朝のシャッターを上げると、まだ少し冷たい空気が店の中に流れ込んだ。
蛍光灯をつけて、レジの電源を入れて、
新作のゲーム情報のチェックをする。
毎日ほとんど同じ動き。
でも、この時間は嫌いじゃない。
「よし」
小さく呟いて、棚に新しいソフトを並べる。
パッケージを正面に向けて、少しだけ角度を整える。
開店前の店は静かで、
ゲームの箱を触る音だけがやけに響く。
数分後、ドアの鍵を開ける。
カラン。
開店。
最初に入ってきたのは、小学生くらいの男の子だった。
「ねぇねぇお姉さん」
「このゲームって難しい?」
手に持ってるのは、少し前に流行ったアクション。
「んー、ちょっと難しいけどね」
しゃがんで、目線を合わせる。
「でも、ここまでできるなら絶対クリアできるよ」
パッケージの裏を指差して説明すると、
男の子は少し考えてから、うん、と頷いた。
「じゃあこれにする!」
「ありがと!」
レジを打ちながら、ちょっとだけ笑う。
ゲームを楽しそうに選ぶ人を見るのが好きだ。
昼を過ぎて、客足が少し落ち着いた頃。
レジ横のメモを整理していると、
ドアのベルが鳴った。
カラン。
顔を上げる。
――あ。
「あ、こんにちは」
思わず先に声が出る。
入口で少しだけ周りを見てから、
静かに店に入ってくるその人は、もう見慣れた常連だった。
「……どうも」
相変わらず少し小さめの声。
でも前よりは、ちゃんと目を合わせてくれる。
「今日は新作チェック?」
「まぁ…そんな感じです」
棚の前に立って、ソフトを眺める。
少しだけ近づく。
「これ、昨日入ったやつですよ」
手に取って見せる。
「難易度そこそこ、ストーリー重視。
たぶん好きなタイプだと思う」
「……あー」
少し考えてから、
「確かに好きそう」
小さく笑う。
最初に来た頃は、ほとんど会話もなかったのに。
今は普通に話してる。
むしろ。
たぶん、この人、ゲームの話になると長い。
「前言ってたやつクリアしました?」
「あ、しました」
「早っ」
「休みの日ずっとやってたんで」
「絶対そうだと思った」
思わず笑ってしまう。
そのまま、気付けば。
新作の話。
好きなジャンルの話。
最近のアップデートの話。
いつの間にか、また長話になっていた。
……この人、ほんとゲーム好きだなぁ。
「すみません、また長く」
「あ、全然。むしろ楽しいです」
本音だった。
ゲームの話をこんなにちゃんとするお客さん、そんなに多くない。
それに。
この人は、ちゃんと話を聞いてくれる。
ちゃんと悩んで買う。
ちゃんと遊ぶ。
だから、ついおすすめしたくなる。
少し迷ってから、
「じゃあこれにします」
ソフトをレジに置く。
「ありがとうございます」
バーコードを読み取る。
ピッ。
袋に入れて渡す。
「また感想聞かせてくださいね」
「……はい」
受け取ってから、少しだけ間。
そして。
「また来ます」
小さく言って、店を出ていく。
カラン。
ドアが閉まる。
……ほんとによく来るなぁ。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ。
次はどんなゲームの話するんだろう、って。
少しだけ思ってしまう。
レジの上に残った、さっき触ってた新作の空箱。
それを元の棚に戻しながら、ふと考える。
――名前、まだちゃんと聞いてなかったかも。
まあ、いいか。
どうせまた来るし。
その時聞けばいい。
店の中はまた静かになって、
いつもの午後が戻ってきた。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!