前の話
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カーテンから朝日が入り込んでいる。
眩しい光に当てられながら、私は部屋を出る。
パジャマのまま、学校の制服を持ち部屋を出て、ゆっくりと風呂場に向かう。
今年から高等部二年生。新学期入って初授業がある今日は、お弁当を作らないといけないなど、何かと忙しい日である。
目をこすってパチパチとする。
朝風呂に入り着替え、鏡で髪を整える。
腰を越え、膝辺りまで伸びた髪は、保湿やら何やら、きれいに保つのが大変だ。
ポツ……ポツ……と独り言を言ってしまう。
私の名前は輝夜月美だ。魔王、輝夜麗羅の娘であり、エルフ族の一人である。
少しの移動にも息が切れてしまうほど、身体が弱い。
私は魔力量が生まれつき多く、満ち溢れる魔力に耐えられなかったことによって、身体が弱くなってしまった。
少しの移動、と言っても、この屋敷はとても広く、一個一個の部屋が広いので、普通に移動は大変だ。
長い長い廊下を歩いていると、妹に会った。
輝夜風美。私の妹で、今年で中等部二年生である。
少し馬鹿なところがあるが、それもまた可愛い子だ。
私の白っぽく、少しくすんだ薄紫色の髪をとは違い、柔らかな金髪で性格は明るく、一言で言えば天真爛漫!と言う感じの子だ。
にこっと笑顔でそう言う。彼女は笑顔がチャームポイントだ。
明るくて可愛い女の子が好きな人、ぜひとも一回は見てほしい。
吸血鬼で超夜型な私の双子の兄、[[rb:輝夜雷羅 > きりやらいら]]は、極度のめんどくさがり屋である。
朝は特に、夜型だからしょうが無いが、なかなかベッドから出てこなかったり、悪い日はまず起きてすらいなかったりする。
私が呆れながらそう言うと、ボンッと頭に手を置かれる。
見なくてもわかる、明らかに雷羅だ。
赤っぽい影の白髪、吸血鬼特有の真紅の眼。
これが雷羅である。耳にバチバチにピアスをしている所が、特徴的だと思う。
正直信じてはない。だってありえないもの。
私の記憶にある雷羅はね?「ねみぃ……。むり……」とか、「きゅうけつきに……じんけんを……」とか意味わからんことまで言ってるからね?
シンプルに謎だよ。なに吸血鬼に人権をって。
そもそも人じゃないから人権をって書かないんじゃない?
「吸血鬼権」が正しいのでは?
一斉に去るみんな。私は一人、キッチンへと向かった。
キッチンに入ると、一人の女の子がお弁当作りをしていた。
彼女は天月希。中等部一年生の頃に出会った、有名な天使一族の女の子。
天月一家は攻撃一家、守備一家、治癒一家に分かれていて、彼女は治癒一家の子だ。
有名で大きな一家ではあるが、それこそ私が中等部に入る少し前くらいに崩壊しかけている。
特に治癒一家は酷くて、生き残りはおそらくこの子、希ちゃんと、この子の妹である明ちゃんだけだろう。
住む場所がなくなってしまった彼女たちを私が中等部の時に匿い、今もメイドとして二人には働いてもらっている。
とはいえ当時の明ちゃんは小学生だったので、明ちゃんがメイドとして働き始めたのは去年、中等部に入ってからだ。
私はエプロンつけて、冷蔵庫を漁りだす。
卵を取り出して、ボウルの中に割り入れたら、塩こしょうと出汁をいれた。私達はだし巻き玉子派だ。
人数が多いため、卵焼きは回数分けてニ個程度作らないと足りない。
一人大体ニつか三つ程度入れることが多いのだが、数がみんな同じになるように心がけている。
やはり平等が一番だと思う。まあ、好きな食べ物とかは多めに入れてあげて良いと思うけどね。
そういえば私の家には、料理をすると必ずしもゲテモノを作り出す風美という天才がいた。
雷羅は料理出来るけど少しだけだしなぁ……。
