瑠唯side
今にも消えそうな声で呟いた健太。
「助けて。」
俺が待っていた言葉。
今、健太を救えるのは俺だけだ。
俺がなんとかしなきゃ。
健太をおぶって歩くこと数分、漸く自宅に着いた。
歩いている途中、健太は俺の服をずっと握っていた。
健太は俺の家の玄関に入るなり、小さな声で言った。
俺はおぶっていた健太を優しく降ろした。
しかし健太は椅子に座らなかった。
代わりに頭を下げた。
黒髪の中に少し茶髪が混じった健太の髪が同時に垂れた。
俺が座ることを促すと、
健太は近くにあったダイニングチェアに腰掛けた。
しかし健太は俯いたまま、膝の上で拳を握っていた。
肩が震えているようにも見える。
正直俺は、初めて虐待を目の当たりにした。
大抵はニュースかドラマかの、
まぁテレビでしか見たことがなかった。
殴ったり蹴ったり踏みつけたり。
ニュースを見ながら俺は、
なぜ親は自分の子供に
こんなことが出来るのかなんて思っていた。
でも実際に目撃して、その考えは間違いだと気づいた。
親は好んで虐待をしているわけではないのだ。
だがしかし、
確実に世の中には意図的に虐待をしている親もいる。
そういう人の心がない化け物がいることは確かだ。
その一方で、
せざるおえなかった親も、この世には存在する。
俺は決して虐待をしている人の味方をするわけじゃない。
100%虐待は悪いことだ。
絶対にそんなことはしてはいけない。
あってはならない。
しかしせざるおえなかった親だけに
果たして本当に責任があるのだろうか。
俺は、そんなことはないと思う。
その人が虐待をしなければならない環境も、
それを生み出した人間にも
責任があるのではないのだろうか。
と言っても、
虐待といった間違った選択肢を選んでしまったことは事実。
悪いものは悪い。
健太が弱々しい声で俺に尋ねた。
こちらを潤んだ目で見つめている。
健太が勢いよく立ち上がる。
引いた椅子が音を立てて倒れた。
健太の手を握る。
一瞬ビクッと怯えた健太だが、すぐに受け入れてくれた。
健太の潤んだ目から、とうとう涙が零れた。
俺の手に落ちた健太の涙は、温かかった。
すると健太が俺の手を握る力を強めた。
ギュッと。
決して強い力なんかじゃない。
だけど俺には、とても力強く感じた。
健太はコクっと縦に頷いた。
部屋には健太の鼻をすする音と、
時計の針の音しか響いていなかった。
next…












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!