第3話

③約束
17
2022/07/26 18:17
 サユリとクロバが風呂から出てくると、お父さんとお母さんが深刻そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「サユリとクロバ、話をして良いか?」
「う、うん」
「実は…サユリがした契約内容で、対等契約をしたみたいだけど魔物と人の対等契約は少なくともお父さんの知る限り一度も無かったんだ。それにお父さんとお母さんはこの村よりも遥かに栄えていた中央都区からここに引っ越したんだけど、その中央都区には教会というものがあってその所は魔物を一番敵対視する勢力なんだ。」
 私は少しして理解した。もしかしたらその教会とやらの人達がここに来て何かされるのでは?と。
「じゃあ私とクロバはどうなるの……?」
「……多分とても辛い罰を無理矢理受けさせられる。」
「………」
「…サユリ…貴方とクロバちゃんは逃げてほしいの。」
「お母さん…お母さんとお父さんも一緒に逃げようよ!逃げて隠れて暮らそうよ!そうすれば…そうすれば………うぅ。」
「俺とお母さんは元々強い人だったんだ。だからサユリとクロバが逃げ切れるまで時間を稼ぐ。サユリにはクロバがいる。サユリができない事はクロバが。クロバができない事はサユリがサポートして生き延びて欲しいんだ。」
 私が今ここで弱音をまた吐いても逃げるための準備が遅くなるだけだと思った。そして溢れそうな涙を拭って……。
「……わかった。頑張って逃げる。でもお父さんもお母さんも私が逃げたの確認したら追いかけて来てね。」
 お父さんは少し間を空けて泣きそうなのを堪えているような声で。
「………あぁ必ず。」
 
 * *
 
 野宿に必要な道具などを揃え終えた時。
「……サユリ。この道具たちをクロバちゃんに持ってもらいましょう。」
「そうだね。クロバお願い。」
(わかったよ。保管喰い!)
 クロバの合図で一気に床に置かれていた道具たちを飲み込んだ。
「サユリ。いつも使ってるカバンに耐久強化と、所有者保護の魔術を組み込んどいたから持っていきなさい。」
「うん。クロバ、このカバンの中に入ってて。」
 クロバをカバンの中に入れると。
「サユリ。今からクロバに俺の最高級の加護を与える。サユリはお母さんの最高級の加護を与えるから、これが俺とお母さんの最後のプレゼントになるかもしれない。」
「もう……そんな事言わないでよ。また会うんだから。」
 お父さんはニッコリと柔らかく微笑んだ。
「そうだな。少し弱気になってたみたいだ。ありがとう。」
「サユリ、加護をかけるわね。」
「うん」
 お母さんはすぅっと深呼吸をして。
「技能力名[魔技術神の加護Ⅴ]をサユリに使用する。」
 そう言った途端に私の周りに光が集まり温かく感じた。
「技能力名[剣舞神の加護Ⅴ]をクロバに使用する。」
 クロバにも光が集まっていた。
「これでサユリには無限の魔力を持つことができ。」
「クロバには戦いの中での動きが最適化。さらに武器の扱いの練度が格段に上がった。」
「ありがとう。とても心強いプレゼントだよ。」
「どうせ教会のことだ、じきにすぐ来るだろうから。もう家を出なさい。」
「…………うん。じゃあね、行ってきます。」
 「「いってらっしゃい。」」
 そうして私は家を出ていった。森へ向かって走る最中もずっと前が歪んで見えてしまった。
 
 * *
 
 サユリが出てから三十分後。
 ドアを叩く音が聞こえた。
「俺が出る」
 そう言ってドアの前に行った。
 ガチャ
「はい」
「これはこれは剣聖殿ではないですか。」
「何の用だ?」
 身なりからして階級が高い。今の俺とあいつじゃ殺す気でやらないと逃げられないか。
「いえ、特にこれと言った用では無いのですがね、この村に魔物と契約した子供がいるみたいなのですよね。」
「子供なのに良く契約できたな。」
「そうですよね。それならとても将来優秀でしょうけど、問題は契約内容が対等を選んでいるんですよね。」
「対等か、確か世間では対等契約は違反だったか?」
「そうですよ!そして教会の本部から捕らえてくるようにと言われましてね。どこにいるか知りませんかね?」
「さあな。他の家にも聞いてみたらどうだ?」
 と、言いながら他の家を見回したが何処も明かりがついていない。
「皆さん知らないっておっしゃったのでとりあえず村の中央に集まってもらっているのですよね。」
(この家の周りに武装した騎士が十五人。こいつも含めると十六だが、もう気付かれてるか…?)
「だが集めたって皆んな知らないなら無駄骨では無いかね?」
「そうなんですよね。ですが一度皆さんにお話をしたいので来て頂けますか?」
 その話だけで終わるならと思って頷こうとしたら。
「お子さんも連れて。」
 「「っ⁉︎」」
 こいつ俺達の子供がやった事だとわかっている!
「い、今祖父母の家に行ってるから居ないんだ。」
「そうなのですか。ご近所からは今日丸い水色の球を持ちながら帰っていると聞きましたがね。」
 だめだ、これ以上何かを言っても無意味だ。
「本当にそうなのか?何かの見間違いで違う子じゃないのか?」
「見間違えなかったみたいですよ。だって」
 この次の言葉を聞いた瞬間二人は絶句した。
「他の子供たちからいじめられている子なのだから見間違えるはずがないと。」
 なんだって?いじめられてただと?
「いじめられている?」
「そうみたいですよ。普段から意味のわからない飲み物を持ち歩くから気味悪がられたみたいですけど。」
 回復薬か、確かにこの村では一切使わなかったが。
「いじめられていたのは衝撃的だが仮にそうだとしても魔物と、対等契約した証明する物は?」
「物はありませんけど今居ないのが証明できると思いますが?」
「で、あの子を捕らえてどうするつもりだ?」
「そうですね。捕らえたらゴブリン達と同じ柵に入ってもらいます。魔物と人は同じ立場では無いと理解させます。一日中犯されていればわかるでしょう。」
 そう言った途端周りの騎士にも最大の殺気をぶつけた。
「あの子はお前らには渡さない。」
「渡されなくても探しに行きますがね。」
 俺と目の前の騎士が剣に手が触れる瞬間。
「防護魔術[暴風龍の巣]」
 周りに風の壁があっという間に出来上がった。
「もうやるしか無いわ。すぐ終わらせてあの子の元に向かいましょう。」
「あぁ、昔みたいにやるぞユミ!」
「あなたとやるのはとても思い出深いですねカラン。」
 俺は剣を抜き周りに騎士以外の人がいないことを確認し。
「剣舞[風塵乱舞乱波]!」
 