なんか、まともに料理できてる人私しかいないなぁ、私の兄妹。
「ちょっと意外かも」なんて思いながら料理を進めていく。
手を止めずテキパキと料理を作っていれば、案外早く終わった。
ちなみに明ちゃんは風美の制服や髪の毛を整えてくれたらしい。
普通に有り難い。いつもありがとう、明ちゃん──。
三人はそう言いダイニングに入っていく。私もいつもの席に座り、一斉に「いただきます」とみんなで言ってはご飯を食べ始めた。
良い香りにサクリとなる良い音。とても美味しいいつもの朝食だ。
朝ご飯はパンというのが当たり前だったので、ご飯は基本出さない。
お米が余っているとおにぎりを作ったりするが、まあ基本パンだ。
今日も元気よくそう言っている。いつもと同じようなものなのに、いつもいつも美味しいと言ってくる風美にはとても感謝している。
普通に嬉しいだけだ。言葉で伝えてくれる風美の素直さは本当に凄いと思う。
私はとある先輩を尊敬している。去年卒業してしまった先輩なんだけど、優しくて可愛くてカッコいい先輩だ。
私の通う輝夜学園の、元生徒会長である。
名前は霞夜零斗先輩。髪が長くて、常に敬語なのが特徴的だ。
零斗先輩も楼月先輩も私が中等部三年生の頃に卒業してしまっており、今年で20歳になる。
また会えたらいいなぁと少し思っているが、会えないことはない。
20歳で楼月先輩は国王になる予定だから、仕事なんかで魔王城に訪れた時に会えるだろうし、零斗先輩は楼月先輩の執事だから、一緒に会えることが多いだろう。
とはいえ、ここは魔王城ではないから、中々会えないかもしれないけれどね。
さっきから話を見ていてわかっただろう。ここには父や母達両親はもちろん、魔王城になら大量にいる従業員たちもいない。
なぜなら私達は別居しているから。嫌いとかではなく、風美が中等部に入るタイミングで私達は家計の理由で別居しなくてはならないのだ。
もう慣れたからいいが、初めはキツかったのを覚えている。
いつの間にか朝食が終われば、私も部屋に支度に行く。
いつもは能力を使って移動する長い長い廊下や階段も、何故か今日は歩きで移動していた。
だからだろうか。息を切らし「はあ、はあ」と歩いていると、声が聞こえてくる。
正体は分かっている。私と契約で繋がっている、守護神、月埜鈴葉だ。
私と同じ年齢だが神様で、私のことを契約内容に記入されていることが起こった場合にのみ守ってくれる。
私が声を震わしそう言うと、少しキレ気味の声を出す。
歩いたら怒られるってなんだろ……。
ちなみに私と鈴葉の契約内容は、「私が体が弱い関係で倒れた時に鈴葉が守ること」だ。
もっと言えば、これ以外で倒れた時や、勝負中には守ってくれないし、助けてもくれない。
ちなみにこれ以外で倒れた、をもっと具体的に言うと、魔力不足で倒れた、等だ。
頭の中が何故か少しパニック状態になる。いつもはならないのに、どうして?
震えた声でそう言い、部屋まで能力で移動する。
能力が「時空」である私は、時間と空間を操ることができる。
瞬間移動も、魔法で魔力を使って行うのではなく、能力で無償で行えて便利だ。
少し過呼吸になりかけた私を見て、鈴葉が姿をとうとう現した。
「はあ」と一息ため息をついてから、私の体の前にスッと手を出す。
私を囲う光は暖かく、心地良い。
とても安心する光で、ずっとこの光を感じていたい、そう思うようなものだ。
軽くなった体で、私は軽く体を動かす。
少々ツンデレ気味だが心配してくれる鈴葉はとても優しい。それに感謝している。
私は鈴葉に癒してもらった体で支度を始め、支度が終われば、みんなと学園に向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。