副寮長が椅子を引いて促すので、あなたは会釈してそこに座る。
彼の言う通り、椅子は想像より温かく、柔らかな感触だった。
目の前に置かれたテーブルの真ん中には、
透明なガラスとすりガラスが交互に並んだ、
美しいガラス製のチェス盤が置かれている。
そう言って副寮長は部屋の隅に移動すると、かちゃかちゃと音を立てながら、手際よくティーセットの用意を済ませた。
『寮長』という言葉に、あなたはピタッと一瞬固まってしまう。
向かいに座った副寮長と目が合う。
副寮長が尋ねると、先ほどの巨大なチェスピースたちが、キン、キン、と音を立てて集まってくる。
あなたが返答に困っていると、
副寮長が突然、ぱちんと指を鳴らす。
次の瞬間、「チェスピース」は光を帯びて小さくなり、
放物線を描きながら、目の前のチェス盤に次々と飛び込んだ。
副寮長は、あなたが駒を動かすたびに、
自分の駒にも全く同じ動きをさせ続けた。
彼女の正体を探るような、温度のない瞳で、
……じっと、こちらを見つめながら。
言われるがまま、クイーンの駒を手に取り、動かそうとした、次の瞬間──
突然、副寮長に手を掴まれた。
副寮長は、トントン、とチェス盤を指で叩き、あなたはクイーンの駒を落とす。
脳を直接揺さぶるような声が、
背中、下半身、そしてつま先を駆け抜ける。
副寮長は、あなたの手を握ったままなぜか満足そうに彼女を見つめていた。
副寮長はあなたの手を離すと、いつの間にか外していた手袋をはめ直し、わざとらしくため息をついた。
突然、盤上にいた「チェスピース」たちが魁斗の前に飛び出したかと思えば、先ほどの巨大な姿へと戻っていく。
副寮長は、何事もなかったかのようにティーセットを片付け始める。
磴が立ち去ると同時に、「チェスピース」たちも後退していく。
魁斗の大きなため息が、宝物庫の氷と共鳴して、部屋中に響き渡った。
魁斗の提案で、夕食は学食ではなく、最近、学園の西側に出来たばかりだというダイナーに行くことになった。
真っ赤なベンチに座り、店内を見渡す。
ポップだけれど、どこかレトロな雰囲気を感じる内装に、心做しかわくわくしてくる。
たしかに、店員らしき人物はさっきの気だるげな1年生の子だけで、しかも彼は今、カウンターに座ってスマホをいじっている。
魁斗がメニューを指差しながら、美味しそうな写真に添えられた、ちょっと不思議な料理名を、淡々と読み上げていく。
その時、制服のポケットがブルっと震え、あなたとルカは同時にスマホを取り出す。
あなたは、読み方がわからないのに頼んでいいのか、メニュー見ておいた方が良かったかな、と言ってからふと気づく。
料理を待つ間、あなたたちはおのずと初任務の話題になった。
そう言って、スマホを眺め始める魁斗につられて、あなたもスマホの画面に目を落とす。
蓮が料理を持ってきてくれる。
そんな彼の顔は青ざめていた。
あなたはメニューを手に取り見てみる。
料理名のところには、『蚯蚓バーガー』という文字が書かれていた。
それを見てあなたは、メニューをちゃんと見ておけば良かった、と後悔した。
その場が静寂に包まれたのは言うまでもない。


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。