第2話

第1話 崩壊
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2026/07/13 13:50 更新
休日の昼。母さんが誰かと電話をしている声で僕は昼寝から目覚めた。
微かな笑い声すら聞こえない電話中の母さん。やけに静かな自分の部屋、雨音が聞こえる曇り空。
…なぜか、胸騒ぎがして堪らなかった。
祐樹
………。
不安に駆られたまま、僕はゆっくりベッドから起き上がり、部屋を出る。
リビングまで続く廊下が、なぜか長く感じた。
祐樹の母
……はい。……はい。わかりました。祐樹にも、伝えておきます。
リビングには、やけに暗い顔をした母さんがいた。
電話が終わったら、何かを言われる。
なぜか、胸騒ぎが収まらない。
祐樹の母
…はい。失礼します。はーい。
母さんがスマホをクリックして、電話を切ったのを確認し、僕は恐る恐る口を開く。
祐樹
……母さん…、?
祐樹の母
………あ、……祐樹…
いつも明るくて、朝から大きな笑い声を上げるほど元気な母さんが、今日は目元すら笑ってなくて
僕は、この先のことを聞くのが怖くなってしまった
祐樹
……なにが、あったの。
……それでも、なぜかどうしても
聞かないといけない気がした。
祐樹の母
…………。
母さんは、2回ほど深呼吸をして、口を開いた。
祐樹の母
……さっき、奏翔くんのお母さんから電話があったのだけれど…
祐樹の母
…奏翔くん、入院したんだって。
祐樹
…………。
祐樹
…………、?
祐樹
……え、………は…?
祐樹の母
……自殺未遂…したんだって。なんとか一命は取り留めたものの、意識は戻ってないらしいの。
祐樹の母
もしかしたら、容態が悪化するかもしれない可能性もあって…助かる確率は五分五分らしいわ。
入院、自殺未遂、意識不明……
いくつものショッキングな単語が、僕の頭の中をぐるぐると回る。
脳がその情報を上手く理解できないのは、寝起きだからなのだろうか
僕は、母さんの言っていることを理解できなかった。
祐樹
……な、なんで…
祐樹
…だ、だって…奏翔、昨日まで元気だったんだよ…?
祐樹
お、一昨日も…その前の日も…ずっと、
祐樹
……え、………?は……、?なんで…
僕はただ必死に昨日の出来事に思いを巡らす
何か不審なところ、何かの前兆、何かのきっかけ
探しても探しても探しても
それらしきものは、見つからない
祐樹
……な、なんで………なんで….?なんで…
祐樹の母
…………。
祐樹
………っ…ぼ、僕お見舞い行ってくる…!!!
祐樹の母
…ちょっ…?!祐樹…!!!!いきなりは…!!!
僕は母さんの制止を無視して、傘も持たずに家を飛び出した。
何度転びそうになったことか分からない。信号だって無視していたかもしれない。
でも、ただどうしても
それ自殺未遂が、本当のことだと、信じたくなかった。
祐樹
…はぁっ…はぁっ……はぁっ…
全力疾走してきたせいで、病院に着く頃には汗まみれで息を切らしていた。雨に降られているので頭からつま先までびしょ濡れだった。
顎から垂れ落ちる汗を手で拭き取り、僕は病院の自動ドアを抜ける。
受付らしき人がいるところへ転がり込むように向かった。
祐樹
…あ、っ…あの…!か、かな、と…奏翔は……!!!
看護師さん
…ちょっ…す、すみません…順番はお守りくださ…
祐樹
奏翔の病室はどこなんですか!!!それだけ、それだけ教えてくださいっ!!!!
看護師さん
………し、しかし…
周りからヒソヒソと声が聞こえる。そりゃそうだ。汗まみれ、雨でびしょ濡れで、わざわざ順番を抜かしてでも看護師に詰め寄る高校生なんて、おかしいに決まってる。
でも、今の僕には、そんなことに配慮してる余裕は無かった。
奏翔の母
祐樹くん…?
祐樹
……!
