たぁside
ソファの背もたれにのしかかりながら言う。
僕達が風邪でダウンしている間に、今ガチの方では色々あったらしい。
あの動画は、黒川あかねの印象を捻じ曲げると共に、今ガチの人気を決定ずける物となっている。
何かあったの???
一流の役者しかいないとされている、劇団ララライ
その劇団の若きエース。
あかねちゃんは努力家だから。
、、、まぁ、サファは演劇界の絶対的エースで
"金輪際現れない天才子役" なんて言われてるもんね。
まるで、物語の人物が脚本の中から飛び出てきたかのように、完璧かつ繊細な演技。
あの演技は、視界も聴覚も狂わせる。
例え役の衣装を着ていなくても、勝手にその役の『姿』が集団幻覚のように現れる。
だから例え衣装が無くたって特に関係無い。
まぁ、本人は衣装がある方が演じやすいみたいだけど。
そして、それを可能にする高い観察眼と考察力、洞察力、頭の回転の良さ。
そして、人を引き付ける天性の才能。
サファには、誰であっても勝てない。
そう言われている。
天才という言葉では表せないほどのスター性。
それを持ち合わせているのが、星野サファイア。
演劇知らない人でも、何度ども聞いたことは必ずあるような、凄い役者だから。
、変なの。
今ガチ 視聴中
あかねちゃん、まるで、、、
、、、なんか、見るの辞めた。
そう思い、パソコンを閉じる。
なんだか、昔の幸せな時間を思い出してしまって。
僕の無力感を思い出してしまって。
まるで、頭の中に霧がかかったかのようだ。
、、、僕は、結局。
お母さんのこと、なんにも分かってないや。
そう呟きながら机に突っ伏す。
お母さんが死んで、一番変わったのは、
多分、あの子だから。
、、、
、、、どうやったら、
あの子を、救えるんだろうな。
助けてって言ってくれたら、
真っ先に、駆けつけるのに。
サファside
今ガチ 視聴中
、、、あかねが、アイを演じた。
言葉遣いも、思考も、瞳だって、ほぼ完璧だ。
、、、ただ、少し、違う。
手や足の動かし方が数ミリ単位で違う。
重心もほんの少し違う。
アイが言うであろう言葉はほとんど解釈一致だが、感情は全く違う、と思う。
首のかしげ方、口角、角度、目の細め方。
全部、数ミリ単位で違う。
でも、その数ミリが、
アイにとってはもの凄く大事な数ミリだってこと。
俺だって、知っているから。
共感できるから。
今のアイを演じたあかねに、『ごめん』って言っても
きっと、『何が?』って帰って来る。
なぁ、あかね。
1つ、いいことを教えてやる。
役作りって認識じゃ、駄目なんだよ。
その『人』を自分の体に宿らせるんだよ。
過去の体験も死ぬ間際の体験も、全部、全部。
それができるのが、『完璧』な役者なんだよ。
あかねのお陰で、ハッキリとわかった。
やっぱり俺は『完璧』じゃなきゃいけないし、
負けるなんてあり得ない。
俺が誰かに救われるなんてあってはならないし、
ずっとずっと苦しまなきゃならない。
あかねの演じる『アイ』は所詮作り物だ。
アイはもっと、もっと完璧なんだ。
完璧じゃなきゃ、ならないんだ。
俺は『完璧』なんだから、
この『完璧』が遺伝だと言うことにしないと、
何で俺は『完璧』にならなきゃなの???
アイからの遺伝だから、俺はまだ、この『完璧』を、少しは愛することが出来るのに。
アイは絶対に『完璧』じゃなきゃ許さない。
絶対に、許さない。
そして、誰かに負けることも許さない。
助けを求めることも許さない。
だって俺は、
『完璧で究極な役者様』で、
アイは、
『完璧で究極なアイドル様』なんだから。
そう言って、今ガチをつけていたスマホを投げ、
アイの役をしたあかねが写っている画面には、クモの巣状のヒビが入っていた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。