更生計画の実践中、
先輩は突然真っ赤な顔で何も言わず
階段を駆け降りていった。
そして、その日から先輩からの連絡が
ぱたりと来なくなった。
休み時間に来ていたLIMEの呼び出しもない。
***
***
送ったメッセージはすべて既読スルー。
私、避けられてるのかな……?
大きなため息をつきながらふと廊下へ目を向けると
先輩の姿を見つけた。
なぜか思わず逃げようとした先輩の前に
立ちはだかる。
問い詰めるほどに先輩の頬は
徐々に赤く染まっていって───。
今にも逃げ出しそうな先輩の手首を掴むと
勢いよく振り払われた。
申し訳なさそうにそう言うと
先輩は私を置いて走り去っていった。
言葉に出してつぶやくと、ズキンと胸が痛んだ。
振り返るとほのかが
嬉しそうな顔で立っていた。
詰め寄ってくるほのかは
むっと頬を膨らませ、怒った顔。
そう、先輩はクズじゃない……はず!
あの放課後デートの日から、
私は先輩の本当の素顔にやっと少しだけ
近づけた気がしたのに……。
ほのかは鼻歌を歌いながら
教室へと戻っていった。
なんだか胸がもやもやする。
このままじゃお昼ごはんも
喉を通りそうにない。
先輩のお気に入りの場所だし、きっと
待ってれば来るはず!
かすかな期待を胸に私は午後の授業に集中した。
そして放課後。
ぎゅっと汗ばむ手を握りしめ、裏階段を登る。
夕日が差し込む階段には
運動部の掛け声がかすかに聞こえる。
するとふと先輩の声が聞こえた。
そこにはほのかと先輩の姿。
ほのかは先輩の手を握っていて、
先輩はそれを困ったようにただ見つめている。
先輩の声を無視して
私は慌てて階段を降りる。
目の奥からは熱い何かが込み上げてくる。
目の奥にはさっきの光景がこびりついている。
どうしてほのかが先輩の手を?
どうして先輩は何も言わないの?
どうして私は逃げてるの?
どうして、どうして、どうして────。
私はひたすらに階段を駆け降りた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!