僕は咄嗟に聞き覚えのある声の方を向く。奏翔のお母さんだった。僕は奏翔のお母さんに詰め寄る。
祐樹
あ、あの…奏翔に、奏翔に会わせてください…っ…!!!ぼ、僕…状況を、上手く…飲み込めて、なくて……
奏翔の母
…………。
僕は奏翔のお母さんの目を見て懇願する。その時に目に捉えたのは、とても目を泣き腫らしていたことと、いつもは化粧をしているのにしていなかったこと、髪の毛がボサボサなことだった。
奏翔の母
……祐樹くん、わざわざこんなびしょ濡れになるまで、ここにきて…必死だったんだね。
奏翔の母
…ありがとうね。きっと奏翔も嬉しいと思うわ。
祐樹
…っ……そ、そんな…もう二度と会えないみたいなこと言わないでください!!!!
奏翔の母
……ごめんね。
奏翔の母
……分かったわ。病室はこっちよ。
祐樹
……!あ、ありがとうございます…っ!
僕は奏翔のお母さんの後ろを追った。
この時だけなぜか、奏翔のお母さんの背中がとても小さく感じた。
祐樹
……あ、………っ……
奏翔
…………。
白いベッドで力なく眠っている奏翔には、沢山の管が繋がれていた。ピッ、ピッ、と規則的な電子音が病室に響く。首に巻かれた包帯から覗く赤黒い跡が、全てを物語っていた。
祐樹
……あ……あぁっ…ああぁ……
僕は足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちた。床を這うように奏翔に近づく。
昨日まであんなに笑顔だったのに
今はもう、笑顔のかけらすら浮かんでない。
祐樹
……奏翔……、…かな、と……
僕は奏翔の手を優しく握る。
冷たい。
1番最初に感じた感覚だった。
現実を、突きつけられた感覚に陥った。
涙が込み上げてきて、溢れて止まらなかった。
祐樹
……奏翔…っ…、ごめん……ごめんっ……
きっと、苦しかったんだろうな
苦しくて、苦しくて、堪らなかったんだろうな、…
なんで、なんで……、
……僕は、あの時……どうしておけば……
祐樹
…っ……あぁぁぁ、……あああぁぁぁぁ……っ…!!!
僕は布団に顔を埋め、ただひたすら泣き喚いた。周りへの配慮なんて、そんなの眼中に無かった。
ただひたすら泣いても、叫んでも
奏翔が反応してくれることはなかった。
祐樹の母
……祐樹、
祐樹
…………。
家に帰ってきた僕を、母さんは怒鳴ることなくただ黙って抱きしめてくれた。
母さんの温もりが肌を包み、また涙が溢れて出してきた。
祐樹
…ぼ、僕……どうすれば、良かったの、かなぁ……
祐樹の母
……祐樹のせいじゃないよ。
祐樹の母
…きっと、奏翔くんならそう言ってくれるわ。
祐樹
………。
祐樹の母
……とりあえず、お風呂入ってきて。今日はゆっくり休んで。
祐樹
……うん、
祐樹
…………。
暖かい湯船に浸かったことで、冷えていた体の芯からゆっくりと温まる。
湯気でぼんやりとする視界で、ただぼーっと、浴槽の壁を見つめていた。
祐樹
(………なんで、…なんであんなこと、したんだろう)
僕の中でぐるぐると渦巻いている疑問は、ただそれだけだった。
心当たりが無さすぎるんだ。
だから、こんなに苦しくて、辛くて…悲しくて……
祐樹
(…あ…また涙が……)
祐樹
(……ダメだな…僕、…)
もう、考えるのを、やめたい。
何も考えたくない。
……あわよくば、昨日までのあの暖かな日々の夢を見たい。
祐樹
…………。
僕は浴槽から起き上がった。身体から暖かいお湯が滴る。
適当に体を拭き、寝巻きに着替えて、浴室を出る。
祐樹
……夕飯なったら、起こして
祐樹の母
…分かった。おやすみ。
僕は自分の部屋の扉を開けて、布団に飛び込む。
そのまま仰向けになり、天井をぼーっと見つめた。
祐樹
(……なんかの、なんかの悪い夢だよ、きっと)
祐樹
(…目が覚めたら、また、奏翔は、いつもみたいに笑ってくれる。笑ってくれるよ…)
祐樹
(…だから、もう、眠ろう……)
僕は全てを放棄するように、目を閉じる。
数分もしないうちに、僕の意識は深く沈んでいった。

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