今年もこの季節がやってきた。
探偵事務所はサンタクロースの手伝いという名の依頼で大忙し。
クリスマスパーティーなんてできっこないのは全員が承知の事実だ。
それでも報酬ははずむし、毎年確定で訪れる数少ない臨時収入の機会なので誰も文句を言わずに引き受けている。
金>クリスマスパーティーは新人を除く全員の共通認識だ。
ちなみに新人の茶子さんと菓子さんは事務所で待機。
他の依頼や、追加事項があった場合の電話に出てもらう。
正直1番楽な時と面倒な時の振り幅が大きい仕事だったりする。
楽な時は仕事中に電話はかかってこないで、後日お礼の電話がくる。
ただ面倒な時は他の依頼が追加できたり、当日に仕事が追加されたり、迷惑なクレーマーから電話が来たりと正直無視したくなるようなことばかり起きる。
まさにハイリスクローリターン。
そのため電話係は誰も進んでやりたがらないのだが、新人の人にとっては通過儀礼ということで言いくるめられ、今年は茶子さんと菓子さんの2人に決定した。
茶子さんが思わずそう叫んでしまうのも仕方ないと思う。
何も知らない人からしたらクレームや突然の依頼なんて普通は来ないと思うだろうから。
私にその地獄のクレーマーと大量の依頼がきたのは3回目に引き受けた時。
1回目で大丈夫そうだったからと連続で引き受けたらとんでもない被害になった。
ちなみにぜんさんは1回目、ぐさおさんは2回目、iemonさんは4回目。
レイマリさんは巧みの話術で回避し、八幡さんは意味不明なセリフで切り抜けたそうだ。
運が良ければ今回は回避。運が悪ければ1発アウト。
ちなみに事務所が新しくできたばかりなのにこんなに電話の受け子をした合計回数が多いのは、クリスマスの他にも年によるがバレンタインやハロウィン、正月など様々な行事の手伝いをさせられているからだ。
主に都会の企業から人数不足を補うアルバイトとして。
ちなみにクリスマスに限っては例外で、ぐさおさんの親が営んでいる企業からの依頼となっている。
そのため報酬は他と比にならないほどだ。
しきりに時間を確認していたぜんさんのその一言で全員が必要なプレゼントの入った袋を持つ。
レイマリさんが代表で2人に挨拶をし、そのまま事務所を出る。
ここで一旦他の人とは分かれる。
地元が近くの人は地元付近を、それ以外の人は他の近くの地域を担当するためだ。
他のみんなも見送り、私も担当区域へ向かおうと後ろを振り返る。
するとそこにはさっきまでいなかったはずのウパさんがいた。
反射的に能力を使ってしまうが、ウパさんの能力で相殺される。
聖夜の日に火事とかシャレにならないから本当に良かった…
金稼ぎという名のサンタクロースを務めなければいけない。
この一瞬の間にも稼げた金があったと言うのに。
しかしもう何年もの付き合いになるウパさんにはそんなことお見通し。
行事のたびに出かけるのに誘われて、それをバイトがあるからと断っているのはもはやお約束だ。
素直に従うのは癪だし、なんだか嫌な予感がしたため一瞬目を瞑るのを躊躇ったが、ウパさんが早くとでも言うように急かしてくるので、仕方なく目を閉じた。
目を瞑っている間は想像以上に暇で、この先に考えを巡らす。
次に目を開けた瞬間にはウパさんがいなくなってて、私がただ騙されたとか?
