第14話

笑顔が感触が手が_#14
1,017
2020/06/20 01:05 更新
瑠唯side
神谷健太
助けて…
今にも消えそうな声で呟いた健太。
「助けて。」
俺が待っていた言葉。
今、健太を救えるのは俺だけだ。
俺がなんとかしなきゃ。
与那嶺瑠唯
とりあえず俺の家、行こっか。
健太をおぶって歩くこと数分、漸く自宅に着いた。
歩いている途中、健太は俺の服をずっと握っていた。
神谷健太
…久しぶり
健太は俺の家の玄関に入るなり、小さな声で言った。
与那嶺瑠唯
そうでしょ。
最近、来てなかったから。
神谷健太
うん。
与那嶺瑠唯
とりあえず、座ろっか。
俺はおぶっていた健太を優しく降ろした。
しかし健太は椅子に座らなかった。
代わりに頭を下げた。
黒髪の中に少し茶髪が混じった健太の髪が同時に垂れた。
神谷健太
ごめんなさい瑠唯。
こんなことに巻き込んじゃって。
与那嶺瑠唯
いやいや、頭上げてよ!
健太が巻き込んだんじゃないから。
俺が勝手に首、突っ込んだだけだし。
俺が座ることを促すと、
健太は近くにあったダイニングチェアに腰掛けた。
しかし健太は俯いたまま、膝の上で拳を握っていた。
肩が震えているようにも見える。
正直俺は、初めて虐待を目の当たりにした。
大抵はニュースかドラマかの、
まぁテレビでしか見たことがなかった。
殴ったり蹴ったり踏みつけたり。
ニュースを見ながら俺は、
なぜ親は自分の子供に
こんなことが出来るのかなんて思っていた。
でも実際に目撃して、その考えは間違いだと気づいた。
親は好んで虐待をしているわけではないのだ。
だがしかし、
確実に世の中には意図的に虐待をしている親もいる。
そういう人の心がない化け物がいることは確かだ。
その一方で、
せざるおえなかった親も、この世には存在する。
俺は決して虐待をしている人の味方をするわけじゃない。
100%虐待は悪いことだ。
絶対にそんなことはしてはいけない。
あってはならない。
しかしせざるおえなかった親だけに
果たして本当に責任があるのだろうか。
俺は、そんなことはないと思う。
その人が虐待をしなければならない環境も、
それを生み出した人間にも
責任があるのではないのだろうか。
と言っても、
虐待といった間違った選択肢を選んでしまったことは事実。
悪いものは悪い。
神谷健太
…これからどうするの?
健太が弱々しい声で俺に尋ねた。
こちらを潤んだ目で見つめている。
与那嶺瑠唯
児童相談所に相談してみる。
神谷健太
施設?
与那嶺瑠唯
そうだよ。
神谷健太
嫌だ。俺、施設になんて行きたくない。
与那嶺瑠唯
健太…あれは虐待だよ?
見過ごせないよ。
神谷健太
与那嶺瑠唯
ねぇ健太、一回相談だけしてみてもいい?
神谷健太
…お母さんが一人になっちゃう。
与那嶺瑠唯
えっ?
神谷健太
お母さん、俺がいないと死んじゃう。
与那嶺瑠唯
…健太はお母さんのために
生きてるんじゃないでしょ?
神谷健太
じゃあ瑠唯は見捨てろっていうの?
与那嶺瑠唯
神谷健太
瑠唯にとっては
ただの暴力母親かもしれないけど、
俺にとってお母さんはお母さんなの!
健太が勢いよく立ち上がる。
引いた椅子が音を立てて倒れた。
神谷健太
確かに痛かった、悲しかった、寂しかった。
お母さんが憎い、許せない。
でも!でも…お母さんだから!
俺が我慢してればいつか絶対
昔の優しいお母さんに戻ってくれる。
あの時のお母さんの笑顔が
俺の頭を撫でた優しい感触が、
一緒に繋いだ手が、
今でもずっと忘れられない…。
与那嶺瑠唯
健太…
神谷健太
ごめん…
与那嶺瑠唯
だけどね健太、
俺もこのまま健太を
あの家に帰すことは出来ないんだよ。
健太の手を握る。
一瞬ビクッと怯えた健太だが、すぐに受け入れてくれた。
与那嶺瑠唯
俺は健太のことを心配してるんだよ。
もちろん俺だってお母さんのことを
考えてないわけじゃない。
この結論はね、
健太とお母さんには最善の方法なんだよ。
健太の潤んだ目から、とうとう涙が零れた。
俺の手に落ちた健太の涙は、温かかった。
与那嶺瑠唯
健太、いい?
すると健太が俺の手を握る力を強めた。
ギュッと。
決して強い力なんかじゃない。
だけど俺には、とても力強く感じた。
神谷健太
…ぅん。
健太はコクっと縦に頷いた。
部屋には健太の鼻をすする音と、
時計の針の音しか響いていなかった。
next…

プリ小説オーディオドラマ