第26話

# 24 ,
181
2025/08/28 13:21 更新















司書 ,
…はい 、そうですね 

司書 ,
私の母です …, 結局会わないまま死んでしまったんですけど … 



佳紀 ,
佳紀 ,
えっ … 
弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
…… 。


佳紀の頬を嫌な汗が流れる 。


知ってしまった後ろめたさからかは分からないが 、弓弦翎は既に地形図に目を戻していた 。





佳紀 ,
佳紀 ,
ご 、ご冥福をお祈りします… 

司書 ,
いえ… 。クビタチの歴史… ですよね 、これとかは見ましたか ? 


そう言って 、司書さんが手に取った「日本地名大辞典」という本から 、首立村についての部分を読んでくれた 。



司書 ,
__…、 元は一つの村であったが 、近世初期に 首断、腕刈、腕入、足取、達磨捨に分村したと考えられる 。


司書 ,
明治中期には腕入は達磨捨に合併 。


司書 ,
寛延二年に、飢饉・疫病に見舞われ多くの死者が出たために 、廃村寸前まで追い込まれるも人口が徐々に復活して今に至る… 





光 ,
光 ,
…ぇ 、長っ …


弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
… 元は全部一つやったんやね 、


佳紀 ,
佳紀 ,
…クビタチで昔 人が死にまくって廃村になりかけた話はなんとなく知っとったけど …
佳紀 ,
佳紀 ,
自分の村のことなのになんも知らんかった 


司書 ,
クビタチの人はあまり子供に村の話したがらんからねぇ… 
司書 ,
大量死は当時結構大きな事件やったみたいですよ 


司書 ,
沢山の人が変な死に方をしたみたいで … 、書物によれば 、結局飢饉と疫病のせいやったとはありますけど … 


弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
… その書物って ? 

司書 ,
あぁ …、今はもうあらへんのですけど …、
司書 ,
「癒療記」という書物に事詳しく載ってるそうです 。





光 ,
光 ,
… あの 、松浦サン 、
司書 ,
はい ? 

光 ,
光 ,
「ノウヌキ様」って知ってますか ?


佳紀 ,
佳紀 ,
ッ… !? 

弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
… 、

司書 ,
… 母が 、言っとったんですか 


「 ノウヌキ様 」その言葉に松浦さんは反応したのだろうか





ひどく澄んだ 、虚ろな眼を浮かべて 、ぽつりぽつりと口を開いた





光 ,
光 ,
うん 、おれたち それが何か知りたいんや

司書 ,
…未だにそんなことを…


司書 ,
…ここじゃアレなんで 、場所移動しましょうか 





本を一旦片付けて 、司書室に案内された



思い出すように 、少しずつ 松浦さんが 「ノウヌキ様 」について話し始めた 。







司書 ,
母が幼い頃 、あの山に忍び込んで 何か恐ろしい目に遭ったらしく あの山に入るなと強く教えられとりました 

光 ,
光 ,
…やっぱり お、…「ノウヌキ様」って山にいるバケモノなんか 


司書 ,
いや…神様…の様なものやと 
司書 ,
あの村が分村する前からずっと居ると …
司書 ,
「ノウヌキ様」は山におる神様 。…特定の捧げ物と引き換えに益をもたらすモノ…やったらしいです 


佳紀 ,
佳紀 ,
「やった」ってことは 、今は「そうやない」ってことですよね 


司書 ,
そうね 、
司書 ,
ある時の飢饉で、沢山人が死んで…
司書 ,
それを境に祟り神になってしまったんやと 


弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
…その飢饉が 辞典にあった「大量死事件」ってことですか 

司書 ,
多分そうやと思う 
司書 ,
それからノウヌキ様は…山から降りてこやへんようになっとる 
司書 ,
やから山に入ったらあかんのやと…母は言っとりました 


光 ,
光 ,
へえ…松浦さん…のお母さんは山で「ノウヌキ様」見たんかな 、やからおかしくなってまったん ? 


佳紀 ,
佳紀 ,
おかし…ッ 、そういうこと言うなや …

その光の純粋で残酷な疑問を 、佳紀が失礼だと 、肩でどついた 。


司書 ,
いや 、ええですよ 。…本当のことやから 


司書 ,
母がああなったんはね 、私の妹があの山で消えてしまったんが 大きいと思います 


全員 ,
 … え 


司書 ,
私が小学校の頃 、妹があの山で行方不明になって…結局帰って来なかったんです 


司書 ,
村中大騒ぎで、それからもう母がね …元々変な人やったけどね 、
司書 ,
霊感 ?って言うんか 、知らんけど …


光 ,
光 ,
ぇ 、ちょっと、それは お、…「ノウヌキ様」のせいでってこと ? 


