第18話

漫才
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2023/02/22 11:00 更新
秋が去りつつある。
長袖一枚だけじゃ肌寒くなってきたということで、
鍋パーティーをするらしい。
村宮の家で。
和田と三浦がダイニングの方で鍋の準備をしている間、
俺と村宮はキッチンで
具材を切る役目を担ったわけだが……。
葵衣
葵衣
誰だよ、みたらし団子買ってきてんの
周
僕ー!
葵衣
葵衣
デザートはおはぎがあっただろ
周
デザートじゃないよ?
葵衣
葵衣
は……?
目の前に鎮座する六本入りのみたらし団子。
鍋用の具材の中に混じっていること自体
おかしいと思っていたが、まさか……。
周
もちもちで美味しくなるかなーって
葵衣
葵衣
何考えてんだお前……
鍋に入れる気満々だったらしい。
あほかこいつ。あほなのか。
周
えーダメかなぁ
葵衣
葵衣
却下。無理。そのまま食え。
てかなんで六本入りなんだよ
周
三本じゃ皆食べれないし……
葵衣
葵衣
その気遣いは素晴らしいけどな。
鍋に入れないっていう気遣いも欲しかったな
周
えー……タレも相まって
美味しくなるんじゃないかな?
葵衣
葵衣
どうしても食いたかったら、
最後にお前だけで食えよ
本来鍋に入れるべき野菜やキノコを切っていると、
後ろで冷蔵庫が開く音が聞こえた。
葵衣
葵衣
……何してんのお前
司
えー? 汁足りなくなったら
どうしようかなって
そう言った和田の手にあるのは、麦茶のペットボトル。
葵衣
葵衣
……なくなったら考えろよ。
つかなくなっても絶対それ入れんなよ?
司
やだなぁ、飲むだけだってばぁ
葵衣
葵衣
お前らだったらやりかねんからこえぇんだよ
美味しいはずの鍋が一歩間違えたら闇鍋になりかねない。
俺が食べ終わるまで気ぃ抜けんな……。
その後はどうなってもいいわ、もう。好きにしてくれ。
成也
成也
具材まだ切り終わらへんの?
先ほどから鍋の前に座ったまま、まったく動かない三浦。
何だあいつ。亭主関白かなんかなのか。
周
大体切り終わってるよ~!
先に野菜入れとく?
成也
成也
オレもう腹減ってんねん。なんか食いたい
周
じゃあ早めに入れちゃお
司
鍋あったまってるだろうし、
お肉しゃぶしゃぶする?
薄いの買ってあるよ
成也
成也
もうなんでもええわ。食いたい
葵衣
葵衣
なんでそんな腹減ってんだよ
集合時間は午後四時だった。
夜ご飯にしては早い時間だと思ったが、
普段料理しない俺らが鍋をするなら時間がかかるだろうし、
妥当だとさえ思っていた。
今は午後五時半。
おおよそ時間通りだが……いや待てよ。
葵衣
葵衣
……お前んちもしかして、
いつもこの時間に飯食ってる?
成也
成也
せやねん。
いつもならもう食い終わってる時間や
葵衣
葵衣
全てにおいて早いよなお前んち
祖父母の家にいるのなら、
夕食の時間が早いのは理解できる。
俺のじいちゃんも、この時間に食い終わってるし
寝るのも早いし。




司
はい宮ちゃん、たんとお食べ。
おもちもあげちゃう
周
わ~ありがと~!
成也
成也
オレもそれ食いたい
司
セッチは自分で取って下さ~い
成也
成也
取り箸お前が持っとるやろ
司
もう持ってませーん
葵衣
葵衣
ガキか
ダイニングテーブルに座って、
やんややんやと鍋をつつき始める。
俺の目の前に座る村宮は美味しそうに餅を頬張ってるし、
隣の三浦は和田と言い合いしながらも
自分の皿に次々と具材を入れていく。

