ってれば来るはず!

かすかな期待を胸に私は午後の授業に集中した。



そして放課後。

ぎゅっと汗ばむ手を握りしめ、裏階段を登る。

夕日が差し込む階段には
運動部の掛け声がかすかに聞こえる。


するとふと先輩の声が聞こえた。
楠木大雅
楠木大雅
あ、おい!
椎名まこと
椎名まこと
せんぱ……い?

そこにはほのかと先輩の姿。

ほのかは先輩の手を握っていて、
先輩はそれを困ったようにただ見つめている。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まこと?
椎名まこと
椎名まこと
あ、あの……
お邪魔しました!!
楠木大雅
楠木大雅
ちょっとおい!
待てよ、しーな!!

先輩の声を無視して
私は慌てて階段を降りる。

目の奥からは熱い何かが込み上げてくる。
椎名まこと
椎名まこと
私の手は振り払ったのに……

目の奥にはさっきの光景がこびりついている。

どうしてほのかが先輩の手を?
どうして先輩は何も言わないの?

どうして私は逃げてるの?



どうして、どうして、どうして​────。

私はひたすらに階段を駆け降りた。

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