釣りは好き
一人でできるから
スポーツは嫌い
見られてるから
赤い浮きが沈んで竿が曲がる
紐がピンと張ったらぐんっと引く
レバーを回して手繰り寄せる
20cmちょいの小さな鯛が釣れた
まぁ一人で食べる分には足りる量だ
タイは船の上でバタバタ暴れて「生きたい」「死にたくない」ともがいている
暴れるタイを押さえつけて目と目の間をナイフで一突き
そしてエラの下と尾びれの動脈を切ってバケツの中に出す
海の水の入ったバケツは赤い波紋を描いて溶けていった
血抜きをしたタイをボックスに入れる
言っても無駄
でも言わないと駄目
だから毎回慰めなのか謝罪なのかポツリと一言吐く
どうしよっかな
眠い
この堀は人気がないからか、それとも平日だからか人は居なかった
魚が取られることはないだろう
それに生真面目な親も
出来すぎた兄弟も居ない
瞼はびっくりするほど重くなっていて
椅子に座った瞬間意識が遠ざかって行った
目が覚めると空は灰色になっていた
いますぐにでも雨が降りそうなその雲は
ゆっくりゆっくりと流れている
流石にやばいと思って立ち上がると
足元がコンクリートの黒とは違う赤茶色になっていることに気づいた
赤茶色の地面をよく見ると
小さな段差がいっぱいあることに気づいた
まるで屋根みたいに
「屋根みたい」じゃない
「屋根」そのものだ
意味不明過ぎないか?
周りを見渡すと黒い海がゆらゆらと揺れていた
遠くの方には沈んだ、
洪水が起きたときのテレビで見るような
赤茶色の屋根の家があった
あとは寝ていた屋根の横に止めてある謎の木の舟
船の上には船を漕ぐやつ
船は屋根の端にロープで止められていて
「乗れ」
と言っているようだった。
荷物をまとめて船に乗せてボートに乗ると
黒い海は意外と穏やかなようでそこまで揺れはしなかった
どのくらい漕いだか
1、2時間くらい?
10時間くらい?
実は5分も漕いでないとか
とりあえずすごく漕いで疲れた
結構洒落にならないくらい痛い
「穏やかそう」って言ったの誰だよ
めっちゃ荒れてるわ
と言ってもあるのは黒い海と沈んだ家
あとは時々流れてくる白くて大きいプラスチックの破片
駄目だ
考えたら波に揉まれて死ぬ
波は船を包み込むように
まるで絶壁みたいに
不可抗力だ
そのくらいわかっていたはずなのに
「生きたいと」ともがいでしまう
息を吸うたびに辛い水を飲み込んで
喉が焼けるように痛い
ちゃんと空気が取り込めないから
もっと大きく口を開ける
呼吸しようと思ったら塩辛い水が体に入ってくる
もがいて顔を出そうとすると服が水を吸って逆に沈んでいく
痛くて
苦しくて
暗い海の中は手を伸ばした先が
きれいに見えるくらいの透明度なのに
手を伸ばしたら戻ってこれなさそうな
真っ黒い海
ああ
人?
いや、生気がない
しらない⋯
いやでも、「知ってる」って言ったほうが生存率は高くな
⋯なんでバレた?
気づかれたことないのに?
金髪の男は少し困ったような顔をして
海に蹴り落としてきた
水が口に入って視界がぼやける
気持ち悪い
めっち痛い
蹴り落とされた屋根になんとか掴まって
なんとか重い体を上げた
喉が痛い
ピリピリする
カラカラする
目も痛い
「☆」つけんな
絶対嘘じゃん⋯
でもこれ以外に助かる手口は無いようなので
とりあえずついていくことにした
結局その後4回海に落とされた
上がるときかなり体力を使うし
上がったあともふらふらになるので勘弁してほしい
カモメって人によると
一発殴りたい
後半は流石にやばいと思ってやめてくれて、
普通に緑色のピクトグラムの光るドアまで案内してくれた
聞かなかったことにしておこう
金髪の男はドアが完全に閉まるまで手を振り続けていた















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。