俺も自分の皿に取り分けた野菜とキノコを
いっしょくたに口に放り込んだ。
寒い日の鍋はやっぱりうまい……そう思っていた矢先。
葵衣
葵衣
おい!! 誰だよ変なのいれたやつ!
先ほどまでのさっぱりしたつゆの味を邪魔するように、
甘ったるい何かが口の中に広がる。
とろとろしたこの感じは……まさか……
周
みたらし団子! 美味しくない!?
葵衣
葵衣
やっぱりお前か村宮!!
村宮の傍には、残り四本になった
みたらし団子のパックが置かれていた。
くっそ目を離したすきに……!
成也
成也
案外いけるでこれ
司
セッチなんでも美味しいっていうじゃん
成也
成也
うまいもんにうまいって言って何があかんねん
司
そういう男前なとこ、嫌いじゃないよ
周
ね、ね! 美味しいよね!
もっと入れようか!?
葵衣
葵衣
やめろ!!!!
あぁ……俺はスタンダードな味の
鍋が食べたかったのに……。
みたらしの味が邪魔して口の中で暴れまわってる。
……なんであいつら普通に食えんの。
俺がおかしいのか……?
みたらし鍋が好評だったのが嬉しいのか、
テンションが爆上がりした村宮は
いろんな話を一人でし始めた。

和田が相手してるしいいか、と
自分の手元にあるみたらし鍋と戦っていると、
何かを思い出したように村宮が声を上げた。
周
そうだせいや! 漫才教えてよ!
葵衣
葵衣
はぁ?
三浦が口をもぐもぐさせながら無言で村宮を見ている横で、
俺は思わず声を漏らした。
いやだって、もうすでに漫才みたいな
やりとりしてるじゃねぇか、普段から。
周
この前修学旅行で漫才見たでしょ?
あれが忘れられなくって!
成也
成也
あー確かにあれは当たりやったな
周
でしょ? だから僕もやってみたいなーって!
成也
成也
大阪人が誰でも漫才できると思ったら
大間違いやで
周
むー……でもいつも面白いじゃん!
つかさとのやりとり、漫才みたいじゃない?
司
えー心外。ただのボーイズトークなのに
成也
成也
ボーイズトークなんざした覚えないわ
司
やだ照れちゃって
周
ね! あおいも漫才したいよね!
傍観を決め込もうとしたが、流れ弾を食らった。
巻き込まないで欲しい。
葵衣
葵衣
いや、俺は……
司
この中で突っ込み出来るのって
アイアイだけだもんね
成也
成也
最近は静かなツッコミも
できるようになったしな
周
ほら! 適任だよ!
『なんでやねん!』っていうの似合うし!
葵衣
葵衣
それは言った覚えねぇわ
村宮の興味はもうすべて漫才にあるらしく、
話の軌道を変えられそうにない。
飽きるまで待つか、と再び手元の味と格闘を始める。
司
宮ちゃんは台本通りにはいかなそうだよね
成也
成也
台本なんていらんやろ。
そのままをお届けすんねん
周
なんでやねん!
成也
成也
あかんあかん、もっと腰入れて言わな。
腹から声出せ
司
タイミングはばっちりだったよ
周
なぁ~~んでやねん!
成也
成也
あかん! もっと短くバシッと!
ズギャンってするんや!
周
なんでやねんッ!
葵衣
葵衣
何の会だよ……
ついには立ち上がり始めた村宮に、三浦が熱く指導する。
三浦お前……そんな大声出せたのか……。
周
ふぅ……やっぱりツッコミが決まると
気持ちいいね!
成也
成也
いつどこでボケが来るか分からんから、
常に心してかかれよ
周
はい! 先生!
司
かっこいいよ宮ちゃ~ん
葵衣
葵衣
……絶対突っ込まねぇからな
普通の鍋だろうがみたらし鍋だろうが関係ない。
そもそもこの面子がそろって
落ち着いて飯なんて食えるわけがないのだった。

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