第2話

2.よく来るお客さん
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2026/02/24 12:00 更新
朝のシャッターを上げると、まだ少し冷たい空気が店の中に流れ込んだ。

蛍光灯をつけて、レジの電源を入れて、
新作のゲーム情報のチェックをする。

毎日ほとんど同じ動き。

でも、この時間は嫌いじゃない。

「よし」

小さく呟いて、棚に新しいソフトを並べる。
パッケージを正面に向けて、少しだけ角度を整える。

開店前の店は静かで、
ゲームの箱を触る音だけがやけに響く。

数分後、ドアの鍵を開ける。

カラン。

開店。

最初に入ってきたのは、小学生くらいの男の子だった。

「ねぇねぇお姉さん」
「このゲームって難しい?」

手に持ってるのは、少し前に流行ったアクション。

「んー、ちょっと難しいけどね」

しゃがんで、目線を合わせる。

「でも、ここまでできるなら絶対クリアできるよ」

パッケージの裏を指差して説明すると、
男の子は少し考えてから、うん、と頷いた。

「じゃあこれにする!」

「ありがと!」

レジを打ちながら、ちょっとだけ笑う。

ゲームを楽しそうに選ぶ人を見るのが好きだ。

昼を過ぎて、客足が少し落ち着いた頃。

レジ横のメモを整理していると、
ドアのベルが鳴った。

カラン。

顔を上げる。

――あ。

「あ、こんにちは」

思わず先に声が出る。

入口で少しだけ周りを見てから、
静かに店に入ってくるその人は、もう見慣れた常連だった。

「……どうも」

相変わらず少し小さめの声。

でも前よりは、ちゃんと目を合わせてくれる。

「今日は新作チェック?」

「まぁ…そんな感じです」

棚の前に立って、ソフトを眺める。

少しだけ近づく。

「これ、昨日入ったやつですよ」

手に取って見せる。

「難易度そこそこ、ストーリー重視。
たぶん好きなタイプだと思う」

「……あー」

少し考えてから、

「確かに好きそう」

小さく笑う。

最初に来た頃は、ほとんど会話もなかったのに。

今は普通に話してる。

むしろ。

たぶん、この人、ゲームの話になると長い。

「前言ってたやつクリアしました?」

「あ、しました」

「早っ」

「休みの日ずっとやってたんで」

「絶対そうだと思った」

思わず笑ってしまう。

そのまま、気付けば。

新作の話。
好きなジャンルの話。
最近のアップデートの話。

いつの間にか、また長話になっていた。

……この人、ほんとゲーム好きだなぁ。

「すみません、また長く」

「あ、全然。むしろ楽しいです」

本音だった。

ゲームの話をこんなにちゃんとするお客さん、そんなに多くない。

それに。

この人は、ちゃんと話を聞いてくれる。

ちゃんと悩んで買う。

ちゃんと遊ぶ。

だから、ついおすすめしたくなる。

少し迷ってから、

「じゃあこれにします」

ソフトをレジに置く。

「ありがとうございます」

バーコードを読み取る。

ピッ。

袋に入れて渡す。

「また感想聞かせてくださいね」

「……はい」

受け取ってから、少しだけ間。

そして。

「また来ます」

小さく言って、店を出ていく。

カラン。

ドアが閉まる。

……ほんとによく来るなぁ。

でも、不思議と嫌じゃない。

むしろ。

次はどんなゲームの話するんだろう、って。

少しだけ思ってしまう。

レジの上に残った、さっき触ってた新作の空箱。

それを元の棚に戻しながら、ふと考える。

――名前、まだちゃんと聞いてなかったかも。

まあ、いいか。

どうせまた来るし。

その時聞けばいい。

店の中はまた静かになって、
いつもの午後が戻ってきた。

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