今日の君はなんだかおかしかった
時間より少し遅れてしまって駅まで小走りで駆け込む
うわ言のようにルゥトクン、と呟く君は何故か、とても恐ろしかった
黄色と紫の君の瞳が何故か、紫色でとても顔色が悪かった
とりあえず声を掛けないと
嫌、でもそれより
そう、角。
紫色で先端だけ薄い黄色のその角
彼はそう言って目をスっと細める
発音が少し聞き取りづらい。
いつものりいぬの発声とは少し違っていて何故かとても機械的だった
その黒い着物も少し珍しく周りから浮いているが、彼のその角だけとても異質だった
まるで
きみがどこか遠くに行ってしまいそうで怖くて手を伸ばした
、
伸ばしかけて、やめた
急に、君が怖くなってしまったから。
自分が情けなくて、泣きたくなった
思いがけず発してしまった質問に間髪なくそう答えられる
本当にりいぬなの?
漠然と違う、違う、と頭の中の信号が点滅していて
君を助けたい気持ちと君の中に何かがいて欲しくない感覚が織り交ざってぐちゃぐちゃになった
違う、貴方は、りいぬじゃない
そう、頭の中の電波塔が強く発信するから。
言ってしまった。
瞬間、諦めたように彼は目を細める
もう解っていると
そんな訳が無い
解らない
解りたくないんだ
どうしても
君が、君じゃないことを
どうしても解りたくない
でも君の中にナニカがいることを直感的に解ってしまって、朝に食べたものが逆流してくる感覚と共に気持ちが悪くなった
言葉を理解するよりも早くシュ、と音を立てて気がつくと目の前に彼がいた
え、え?
子供の時に憧れた瞬間移動のような、
それともいつか畏怖した鬼の能力のような。
やっぱり君の中にいる貴方は鬼だった。
せめて君は鬼ではありませんように。
________え?
死ぬって言った?
僕殺されるの?
かなり遅れて言語を理解する
15cmほど下の目線から深い紫色の瞳が僕を捕える
彼は懐から短めのナイフを取りだしてこちらに向ける
本当に殺す気のようだ
肩が大きく震える
彼は罪悪感からかこちらから少し目を逸らした
大丈夫じゃない!!
明らかにそれだけは分かる。だって殺されそう
気がつくと彼の声は朝に出会った時より機械感が増してボイスチェンジャーを掛けたような声になっていた
こちらに向けたナイフは1ミリもブレることなく殺意を滲ませている
声すら出すことも出来ずに足がぶるぶると震えて動けない、逃げられない
嫌、それとも
君になら殺されてもいいと、思ったからだろうか。
すとぷりを結成するずっと前から一緒にいた君になら。
そう発した彼に
静止の言葉を発したのは
きっと君に罪を抱えてほしくなかったから。
数秒後に来る衝撃に構えて目を瞑る
うっ怖い
ごめんねリスナーさん僕死ぬ…ありがとうお母さん………………
……………
………………
………………………………………
いつまで経っても来ない衝撃に薄目を開ける
急に彼は機械的な声を荒げた
急に二重人格のように雰囲気が変わる
えっ怖い
先程まで1ミリのブレもなかったナイフが焦点を定めずに色々な方向に彷徨う
彷徨っていたナイフがぴた、と方向を決める
それは、
君の心臓だった
彼が声を荒らげ、抵抗をする
それは
君が居なくなる恐怖に、足を1歩踏み出した瞬間だった
また、伸ばしかけた手がなにも掴めずに空中の亡霊になる
君の胸にナイフが吸い込まれて行ったようだった
白昼夢のような、気分だった
痛い、痛いと君?彼は叫ぶ
彼の悶絶するような叫びに間に合わなかったことを悟る
ぐしゃ、と音を立て彼は地面に倒れる
ぱち、と開けた彼の瞳はもう両方紫色ではなかった
いつもの、安心するいつもの色だった
いつの間にか元に戻った声でそう言う君はとても弱々しくて
その小さな体に吸い込まれたナイフから止めどなく溢れるものが、僕と同じ赤色の血だったことを鮮明に覚えている
りいぬ!!りいぬ!!!
と必死に叫ぶ
でなくては君が消えてしまいそうだったから
空は今日もこんなにも眩しい
君は今にも死にそうだって言うのに
何故か微笑んで、手を投げ出して、
僕はこんなにも君に死んで欲しくないのに!
最期かもしれないって言うのに、ぼろぼろと落ちてくる涙が君の姿を覆い隠してしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。