私の言葉を聞くと切れた電話。
…関係ない。
そう思いスマホをポケットに入れた。
何故か、3人が居る所には戻りづらくて1人で川沿いを歩く。
今、きっと仮面がしっかりと効力を発揮しているのだろう。
頭が痛みだし、薬がない事を後悔しながらその場に座り込んだ。
そのうち落ち着くだろう。
頭痛の原因を考えないようにすればする程、ズキズキと音は激しくなる。
軽く怒っているようだが、特効薬の登場に少し安心した。
私の横に座り顔を覗き込む彼女。
頭痛がしている事を察したのか、私の手をギュッと握ってくれる。
彼女の声が頭の中で響き、頭痛が和らいでいく。
「大丈夫」という意味を込めて、握られた手に軽く力を入れた。
まだ心配そうな表情に、少し微笑んで「大丈夫」と伝えれば、やっと笑顔になってくれた。
けど、その笑顔は寂しそうで…
太陽が川に反射して光っているのも相まって、彼女の儚さが増していた。
私の肩に、遠慮気味に置かれた頭。
「すぐに会える」
そう言ってあげたかった。
けど、言えない自分が居た。
ただでさえ忙しい彼女と、仕事漬けの私。
次いつ会えるかも分からない。
約束なんて出来ない。
時間は止まる事を知らない。
だからこそ、今一緒に居る時間を大切にしたい。
時計を確認すれば13時前。
限られた時間は、あと6時間。
とても小さな声で伝えられた彼女の願いに体が反応する。
差し出した手をゆっくりと取る彼女。
来た道を戻れば、サナさんとジヒョさんが見えた。
サナさんの言葉に、一言謝罪をし帰る事を伝えればすんなり受け入れてくれた。
2人で居れる場所…
彼女達の宿舎だと、他のメンバーがいるし…
外もなー。
人が多い所だと彼女の立場上、良くない気がする。
…あまり乗り気にはなれないけど、あそこしかないか。
運転中、2人になれる場所をひたすら考えていた。
思い浮かんだのは一ヶ所。
彼女達の宿舎前。
サナさんとジヒョさんが先に後部座席から降り、続いて降りようとしている彼女の腕を引っ張った。
彼女の腕を持ったまま、窓を開け外にいるサナさんに声を掛ける。
とびきりの笑顔で手を振るサナさんに一礼をして、車を走らせる。
数十分後。
着いた場所に、彼女は戸惑っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!