それだったら次会った時にブチギレだけど…
そして何より怖いのが、さっきから何も声が聞こえてこないことだ。
本当にいなくなってしまったんじゃないかと錯覚してしまうほどウパさんの割には静かだ。
そう思い、うっすら目を開けようとする。
しかし、それより先に暖かい体温が私の体に触れた。
声を上げなかったのを褒めて欲しいくらいにその時の私は動揺していた。
当事者になったつもりで考えてみてほしい。
目を瞑っててと言われたから正直に目を瞑っていたら急に抱きつかれたのだ。
片思い中の幼馴染に。
誰だって動揺するに決まっている。
だから私も咄嗟に目を開けてしまった。
しかし当然視界から入ってくる情報は何もない。
さっきと変わらぬクリスマスの雰囲気を纏った景色に、視界の端に映る水色のふわふわとした髪の毛。
脳が情報を処理することを拒む。
私がそうやって焦っている間にウパさんは何かやっていたようで、そんな意味深な言葉を発して離れていく。
待ち望んでいたはずなのに熱が離れていってしまうのがどこか寂しいような、そんな不思議な感覚だ。
その質問でようやく、自分の首元にさっきまでなかった何かが触れていることに気がついた。
視界には入らない首元の位置。
仕方なくスマホの自撮り機能を使ってみてみると、猫のワンポイントデザインの入ったチョーカーだった。
ウパさんが買うとは思えないような可愛らしいデザインで普段使いとしても申し分なさそうだ。
そう言うと今度はこっちの番と言わんばかりに私に向かって手を差し出してくる。
本当はバイトが終わってから渡しに行くつもりだったけど、しょうがない。
そうやって私が袋から出したのはポケモンの人形。
ウパさんが好きだと言っていたドオーだ。
とは言ってもサイズは小さめで、値段もお手頃なやつ。
しかしそれでもウパさんはいつも通りのオーバーリアクションで喜んでくれた。
ウパさんがこなければバイトの後に公園にでも呼び出してプレゼントを渡すつもりだった。
冬だから寒いだろうが、後に予定がない分ずっと話していられるからだ。
だけどこれでバイトの後にウパさんに会う用事は無くなってしまった。
そんなことを考えながら小走りで目的地へ向かう。
サンタクロースを待っている子供達が街にはたくさんいるから。
お店の前でサンタの格好をしながら、子供達にお菓子を配る。
素直な子供たちはサンタの姿の俺に嬉しそうにお礼を言ってくる。
そんな可愛らしい子供達に紛れてお菓子を貰おうとしに来たのはめめさん。
紛れ込めているのかは別として何しにきたのだろうか。
そうやってめめさんがバッグから取り出したのは深い緑色をしたマフラー。
手編みのものなのか端の方に俺の好きなゲームのキャラクターが描かれている。
そう言いながらご丁寧に彼女は俺の首にマフラーを巻いてくれる。
だから毎回適当にぐるぐる巻いている、なんて言葉は飲み込んだが、完成したマフラーを見て本当に器用だなと思った。
女子力が高いというべきなのか、巻かれたマフラーはリボンのような形をしている。
そのままめめさんは帰ろうとしてしまう。
その時ふと、カバンに入ったお菓子が見えた。
発した声は想像以上に大きくなってしまい、驚いた彼女は目を見開いている。
そうやって俺が彼女に差し出したのは綺麗なラッピングが施されたお菓子の詰め合わせ。
お菓子を配る仕事をするにあたってもらったものだ。
ただこれはあくまで俺個人に配られたものだから子供達に配るものとは違う。
だからこれをめめさんにあげたところで何の問題もないのだ。
あげられるものがこれしかないのは本当に申し訳ないが、何もないよりはマシだろう。
そのまま袋をしまうとめめさんは嬉しそうに微笑む。
私がそうやってお菓子配りをしているのは親の会社の前。
うちの会社はお菓子やおもちゃを中心として作っているが、こうすることによってたくさんの人に会社の存在を認知してもらうだけじゃなく、会社の株も上がる。