 * *
 
 遠くに村が見える所の森まで走ってきて時折足跡を消して。ここまで来た時村の方から大きな爆発音が聞こえた。
「お父さん。お母さん。」
 父の名はカラン。中央都区にいた頃は剣聖と言われていた世界最強にも匹敵する実力者だった。
 母の名はユミ。母も中央都区にいた頃は最強魔術士の一人だった。
 だから簡単に負けるわけはないし。勝って迎えに来てくれると信じていた。
 
 * *
 
 風塵乱舞乱波は一撃がとても重く広範囲に影響がある技だ。さらに周りの風が荒れている程一撃が重くなる。ユミの暴風龍の巣によってかなり風は荒れていたと言うのに。
「誰一人倒れないか。」
「何故か分かりますか?最強魔術士の一人ユミさん、貴方の開発した最強防護魔術陣が刻まれた魔道具を持っているのですよ。」
 右から一人剣を振り上げて近づいてきた。
「剣舞[雷閃]」
 一気に加速して近づいてきた。
「剣舞[止水]」
 ダァーーーンと大きな音を立てて止まった。
「お前は……⁉︎」
「昔俺を弟子にしてくれてありがとうございました。」
「驚きましたか?あなたの弟子達しかあなたを止められる人はいないと思いましてね。」
「師匠。弟子にしてくれたのはありがたいのですが、今はあなたは罪人。構わず捕らえます。」
「止められるならな!」
「剣舞[暴れ龍]」
 辺り一面にとても深い斬撃が現れた。
「俺はお前らを殺す気で行く。さっさと終わらせてあの子の元に行かなければならないんだ。」
「特級援護魔術[剣神の乱舞]」
 俺の身体の底から湧き上がるほどの力を感じた。
「そうね。さっさと終わらせて行きましょう。」
「剣舞神界[無限に溢れる剣]」
 周りの地面から剣が浮かび上がるがどれも取れないほどに硬いだが技の発動者は軽く抜き取れる。つまり相手は無限に武器を壊すまで使える。
「特級結界魔術[無限魔回廊]」
「特級魔術[地獄の業火]と特級魔術[裁きの炎]」
「特級合成魔術[輪廻の炎]」
「この炎に焼かれると永遠に消える事はなく少しずつ体を蝕み、魂ごと燃やし尽くす。さあ貴方達はどうするかね?」
「だがこの防護魔術陣があれば……」
「特級無属性魔術[消失の矢]」
 ユミの周りに無数の矢が現れる。この矢に当たれば魔術は消え。体に当たれば抉れる。とてもヤバい魔術だ。
 「「さぁ死ね」」
 一番位が高そうな騎士はニヤッと笑いながら。
「裁きの時間だ。」
「特級神級魔術[裁きの秤]」
 男の背後に巨大な秤が現れた。
「我ら十六名 対 ユミ、カランの判決を神に問う。」
 すると秤が傾いた二つの光の方が下がった。
「これより神は公式的にユミ、カランが悪人だと断定。よってこの場に発生した物は全て消去し、ユミ、カランの技能力に制限を掛ける。」
 周りがいつもの風景に戻り、敷かれていた魔術などがガラスの様に割れた。
「中級の技しか使えない…⁉︎」
 俺もユミも中級の技しか使えなくなっていた。
「剣舞[閃光]」
 来る……!
「剣舞[波打]」
 ズガガガーーンと連続の音が続いた。
 閃光という素早い一撃を波打という連撃で速度を落として受け止めたのだが。
(何回ももたない)
(というかさっきから何故一人ずつ来るんだ。)
 と、思っていると。
「きゃっ!」
「ユミ‼︎」
「手を下ろせそして武器から手を離せ。」
 どうやらどんなに本気で抵抗しようと天秤の技には勝てないみたいだ。
「今からカラン殿と、ユミ様を拘束する。」
「どうするつもりだ?」
「そりゃあお前らの子を呼び込む。」
 サユリ。頼む遠くに逃げていてくれ。約束を守れなくてすまない。だが俺達は死んでも必ずサユリとクロバ。お前を守り続ける。だから……だから俺達の事を気にせずに言ってくれ!ありがとう。サユリはとても可愛くて優しい自慢の娘だ。

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