第8話

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2022/11/29 08:00







黒いスーツケースと肩掛けのカバンを持って、高専の制服を着たあなたは立派な門をくぐる。


あなた
...久しぶりでも帰ってくるモンやなぁ。



「無駄に面構えだけ良くしよって」と零す彼女の元に、着物を着た男が寄ってきた。

気配に気がついたあなたが振り向くと、彼は人好きのいい笑顔を浮かべながらヘラりと片手をあげて挨拶をする。


禪院 直哉
誰かと思うたら、可愛い妹やないか。
連絡ぐらい寄越してくれてもええんちゃう?
あなた
まいど半年ぶりやん、兄さん。



慣れた様子で話す兄妹はとても半年ぶりとは思えず、並んで屋敷に入っていく。


あなた
父さんには電話一本入れたで。
禪院 直哉
なんや、父さん教えてくれはってもよかったんに。
あなた
兄さんに言うとめんどいねん、黙っとくんが普通やろ。
禪院 直哉
あなたはちょいと生意気なったんとちゃうか。



「そんなことないで」とヘラヘラするあなたを見れば、京都校の面々は成程兄妹だなと感じるはずだ。

屋敷を入って物静かな廊下を進むと、奥に当主直毘人の部屋がある。


あなた
やけに静かやな。なんかあるん?
禪院 直哉
知らんわ、ンなもん。
道場でも行っとるんやない?



ふむ、とあなたは考え込んだ。

自分が出ていった頃は、昼間でももう少し騒がしかったはずだ。

なんせこの家には人がわんさかいるもんで。


禪院 直哉
ココやな。
半年前となんも変わっとらんで。
あなた
おおきに。



曲がり角に当たる直毘人の部屋の襖の前に正座したあなたは、実兄が死角で壁に背を預けるのを見て中に声をかける。


あなた
あなたや、帰ってきたで。



奥から入れと聞こえて来たのを確認したあなたは静かに襖を開ける。

いくら高専で周りとバカやろうが、この家で育った彼女はこういう場面での仕来りは無意識に守っていた。


禪院 直毘人
...お前、太ったか。
あなた
なんや、失礼な親父やな。
父さんこそ、皺増えたんとちゃう?
禪院 直毘人
フン、お前に言われることじゃあない。
あなた
ハイハイ、これお土産な。
小遣い少ないんやから、そな高いモンやないで。



直毘人はシラフでない時の方が珍しいと有名だが、今も例外でなく瓢箪酒を片手にあなたの土産を物色している。

「まあまあだな」と呟くと、それを横に置いた。


禪院 直毘人
東京行くんだな。
あなた
せやで、半年だけな。
禪院 直毘人
ダメだと言ったら?
あなた
無理やで、五条家後ろにおんねん。
アンタが勝てる訳ないやん。
禪院 直毘人
......お前はいつになったら家に入るんだ。
あなた
なんや、まだそんなん期待しとったんかいな。ウチは特別なんてつくモンやない、正真正銘の1級術師になるんや。



前にも言うたやろ?と、笑みを絶やさないまま答えるあなた。

前とは、彼女が家を出た時だ。

奇しくも真希と同じタイミングである。


禪院 直毘人
勝手にせい、痴れ者が。
あなた
ほな、好きにさしてもらいますわ。
あなた
他んと違うて、父さんの隠そうとせんトコは好きやで。おおきにな〜。



入ってきた時同様、ピシャリと襖を閉めるとあなたは外で待っていた直哉に声をかけた。

いくら憎まれ口を叩こうが行動が荒っぽくないので、彼女はこの家で憎めない存在となっている。


禪院 直哉
父さん、なんやって?
あなた
勝手にせえ言うてはったわ。
どうせ形だけ訪ねたんやし、もう行くわ。



ヒラヒラと新幹線のチケットを振って見せたあなたに、直哉が反応する。


禪院 直哉
なんや、それ今日の夜発車やん。
まだ昼過ぎやで。どないすんねん。
あなた
せやなぁ...兄さんとご飯でも行こかぁ思うて。



ど?、と笑ったあなたに、直哉もニィと口角を上げて妹の頭を撫でた。

よく似た笑顔だ。


禪院 直哉
ほんま、出来た妹やなぁ。
あなた
おおきに。笑





𝙉𝙚𝙭𝙩 .






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