そうすれば会社全体として利益が大幅に上がるため私達と会社の両方が得をするwin-winの関係なわけだ。
この時期に株を売っておけば追加で収入も入るというお得具合。
しかし私達がもらう給料なんて例年通りであれば利益のほんの1部でしかない。
そのことを知っているのは親が会社を営んでいる私とiemonさんくらいだろう。
主に会社の利益とか、探偵事務所の収入と出費とか…
冬に多くあるバイトによって稼いでおかないと今度こそ倒産しかねない。
ちなみに過去2度ある倒産の危機はどれも出費が多すぎたことが原因で、その度に私の親の会社に臨時で働かせてもらうことによって回避している。
我ながら頭の上がらないほど面倒を見てもらっている。
それなのに私はクリスマスだからと言い訳をし、必要かもわからないメガネを買ってしまった。
もしかしたら使うかもしれないからという弁明も頭の中で数えきれないほど行った。
しかし心のどこかでは喜んでくれるんじゃないかと期待してしまっているのだ。
聞き慣れた声が聞こえた瞬間、心臓が飛び出るんじゃないかってほど驚いた。
ちょうど今考えていた彼…メテヲさんが目の前に現れたのだ。
普段の清楚な服とは違い、今日はラフな格好をしている。
メテヲさんが買い物以外で外に出歩かないだろうという一種の信頼。
疑問系で問いかけたものの、私の中ではすでに問いに対する答えは出ている。
そう言いながらメテヲさんはカバンの中から何か取り出す。
私の前に掲げられたそれはリボンの形を模したイヤリングだった。
全体的にピンクゴールドの色をしているが、それがかえってオシャレでどんな服装にも合わせやすくなっている。
思わず本音が漏れてしまったが、正直今回のプレゼントで結構印象が変わった。
なんかもっとこう、独特な感性を持ってそうだったから意外だ。
メテヲさんがまだメガネを持っていないことを祈りつつ、綺麗にラッピングを施した袋をバッグから取り出す。
中身が気になったのか、その場で袋を開けようとする。
見るも無惨な姿になってしまったラッピングと最高傑作が一瞬で崩れ去ってしまい絶望している私には目もくれず、袋からメガネを取り出す。
コンタクトつけてたのは意外。初情報。
不思議そうにメガネを眺めたあと、試しにつけてみているメテヲさんに告げる。
さすがというべきかメガネをかけた姿も様になっている。
嬉しそうに目を輝かせるメテヲさんはサンタさんからプレゼントをもらった子供みたいだった。
いまだに袋いっぱいに詰まったお菓子を一瞥し、メテヲさんに告げる。
もっと話していたいけどこれ以上は死活問題だ。
メテヲさんは少し寂しそうな顔をした後に微笑んで手を振る。
きっと今年中に会うことはもうないだろう。
そう思うとなんだか少し寂しい気もしてくる。
侵入経路は確保済み。
口裏も合わせ済み。
侵入の許可も所得済み。
プレゼントも持った。
何かあったら窓かち割る準備もバッチリ。
そんなふうに最終確認を指折り行っていく。
この時の私は1つだけ確認を忘れてしまっていたが、そんなこと後の祭りだ。
そんな掛け声と共に事前にめめさんから受け取っておいた合鍵を差し込んで中へ入る。
適度に暖房の効いた部屋は外から入ってきた私にとってはまさに楽園のような場所。
その温度に感動しながらも体はきちんと目的地の方へ向かっている。
目的地、それはリビングのど真ん中に綺麗に飾られた大きなモミの木のこと。
クリスマスパーティーは後日、ぜんさんのご馳走と共に行われる身からしたらこんな大きなモミの木を飾ることは憧れだ。
子供の頃も卓上用の小さなものしか持っていなかったから少し羨ましくも感じる。
それでもクリスマスより金稼ぎを選んだのは他の誰でもない私だから文句を言うことはできない。
仕事がこの後も続いているとは分かりつつも、やはり気になってしまったものは仕方がない。
プレゼントを追うと言う名目で少し周りの飾りつけも拝見することにした。
だから私が気配に気づかなかったのも好奇心のせいだろう。きっと…
