第8話

鬼ぎり
218
2022/03/23 10:14 更新
母さん
母さん
あーた…本当に目が腐ってるんじゃないの?
ぞくり。
いつもとは真剣味が違う母さんの声。

げっ、母さんが今度こそ本気で怒った…?
母さん
母さん
私の顔が、鬼に見えるですって!?
思わずずっこけそうになった。
うん、それは合ってるよ父さん。
父さん
父さん
ああ、今にも豆をぶつけたら泣いて逃げ出しそうだ
ばっー
母さん
母さん
あーたっ!
ガシャーン!

皿が割れる音。
恐らく母さんが皿を投げたのだろう。
ああ、女って怖い。

もう…本っ当父さん馬鹿。
母さん
母さん
…楽!
ひいっ!

は、はいっ!
橋本楽
橋本楽
な、何ー?
母さん
母さん
ちょっと降りて来なさい!どうせ休日だからってぐうたらしてるんでしょ!?
え、何僕何かした!?
それに降りられないのは母さん達のせいだろ!

もし断ったら…うん、想像しないでおこう。
橋本楽
橋本楽
はいはい
しぶしぶ階段を降りた。
 
母さん
母さん
楽、あーたもそろそろ高校とか決めなきゃいけないと思うのよ
ソファーでうつ伏せになってる父さんは無視。
橋本楽
橋本楽
あーそーだね
志望校?何、そんなの知らない。
「将来宇宙飛行士になるんだーすげぇだろ!」とか、
「私ねー、この前英検1級受かったの!」とか。
くだらない。
テキトーに働いて、食っていければそれでいい。
そんな名誉とか誇りなんて、いらない。
恥ずかしくなんかない。
むしろテンプレートな生き方でないのを褒めて欲しい。
食べたい時に食べて、寝たい時に寝て、生きたい時に生きて、死にたい時に死ぬ。
そんな人生が送れたら、どんなにいいだろ。
僕は正直、明日よりも今のために生きたい人間だし。
母さん
母さん
だからね、
今が楽しけりゃ、明日なんてどうでもいいだろ。
母さん
母さん
東高をちょっと覗きに行ってきたらって
は?
橋本楽
橋本楽
…え
東高って確か…響が通ってるとこだったよね?
母さん
母さん
楽の頭的にも、ちょうどいいと思うの。ちょっと頑張れば入れる偏差値だもの
…何気に僕を馬鹿にしてないか?
確かにテストの重要性が分からなくていつもテキトーだけどさ。
母さん
母さん
ほら。
バス賃あげるから、行ってらっしゃい
野口英世が描かれた札を僕に押し付け、背中をグイグイ押してくる。

あっ、おいちょっと。

背中に、
父さん
父さん
奏さん…
という声が聞こえた。

途端母さんはボクから離れ、
母さん
母さん
あーたっ!
…くだらなすぎる。
どうしようかな、これ。もう外に出るしか僕には選択肢はないみたいだし。
せっかくだし、行ってみるか。
東高周りまで。
かかとを履き潰したスニーカーに足を突っ込む。
父さん
父さん
奏さん……奏さん…!奏さぁぁん!
まじ黙ってろ父さん。過剰なアイドルオタクかよ。
母さん
母さん
あーたぁぁぁぁ!
あーもう僕しーらない。さっさと出かけよ。
父さん、お疲れ様でーす。

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