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第1話

1.その報告は、突然に
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2026/02/23 12:00 更新
「はいこんにちはー」

軽いテンションで始まる動画。
いつものように聞き慣れた声が響く。

おすすめに出てきたから、なんとなく再生しただけだった。
正直、最後まで見るつもりもなかった。

「ということで今回は最近あったいい事選手権します」

画面には続々とコメントが流れ始める。

〈××〉8888888
〈××〉きたあああ
〈××〉神企画
〈××〉いぇーーい

「まぁ始めましょう。じゃあ順番に聞いてくわ」

メンバーが一人ずつ呼ばれていく。

誰かがゲームのランクを上げることができた話。
誰かがガチャで当たりを引いた話。
どうでもいいような、でもちょっと平和な話。

このまま流し見で終わるはずだった。

倍速にしようかな、と少し思いかけた時。

そして――

「次ーは…えっと、わど」

一瞬だけ間があく。

ほんの数秒。

でも、その沈黙が妙に長く感じた。

そして。

〈wad0_〉彼女できた

コメント欄が一瞬止まる。

本当に、一瞬だけ。

……次の瞬間。

〈××〉は?????
〈××〉え?????
〈××〉まじ????
〈××〉嘘だろwww
〈××〉ざわ…ざわ…

「え、ちょっと待って待って待って」

kunの声も思わず笑い混じりになる。

「情報量多すぎだろ今の」

〈wad0_〉ほんと
〈wad0_〉最近

〈××〉ガチやん
〈××〉事件発生
〈××〉相手誰

「いや普通にすごくない?おめでとうじゃん」

〈wad0_〉ありがとう

短い返事。

でもどこか、少し照れているみたいだった。

「ちなみにどんな人?」

少しだけ、間。

そして。

〈wad0_〉優しい
〈wad0_〉あとゲームに詳しい

――その瞬間。

コメント欄が爆発した。

〈終わった俺ら〉
〈無理無理無理無理〉
〈聞きたくなかった〉
〈優しいかわいいは最強だろ〉
〈もう勝てないじゃん〉
〈俺の青春どこいった〉
〈泣いた〉
〈幸せになれよちくしょう〉

冗談半分の叫びばかりなのに、
逆にそれが、本当の話なんだと実感させる。

界隈の誰かじゃない。

企画のネタでもない。

もっと普通の、
もっと現実の誰か。

そんな話し方だった。

動画はそのまま進んでいく。

でも、もう他の話はほとんど頭に入らなかった。

ただぼんやり聞き流しているうちに、動画は終盤に差し掛かる。

その時。

画面の中で。

「まぁでも幸せそうで何よりだわ」

笑い声。

わどは短く、

〈wad0_〉まぁね

それだけ。

本当に、それだけ。

なのに。

やけにリアルだった。

配信ネタでも、
企画でも、
ネットの関係でもなくて。

ちゃんと生活の中にいる誰か。

その空気だけが、静かに残る。

――そして。

動画が終わる。

関連動画が並ぶ。

でも再生しない。

代わりにコメント欄を開く。

動画のコメントは、その話題でもちきりだった。

〈最近わど外出多いって言ってた〉
〈前に店行ってたって言ってたよな〉
〈ゲームショップ通ってる話あった〉
〈店員と仲良いって言ってた回あったよね〉

……あ。

そういえば。

少し前の配信で。

「よく行く店ある」って話してた気がする。

新品も中古も置いてて、
店員がゲーム詳しくて、
つい長話になるって。

あの時は、ただの雑談だと思ってた。

でも今思うと。

もしかして。

――そこから始まったのか?

コメント欄の一番上。

「店員さん説濃厚じゃね?」

そのコメントに、やたらいいねが付いていた。

スクロールする。

「前から話してたよな」
「ゲームショップの人」
「絶対そこじゃん」

……なんか。

ただの動画だったはずなのに。

次の投稿が、妙に待ち遠しくなっている。

たぶんこれは。

ただの雑談回じゃなくて。

――物語が動き始めた回だった。

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