ひなにいの存在に私が気づいたのはツリーを拝見し終わって、ご馳走に目を輝かせていた頃だった。
いたのなら声をかけてくれてもいいのに…
ご丁寧にもバイト先にサンタの衣装が用意されていたので遠慮なく借りさせていただいたため今の私はサンタの格好をしている。
それにそもそもめめさんの許可という免罪符もあるから今何を言われたところで問題はない。
警察を呼ばれたら少しまずいかもしれないが…
どこまで行ってもサンタだと言い続ける私の主張に諦めたのか、苦笑しながら今度は別の質問を投げかけてくる。
正直にツリーとかご馳走を見てましたというのも負けた気がするので苦肉の策で準備しておいた言い訳をする。
まだ窓ガラスはかち割らなくても大丈夫そうだ。
さすがのひなにいもこれは予想外だったのか驚いたような表情をしている。
しょうがない、本当はめめさんの用意していたプレゼントに紛れ込ませて置く予定だったのに…
そんなことを思いながら渋々しまっておいた手袋を取り出す。
薄黄色の生地に水色の模様が入ったそれは我ながらいいセンスしてると思うくらいに気に入ったデザインだ。
恐る恐るといった感じでプレゼントを受け取ったひなにいは嬉しそうに微笑んだ後、何かを思い出したかのような顔をする。
そうやって差し出されたのは小さな星型の小瓶。
中には濃いめの黄色の液体が入っている。
そう言われてみれば今までは黒のネイルしか買っていなかったような気がする。
黒が好きというより何にでも合う安定択のような気がしていたからだ。
そうお礼をいった瞬間に鐘の音が鳴る。
やばい、まだノルマ残ってるのに…
急いでそう告げるや否やめめさんに事前に指定されていた場所に合鍵を置いていく。
そのまま次の目的地までの最短経路を考え、走り出す。
私がミスをした時に1番最初にクレームがいくのが茶子さんと菓子さんの2人だ。
できるだけ新人には面倒をかけたくないからね。
握った手の中でネイルが月明かりを反射したような気がした。
仕事が思ったよりも早く終わったため、他の人たちを置いて先に帰らせてもらうとそこには茶子さんと菓子さんと一緒にこたつに入ってあったまるヒナちゃんの姿があった。
目の前にココアの入った持参のものらしきコップを置いてくつろぐ姿は完全にここの住人だ。
茶子さんも菓子さんも特に面倒な電話はなかったのか、穏やかな顔でヒナちゃんと話している。
そうしてこたつから両手を差し出される。
確かに用意してはいるが、生憎今は部屋に置いたままになっている。
そのまま階段を駆け上がり、お世辞にも綺麗とはいえない自分の部屋に足を踏み入れる。
ご丁寧に店員さんにラッピングまでしてもらったオルゴールが机の上に置かれている。
それを慎重に持ち上げ、落とさないように細心の注意を払いながら階段を降りてリビング兼事務所まで向かう。
袋を受け取ったヒナちゃんは丁寧にラッピングを解いていく。
そうして中から現れたのは薄いピンクの宝箱の形をしたオルゴール。
中には色とりどりの宝石…のような装飾がされているもの。
ヒナちゃんにプレゼントをあげると決めた日から
必死に考え抜いて選んだもの。
オルゴールを見た瞬間ヒナちゃんは大声でそんなことを叫ぶ。
そのままキラキラとした笑顔で発条を回す。
すると心地の良いメロディーが流れてくる。
ヒナちゃんも気に入ったのか、目を瞑って音楽を聴き入っている。
音楽が終わった後にそういったヒナちゃんがカバンから取り出したのは水色の台座のスノードーム。
中にはクリスマスツリーが飾られていて、降ると雪が舞うようなものになっている。
そして何よりぽれのお気に入りのクマの人形と同じドール?が飾られている。
偶然同じものが売っていたとは考えられないからヒナちゃんが作ったのかもしれない。
偶然見つけたことも考えたが、確かネットではこんなスノードームは売ってなかったはずだ。
まさかの手作り。
