第16話

おにぎり消えて。君も消えて。
114
2022/04/14 08:04 更新
アスファルトを歩きながら、葬式での奏さんの言葉を思い出す。
オーナー
オーナー
響はね、最近毎朝2つ、おにぎりを作ってて。凄いびっくりしちゃった
あれは楽君のことだったんだね、と微笑む。
橋本楽
橋本楽
でしょうね。おにぎりやのおにぎりの味は甘すぎずしょっぱすぎずちょうどいいのに、響のは凄ーくしょっぱくて
家帰って食べた時はびっくりしたなあ。
オーナー
オーナー
響…病院で少し落ち着いた時に、嘆いたの
オーナー
オーナー
楽君と会えて、幸せだった!今にも私のそばにいて欲しい。だけど後を考えたら残酷…
そして。あの言葉を。
龍造寺響
龍造寺響
楽君には、会えない!そもそも…っ、おにぎりがなければ楽君と関わりを持つこともなかったのに!楽君は連れてこないで!おにぎりも、楽君も私の目の前から消え失せて!
とても、イメージ出来る。
橋本楽
橋本楽
…違う意味ですけど
橋本楽
橋本楽
僕の前からも、響もおにぎりも消えちゃいましたね…
俯きながら床の模様を眺めていたら、ぎゅっと手を握ってくれたんだ。
オーナー
オーナー
…そうだね……
それきり何も喋らなくなって。
この日のことは、一生忘れないと思う。
満開だった桜は散ってしまって、足元に薄ピンクの花びらが落っこちていた。

公園に辿り着いたと分かって、ベンチに顔を向ける。
…誰だ、あれ。足が長くて、茶色の髪で、しょんぼりした顔で空を見つめている。
橋本楽
橋本楽
…組長?
こんな遠くから僕の声が届いたのか、ふっとこちらを見た。うん、間違いなく組長だ。

でも、どうしてここに──?
橋本楽
橋本楽
どうした?
歩み寄って隣に腰掛けると、悲しそうに目を伏せた。
組長
組長
私…学級長、やりたくない
橋本楽
橋本楽
は?
組長
組長
私、立候補した訳じゃないの。推薦
あれ、そうだっけ…?


あーでも僕みたいに、誰も覚えてないんだろう。きっかけなんてすぐ忘れるし。
組長
組長
誰も…私のこと、名前で呼んでくれなくて。それは…学級長を務めてるからなんだろうなって…
…皆、「組長」としか呼ばないもんな。組長にとって、「組長」と呼ばれるのは嫌だった、という訳か?

凄いややこしいけど。
組長
組長
皆、私の名前覚えてないでしょ?そんな人が学級長で、ほんとにいいのかな?
橋本楽
橋本楽
でも、僕は
組長が組長で良かった。


そう言いかけて言葉に詰まった。
違う。違う。そうじゃない。組長の名前は──。

そして、改めて敬意を込めて語りかける。
 
橋本楽
橋本楽
伊織
 
組長
組長
え…
橋本楽
橋本楽
伊織が、学級長で良かったって僕は思ってる
伊織が目を見張る。
橋本楽
橋本楽
おい、伊織紫苑!
僕が伊織の名前を知っていたことに、おどろいているのか。顔を見上げたまま、動かない。

…長い…な。気絶してる?大丈夫かな?
その時、大きく見開かれた伊織の瞳から、ぽろっと涙がこぼれた。


一粒きりのきらきら輝く雫。
それがすーっと落ちていく。
組長
組長
…はい
橋本楽
橋本楽
一緒におにぎり、食べよう
整った眉根が怪訝そうに寄せられる。
橋本楽
橋本楽
知ってるか?ご飯食べると、人って元気が出るんだよ!
組長
組長
…失恋した子に、教わったの?
ぎくり。
どーしてそんな鋭いんだよ!
橋本楽
橋本楽
…その子の代わりに、僕の隣にいてくれ
組長
組長
っ…それ、立派な口説き文句なの、分かってんの…っ
え?
組長
組長
あーもう早く食べよーよっ!
顔真っ赤にしながら催促。
…何がなんやら…
橋本楽
橋本楽
…うん。あ、味褒めたら苗字じゃなくて名前で呼んであげるよ
組長
組長
なんでそんな上から目線なのー!
12時を告げる公園の時計。
それらを囲むように、紫百合が咲き誇っていた。
 
響。
とりあえず、今は毎日楽しいとだけ伝えておくよ。君のおかげでね。

僕の初恋を奪った責任は、ちゃんととってもらおう。
 
それと───。
紫苑。
明日。12時に、公園で。
 
END

プリ小説オーディオドラマ