帰り道、俺は自分でも理由のわからないモヤモヤを抱えたまま歩いていた。
夕暮れの街はいつも通りで、人々の声、車の走行音、コンビニの電子音。
その全部が、どこか自分から遠い。
その時だった。
怒号。悲鳴。金属が焦げる匂い。
街の喧騒が一瞬で恐怖に塗り替わる。
振り返ると、黒いフードと仮面を被った男がいた。
その男の周囲で、雷が蛇のように這い回り、アスファルトを焦がしている。
周囲の人間は反射的に逃げ出す。
俺も自然と身体を交代させ、逃げる。
ーーーはずだった。
その声を聞いた瞬間、
俺は思考は泊まり、反射的に振り向いた。
そこには、腰を抜かし動けなくなっている大学の友人――白木風音。
風の竜魂を持つ少女だ。だが、風は雷に弱い。
この世界でも、能力に相性はある。
もし戦っても、負ける。
それくらい、凡人の俺でも理解できた。
仮面の男がゆっくりと風音へ歩み寄る。
雷が拳に集中し、空気がビリビリと震える。
風音の瞳が恐怖で揺れる。
その声が決定打だった。
考えるより早く、俺の足は動いていた。
自分でも驚くほどの速度で風音の前へ飛び込む。
しかし。
雷を纏った拳が、俺の腹を貫いた。
焼ける。痛い。冷たい。
身体の感覚がぐちゃぐちゃに壊れていく。
血が溢れて、意識が霞む中、風音の叫び声だけが鮮明に聞こえる。
飛び込めば死ぬ、誰でもわかるほどの状況だった。
倒れた地面が冷たい。
視界が揺れ、音が遠のいていく。
震える風音の声だけは、はっきり届いた。
悲しみ、悔しさ、混乱。全部混ざった声。
足音が遠ざかる。
逃げている。けど、追いつかれる。
結末なんて目に見えている。
視界が暗くなり、
鼓動が一つ、また一つと遠ざかっていく。
呼吸も、痛みも、感覚も、全てが消えていく。
——そして、俺は死んだ。
——はずだった。
腹に開いたはずの穴が、じわじわと熱を帯びていく。
細胞が再生する音すら聞こえる気がした。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!