本当にプレゼントがオルゴールでよかったのかと思ってしまったが、何度も発条を巻いて音楽を聴く様子は、素直に喜んでいるようだったので何も言わないでおいた。
それからしばらく雑談をしているとヒナちゃんのスマホが鳴る。
内容を見なくともそれは帰宅を促す旨が書かれているのだろうと想像がついた。
いくらぽれが早い時間に帰ってきたとはいえ、もうだいぶ遅い時間なのだから。
そう言い、今の格好だと寒いだろうとマフラーをかける。
そのままめめさんの迎えが来たらしく、玄関のチャイムが鳴る。
想像以上に遅くなってしまった仕事を恨みながら急いであの場所へ向かう。
いつもガンマスさんが隠れて歌を歌っている場所。
俺とあの人しか知らない秘密の場所。
パッと開けた場所に出る。
少し開けた土地に小高い丘。
満月の日には最高のスポットライトが当たる場所で彼女は歌っている。
俺はいつも丘の下にあるベンチに座りながらその様子を眺めているのだが、今日はガンマスさんがそこに座っていた。
プレゼントを渡したいと言った張本人が遅れてしまっては元も子もない。
ここまで長引いてしまったバイトを恨むも、実際結構な臨時収入が入ってきているのは事実なので恨むに恨めない今日この頃。
思わず「あのガンマスさんが優しい?」と言いかけたがクリスマスの日にぶん殴られたくないのでそれは飲み込む。
それよりも今はプレゼントを渡す方が先決だ。
とは言っても完全にネタに振り切ってしまったからどんな反応されるのか少し楽しみだったりもする。
呆れるか、笑うか、それとも意味がわからないと言った感じになるのかガンマスさんの反応を考えただけで思わず笑みが溢れる。
そうやって俺が渡したのはアイマスク。
とは言ってもただのアイマスクじゃない。
ホットアイマスクなのも確かに普通のアイマスクじゃない部分の1つだが、大体は無地になっている目元の部分に顔が描かれている。
ヌベスコのような…とまではいかないが、謎の顔のイラストが描かれたアイマスクで、文字が書いてあるものと非常に悩んだ末に死闘を制した渾身のプレゼントだ。
その渾身のプレゼントを目の前で素直に待っているガンマスさんに渡す。
さ?
さから始まる単語は…最悪、最低、さすが?
さすがだとしたらさすがレイマリさんセンスが終わってますねとかかな?
なんて1人で勝手に続く言葉を予想する。
しかし、残念ながらこの予想は全部外れることとなってしまった。
ガンマスさんの言っていたことが理解できず、思わず発してしまった言葉がこれ。
しかしそんな俺なんて視界に入っていないかのようにガンマスさんは喜び続ける。
その喜びようと言ったら少し…いや、だいぶふざけた気持ちでこれを選んだのがもう仕分けなくなってくるほど。
ハイテンションなガンマスさんとローテンションな俺。
完全に国語の教科書のような対比になってしまっている。
ガンマスさんのセンスについてまた1つ学んだかもしれない…
だけどガンマスさんのこんな笑顔を見たのは初めてだったから、このアイマスクを選んでよかったなんて不覚にも思ってしまった。
そう言ってガンマスさんはカバンの中を漁り始める。
ガンマスさんのセンスについてはさっき知ってしまったから少し不安要素が残ってしまう。
そう言って取り出したのは小さな箱。
この位置からだと側面しか見えないが、渡されて気がつく。
ご存知の通りワイヤレスイヤホンは高い。
そしてガンマスさんはしょっちゅうバイトを入れるほど金欠。
ここから導き出される答えは…
クレーンゲームなら納得かもしれない。
金額によっては普通に買うよりはるかに安く手に入れることができるのだから。
確かに言われてみればこんなデザインのがゲームセンターにあった気が…しなくもないかもしれない。
いい感じにまとめてはいるが、どうしてもいらないものを押し付けられたような感覚が拭えない。
それでもイヤホンはこの前壊れたばかりだし、普通に日常でも使う機会が多いので素直に受け取っておく。
イヤホンの色が俺のイメージカラーになっているのは単なる偶然か、はたまた少しは意識してくれていたのか。
