前の話
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目が覚めると、オレは列車に揺られていた。
いや、目が覚める前から揺られていたかもしれないんだけど、その時にオレが乗っていた列車…真導士育成学校行きのものとは明らかに別物なんだ。
窓から見える光景は、さっきまでは雲一つない明るい空が広がっていて、なんだかキレーな建物が並んでいたはずなのに…今乗ってるのは深い青の中で星たちが瞬いてるみたいな―――ううん、実際瞬いていた。
列車は広い広い星空の中を駆け抜けていたんだ。
それだけじゃない、列車はがらんどうだった。
『ぼくのお手製クッキー、食べるぅ?』なんて、こっそりクッキーを口に運んでいたシチャカも、オレが以前から思いを馳せていた幼馴染のナンボも、『わたしたちも、父さんと母さんみたいな一流の真導士になろーねっ』と微笑んでみせた妹のバランも―――誰一人いない。
あんなにがやがや賑わっていたのが、ウソみたいに。
オレは嫌な汗をかいていた。
妙に肌寒くて、妙に生暖かい感覚が、全身を覆いかぶさってくる。
―――そもそもなんでオレはこんなところにいるんだ?
そんな疑問が湧くのと同時に、その声は響き渡ってきた。
〈それは――神様の気まぐれさ〉
誰かいるのかっ!?――なんて、思わず立ち上がってしまった。
オレよりもちょっと年上っぽくて、掴みどころがなくて、すんげー高いっていう訳でも、すんげー低いっていう訳でもない――それをギュギュッとまとめて表すなら“不思議”っていう声だった。
オレの声に、天からの声は飄々とした態度で呼応した。
〈まぁまぁ、そう慌てないでさ。話せばわかるよ。きっと〉
刹那――その声の主であろう人物は、オレの前に姿を表した。
オレよりちょっと年上って感じの、やっぱり男か女かわかんない顔立ちをした車掌姿の人物。
片目は髪で隠れていて――もう片方は、なんだか吸い込まれそうな、まさにこの列車の窓から覗く宇宙をそのまま目に収めたかのような、深い青色をしていた。
帽子を深々と下げるその人だったが、肝心の名前が聞き取れなかった。
他はきちんとに聞き取れているのに、なぜかそこだけが、霞に包まれでもしたかのように、雨に流されたかのように…入り込まなかった。
だけど、お祝いの時によく聞く言葉っぽい響きをしていた気がする。
逆に言ってしまえば、それ以外はさっぱり。
『なんで知ってんの!?』なんて思ったけれど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
早くみんなに会いたい、その一心で面倒事を避けるべく、オレはそのまま頭を縦に振る。
………ただでさえ混乱していたのに、尚更悪化しちゃうかも、オレ。
この列車がオレの人生で、この宇宙が世界?じゃあ、ここは夢じゃなくて、現実?
言葉の群れがオレをめがけて一気に飛びかかってくる。
でも、“サイゼンの選択”とか“導く”っていうことは、オレを助けてくれるのかな?
確かに、真導士は“怪異”っていう得体のしれない怪物と命をかけて戦う職業だし、『とても危険なことなんだぞ』なんて、父さんと母さんに、村の人たちからも釘を刺された。
実際テレビや生で見た時なんかには冷や汗がダラダラに流れていたことを覚えている。
いくらオレみたいな子供が通う学校だろうと、そこは手加減しないはず。何せ真導士のタマゴのための学校だし。
そう考えてると、なんだか安心していたような気がする。アヤシそうなのには変わりないけど。
―――導く、ってことは、オレをサポートしてくれる…ってことなんですか?
でも、やっぱりわからないのはわからないから、一応尋ねてみることにする。
その人はオレに手を差し伸べてくれた。
一点のシミもない純白の手袋が、オレを迎え入れてくれる。
その行動一つすらオレにとってはなんだかブキミに見えたけれど、この人はオレを手助けしてくれる、親切な人なんだ…そう思っていると、自然と手が伸びた。
―――はいっ、よろしく…お願いします。
声を絞り出しながら、ギュッ、と握手をする。
ちょっぴり痛い。でも、それよりも安心感が勝つような気がする。
まるで、母さんに抱っこされている赤ん坊の時のような、暖かい感覚が流れ込む。
…ふぁぁ、瞼が重い。ぼんやりする。
薄れていく意識の中、こんな声が響いてきた気がする。
“契りは交わされた。さぁ、出発進行だ”
✦FULL HEART ADVENTURE ―真導青春学園記― 出発進行












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。