その後、とりあえず理事長室に戻ってきたあなた。
言われた通りに、指輪を外そうとする。
ニコラは頬を引きつらせながら、
震える人差し指で、そっと指輪に触れた。
ほっと安堵して、指輪を外そうとする。
理事長はテーブルに身を乗り出して、指輪をまじまじと見つめる。
あれよあれよと検査室に連れられて、中央にぽつんと置かれた椅子に座らされ、目隠しをされた。
すると、扉が開く音が聞こえる。
こつ、こつ、こつ、と硬い靴音が静かな検査室に響き渡る。
足音が正面に止まったと同時に、
お香のような香りが、鼻先をふわりとかすめた。
言われるがまま伸ばした手に、冷たく大きな手が重なる。
長い沈黙の中、ずっと手を握られ、あなたはじっとして終わるのを待つ。
しばらくして、絡められた指がほどかれた。
そう言ったその人物は、ポン、とあなたの頭を撫でた。
テストを終え、あなたは理事長室に戻ってきた。
ソファーに身を預けてゆったりしていると、軽いノックと共に、ハイドが口笛を吹きながら、部屋へと入ってきた。
手には、ガラスのティーポットとカップ、加えてミルクとはちみつが並んだ、トレーを持っている。
ティーポットは、下からろうそくによって温められ、中には華やかなオレンジ色の花が、ゆらゆらと咲いていた。
カップを手に取ると、花の香りが広がり、ゆっくりと口をつける。
コクリと頷き、頬を緩める。
つんつん、とあなたの頬をつつきながら言うハイドに、あなたはじとっと視線を送った。
ハイドはヘラヘラと笑って気にしていない様子。
呆れたように眉を寄せ、理事長が部屋へと入ってきた。
ハイドは顎を撫でながら、集中した様子で、書類に目を通している。
そうして、グールと「スティグマ」の説明が始まった。
あなたはおさらい程度にその話を聞いていた。
悪魔に魂を売り、自らの「願い」を叶えてもらう行為を──「悪魔契約」と呼ぶ。
グールは、その「悪魔契約」をして、運良く生き残った者たち。
基本、「悪魔契約」をした人間は不幸な死を遂げるか、廃人と化してしまう。
彼らグールは、悪魔を喰らったことで、普通の人間とは違い、強靭な体力と特殊な能力を得たとされる。
その特殊な能力、俗に言う『超能力』のことを「スティグマ」と呼んでいる。
そして、先ほどのテストで、あなたが「スティグマ」を強化する能力を持っていることが判明。
指に嵌っている、「叡智の指輪」の効果と考えられる。
それから、入学の手続きを行う。
理事長室を後にしたあなたは、猫に入学式の会場まで道案内をしてもらう。
先に行く猫に声をかけながら、あなたはゆっくりとその背中を追っていた。
猫は度々、後ろを気にしてくれている。
猫が曲がり角を曲がった、その時……。
猫の叫び声が聞こえてきて、あなたは駆け出した。
駆けつけた先には、黄色のバッチをつけた男子生徒が数人。
蹴られたのであろう猫が傍に倒れており、ひとりの生徒が笑いながら猫の首根っこを掴んだ。
あなたはそのまま駆け出し、猫を掴んでいる男子生徒の背中に突っ込んだ。
その瞬間、男の手から猫が宙に投げ出され、あなたはそれを見事キャッチする。
あなたは振り返って、キッとヴァガストロム寮生たちを睨みつける。
あなたは猫を地面に降ろして、守るように前に出る。
そう言って腕を掴まれ、力強く引っ張られる。
あなたはその場に踏ん張り、逆に引っ張り返して抵抗する。
あなたの足元にいた猫が助けを呼びに行こうと駆け出そうとしたその時──
彼女の横に誰かが立ち、男の腕を掴んでいた。
翔平が掴んでいた腕をひねりあげると、あなたの腕が解放される。
あなたの腕を指して、そう言う玲音。
翔平に睨まれ、一般寮生たちは舌打ちをして去って行く。
『ニャー』と鳴き声と共に足にすり寄ってくる猫に、あなたはしゃがみ込む。
返事をするように鳴き声を上げ、猫はあなたの腕の痕を舐める。
あなたはボソッと呟きながら猫を撫でて抱き上げる。
振り返ると、翔平と玲音がこちらを見ていた。
笑みを浮かべて手を振る玲音に、手を振り返して別れる。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。