午前7時、ななっし〜が探偵事務所にやってきた。緊急の任務がない限り、彼女には7時から18時くらいまで事務所に通ってもらっている。
ななっし〜は2人分のお茶を淹れて持ってくる。お礼を告げると、ななっし〜はガラリと口調を変えた。
ななっし〜はもともと幼馴染だ。2人だけしかいない時は敬語を外すことにしている。
手元の新聞記事には、大きな見出しで「怪盗F、⬛︎⬛︎美術館にて素顔が明らかに」と書かれている。その下には、仮面をつけた状態の俺の顔がでかでかとプリントされていた。やっぱり完全に顔バレしたようだ。
下の方に、「同時刻に怪盗ウルフも犯罪か」という記事も載っているが、完全に俺の方がメインだ。これでは、次会った時『WOLF』に文句を言われる気しかしない。
ななっし〜は記事を眺めながら「いやー、やられたねぇ」と悔しそうに言った。
そう。俺とななっし〜は戦闘能力も高く優秀だからという理由で犯人を捕まえるところまで当たり前のように任されているが、これは本来警察の仕事だ。
ななっし〜はそう言って、新聞記事の中の俺の顔を指さした。
まぁ、確かに改めて3000万円の絵画を盗まれたとなると、美術館からしたら一生憎まれるだろうなぁ、とは思う。
テレビをつけると、ちょうどこのニュースが流れていた。どうやら美術館の館長がインタビューを受けているようだ。
そう言って、館長は泣き出してしまう。
適当に相槌を打ちながらテレビを見ていると、ピーンポーンとチャイムが鳴った。誰かが依頼するために訪問しに来たのだろうが、昨日も事件解決したばっかりなのにこんなに立て続けに依頼が来るのも珍しい。
ななっし〜が顔を引き締めて、「探偵助手」として出ていく。俺はテレビを消し、居間を片付けた。
しばらくして、ななっし〜が戻ってくる。来たのは、よく捜査協力している警察署の警察官だった。
俺は豈間警部に席を薦める。付き添いで来た警部の後輩、鳥間巡査が後ろに立った。ななっし〜がお茶を淹れるために台所へ行ったのを視界の端で確認しながら、俺は切り出した。
豈間警部は手に持っていた紙を見せてくれる。そこにはこう書いてあった。
とぅー・親愛なる▲▲宝石店の店長さん!
わこべろすー!みんな大好き怪盗ウルフなのだ!
昨日は盗みに行かせてくれてありがとねー!怪盗ウルフのことだしって油断してただろ!
さて、今日のターゲットは「藍玉の指輪」!
昨日よりちょっと高めの宝石だけど、そのままの警備でいいのかなぁ〜?笑
まぁ、どんな警備でもあたしの前には無力だけどね!
それじゃー、昨日と同じように深夜の3時くらいに会いに行くからお楽しみになのだ〜!
ふろむ・怪盗ウルフ
相変わらず「わこべろす」と意味のわからない挨拶から始まる、めちゃくちゃな文章の予告状だ。ToとFromの意味をわかっているだけマシだろうか。
でも、厳密的に言えば深夜の3時なのだから昨日ではなく今日。今日の犯行ではなく、明日の犯行である。
…しかし、俺はそんなことより、嫌な予感を感じていた。
豈間警部たちは、今までの依頼で怪盗ウルフのことを依頼したことはない。怪盗ウルフは強いが、俺の性格や能力上、予告状を出してくるスタイルで隠す気のない彼女のような犯行より、もっと緻密で悪趣味な犯罪の相手をして欲しいと依頼してくるからだ。
…ここで、『WOLF』の予告状を出してくるってことは…。
そのあと、豈間警部は、俺が懸念していた通りの発言をした。

【次回予告】
「店長も君を名指しだったんだ。頼む」
俺の大事な"仲間"だから。
(さて、どうなるかな?)
__〈- No.2 怪盗ウルフを捕まえろ- 〉2024/08/30 17:00投稿__
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!