後者の方だったらいいな、なんて思いつつ、ベンチに座っているガンマスさんの手を取る。
本音を言うともっと話していたかった。
しかしそのせいで体が冷えて風邪でも引いたら元も子もない。
ガンマスさんを家まで送り、名残惜しさを感じながら俺も家路を辿った。
仕事の時間も終わり、他の人もだんだんと帰ってきた。
他の人の心配は杞憂に終わり、面倒な電話も依頼も1回も来ないで終わった。
なんか腑に落ちない感じもするが、その暇な時間には茶子と話すことができたから満足だ。
そのままクリスマスパーティーとは名ばかりの晩ごはんと、ぜんさんが事前に作っておいてくれたケーキを食べる。
他のみんながワイワイとケーキを切り分ける中、私はいつ茶子へのプレゼントを渡すか悩んでいた。
もちろん私個人のものとしてはイヤーカフをあげた。
しかし、問題はサンタさんのぶんだ。
幼少期にクリスマスくらいは笑っていてほしいと雀の涙ほどの小遣いをやりくりして渡し始めたのがきっかけだが、完全にネタバラシをするタイミングを失ってしまい今になっても続けている。
もちろん茶子にバレてしまっている可能性も考えた。
しかし毎年曇なきまなこを向けてサンタさんきてくれるかな、なんて言うものだからついつい甘やかしてしまうのだ。
そして決まって菓子の分は?なんて尋ねてくるものだから、必ず茶子が幸せでいることをお願いしたと言わなければならない。
何度プレゼントを渡すのを諦めようとして踏みとどまったことか、もう今の私にはわからない。
そうやっていろんなことを考えているうちにも刻々と時間は過ぎてゆき、ついにお開きの時間になってしまった。
せっかくのケーキも考え事をしていたせいで味が全くわからなかったし、この後のことを考えると憂鬱だ。
私も他の人と同様、自室へ戻る。
電気をつけ、寝支度を整えようとするとベッドの横、小さな棚の上に何かが置かれていることに気がついた。
濃いピンク色をした綺麗なハンカチ。
素材もいいものを使っているのか、肌触りも良く、デザインもオシャレだ。
誰がこんなところにと思ってふと1つの考えが頭をよぎる。
仕事前、私が部屋を出た時には置いていなかったはずだ。
そのまま誰も2階には戻らず仕事に向かったのだから窓から侵入しない限りここにおくことは不可能だろう。
そんな窓も常に閉めたままの状態にしてあるので侵入はほぼ不可能と言っても差し支えない。
全員が帰ってきてからも荷物も片さずに晩御飯になったので、2階に行った人は誰もいない。
そしてお開きになった後、私はすぐ自室に戻ったので誰かが私にバレずにここにくることは不可能だ。
もちろん、八幡さんが透過を使わなかった場合に限るが、彼女はさっき浴室に行っていたからそのことは考えなくても良さそうだ。
つまりここにハンカチを置くことができるのは今日1日中事務所にいた茶子だけなのだ。
大方仕事中にトイレ休憩と言って抜けた時に置いてきたのだろう。
毎年私にはプレゼントが届かないから、茶子にしかプレゼントが届かないから…
きっとそこからくる優しさ故だろう。
そんなことを思いながら、割れ物を扱うようにしてハンカチを引き出しの中にしまう。
ここには小さい頃から今まで茶子にもらったものが全て入っている。
誕生日プレゼントにもらったものから公園で拾ったどんぐりまで。
どれも一目見ればいつのものなのか判別することもできる。
それほど茶子と過ごした時間は大切で、かけがえのない宝物だから。
自然と溢れる笑みを手で隠しながら、スマホのタイマーをかける。
深夜の2時ごろ。
その頃ならちょうど他の人達も寝ている頃だろう。
明日喜んで私に報告してくれる茶子の姿を想像しながら、私は眠りについた。















































編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。