黒いスーツケースと肩掛けのカバンを持って、高専の制服を着たあなたは立派な門をくぐる。
「無駄に面構えだけ良くしよって」と零す彼女の元に、着物を着た男が寄ってきた。
気配に気がついたあなたが振り向くと、彼は人好きのいい笑顔を浮かべながらヘラりと片手をあげて挨拶をする。
慣れた様子で話す兄妹はとても半年ぶりとは思えず、並んで屋敷に入っていく。
「そんなことないで」とヘラヘラするあなたを見れば、京都校の面々は成程兄妹だなと感じるはずだ。
屋敷を入って物静かな廊下を進むと、奥に当主直毘人の部屋がある。
ふむ、とあなたは考え込んだ。
自分が出ていった頃は、昼間でももう少し騒がしかったはずだ。
なんせこの家には人がわんさかいるもんで。
曲がり角に当たる直毘人の部屋の襖の前に正座したあなたは、実兄が死角で壁に背を預けるのを見て中に声をかける。
奥から入れと聞こえて来たのを確認したあなたは静かに襖を開ける。
いくら高専で周りとバカやろうが、この家で育った彼女はこういう場面での仕来りは無意識に守っていた。
直毘人はシラフでない時の方が珍しいと有名だが、今も例外でなく瓢箪酒を片手にあなたの土産を物色している。
「まあまあだな」と呟くと、それを横に置いた。
前にも言うたやろ?と、笑みを絶やさないまま答えるあなた。
前とは、彼女が家を出た時だ。
奇しくも真希と同じタイミングである。
入ってきた時同様、ピシャリと襖を閉めるとあなたは外で待っていた直哉に声をかけた。
いくら憎まれ口を叩こうが行動が荒っぽくないので、彼女はこの家で憎めない存在となっている。
ヒラヒラと新幹線のチケットを振って見せたあなたに、直哉が反応する。
ど?、と笑ったあなたに、直哉もニィと口角を上げて妹の頭を撫でた。
よく似た笑顔だ。
𝙉𝙚𝙭𝙩 .
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。