と 、眉を寄せて食い入るように質問するヒカルに 、未だ穏やかな顔で松浦さんは言葉を返した



司書 ,
母や一部の人はそう信じこんどったけど…まさかねぇ 

司書 ,
当時も 、「ノウヌキ様」なんて村の年上の人達が何か騒いどるなって位で 、子供らはよう分かってませんでしたから 


司書 ,
ぁ…でも 、はじめちゃん達は何か知っとったような…



はじめちゃん … ? 、はじめって …
弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
…武田のおじさん ? 
司書 ,
そうそう 
司書 ,
武田と三笠と松島の… 


司書 ,
丁度君たちみたいに 、私らも幼馴染なんよ 
司書 ,
ああ…そうや 、はじめのお父さん…、武田のおじいちゃんに訊いてみるのはどうやろ ? 母と同世代ですから


光 ,
光 ,
武田のじいさん…
佳紀 ,
佳紀 ,
ずっと見かけとらんな…小さい頃に少し接点あった位やし…
弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
わたしも全然会っとらん… 、






そう3人で悩んでいると 、閉館のアナウンスが流れていた



佳紀 ,
佳紀 ,
…ありがとうございました 、なんかすいません 、お母さん亡くされたばかりやのに …


司書 ,
ええですよ 、私は…母にとって薄情な娘でしたから 
司書 ,
それでも…大事な人やったなぁって 、今更思ったりしてねぇ …笑っちゃいますね 


弓弦翎 ,
弓弦翎 ,
そう、だよね
佳紀 ,
佳紀 ,
… 、


司書 ,
調べ物 、頑張って下さいね (微笑 ,











カア
            カア 、カア…






ケッタを押している佳紀とヒカルの少し前を 、弓弦翎は小石を蹴りながら歩いていた 。


「 それでも 、大事な人やったなぁ って… 」





松浦さんが最後に言っていたその言葉が 、自分の脳味噌の中をぐるぐると巡る 。





当たり前だよね



どんな人だって 、親は大切だ


どこまでいっても 、親は親なのだから



人殺しだって 、能無しだって 、誰だって 、さ







後ろで 、佳紀とヒカルが何やら少し言い合っているような声がした 。



いつもなら耳に入ってくるはずなのに 、今は全然内容が分からなかった 。








… わたしも 、ヒカルと一緒なんかな






松浦さんのお母さんの死を 、










小石を蹴っていた足が止まり 、弓弦翎はくるっと 2人の居る後ろを振り向いた 。




佳紀 ,
佳紀 ,
、!! 
光 ,
光 ,
!! 、


夏目 弓弦翎 ,
私 、軽く見とった 




佳紀 ,
佳紀 ,
…ぁ 、え … ? 何を …



夏目 弓弦翎 ,
松浦さんが死んでまったこと 。


光 ,
光 ,
!! …そ、れは … 


夏目 弓弦翎 ,
わたしも一度 、光が居なくなって 嫌なぐらい分かっとった筈やのにね 



夏目 弓弦翎 ,
そこに居ることが当たり前やった人が 、ぱったり消えてなくなんのは 。





その言葉を聞いて、目の縁にじわじわと涙を溜めるよしきとは逆に 、 ヒカルはどうしたらいいか分からないような 焦った表情を浮かべていた 。





夏目 弓弦翎 ,
… 分からんもんは分からんよね 、

光 ,
光 ,
ご…めん 、

夏目 弓弦翎 ,
これはもう謝ったって何も変わらへん 、仕方ないことや 

夏目 弓弦翎 ,
ただ覚えといて 、




夏目 弓弦翎 ,
人間にとって 、人の死って「重い」んよ 



そう 、重いんだ



当事者であれば 、尚更


そしてそれは当事者間とは別の 、関係ない第三者にとっても


少なからず 、重いもの だと 感じるものなんだ


光 ,
光 ,
おれ… 、


夏目 弓弦翎 ,
…大丈夫 、
佳紀 ,
佳紀 ,
、 ? 





夕方のそよ風が 首元の汗を乾かすように吹き付ける


心なしか 、びゅうびゅうと音が鳴っているぐらいには 風が強い気がした



夏目 弓弦翎 ,
これから先 、ヒカルがまた誰かを殺してしまったとしても 
夏目 弓弦翎 ,
私も一緒に罪を背負うよ 


光 ,
光 ,
えッ…、なん____ 


佳紀 ,
佳紀 ,
それはおれも一緒や 。…俺も 、背負う



光 ,
光 ,
ッなんで ? 別に2人まで …





そう俯いて何か考えた後 、ヒカルはぱっと顔をあげて 、まっすぐこちらを見つめている弓弦翎と 、泣きそうな眼をこらえながら 微笑む佳紀をみて 口を開いた



光 ,
光 ,
いや …、ありがとな 


夏目 弓弦翎 ,
… はよ 帰ろ 、 もう日落ちてまうわ 


佳紀 ,
佳紀 ,
…せやな 、


ヒカルのことを 、知れば知る程




光 ,
光 ,
…うんっ 、



理解すれば 、する程


ここに居ったらあかんってことも 、浮き彫りになるかもしれん




でも 、もう目をそらすんはやめたやろ


ちゃんとあの時向き合えば良かった 、なんて後悔はもう



したない



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