桜が咲くにはちょっと早い季節。
今日は晴天だった。
入学式は土砂降りの大雨だったから、晴れてよかったと思う。
式やクラス最後の話が終わって、グラウンドに出て来たところだ。
周りには大勢の生徒がいて、それぞれ思い思いの会話をしている。
あれから色々あったけど、ちゃんと俺は卒業式を迎えることができた。
大学にも無事受かることができて、春から大学生だ。
三年生に進級する時、いじめのことがやっと問題に上がったらしく、
またクラス替えが起きて、ほぼほぼ一年生の時と同じメンバーになった。
そのおかげで、俺らは奇跡的に同じクラスになることができた。
先生曰く、かなり珍しい事例らしい。
一旦それぞれ他の人と話すらしく、この場は解散するらしい。
どうせ俺らは夜ご飯一緒に食べる約束してるし、
一緒に遊びに行く約束もしてるから、そこまで寂しくはない。
むしろ、今はもう二度と話さないような人と話す時間だろう。
そう思い、離れていくみんなを見送った。
校舎の方に向かうと、直輝利先輩と達夜先輩が声をかけてくれた。
わざわざ学校まで来てくれたらしい。
あれから、直輝利先輩との関係は続いていて、受験生の時に大変お世話になった。
癒餡も、二年生になった頃にはもう吹っ切れていて、少しずつ先輩との関係もよくなってきて、前ほど復元はしてないけど、また3人で話すことはできるようになった。
達夜先輩にも勉強面で大変お世話になった。
俺が大学に行けたのはほぼほぼ2人のおかげだ。
校門に向かって歩いていると、見覚えのある赤髪を視界に捉えた。
あれから、癒餡が手伝ってくれて、じゃぱぱと話した。
癒餡と一緒に事情を話して、無事にじゃぱぱとも和解することができた。
今では俺が話せる唯一の後輩だ。
……まあ、俺にだけなぜか当たりが強いけど。
あれからじゃぱぱは本当に部活の先輩のところに行ってしまった。
ほんとに可愛くねえ後輩。
気を取り直して、校門にいる癒餡と母さんの元に向かった。
明らかに不機嫌な癒餡を見送る。
確かに言い忘れてたわ。ごめん。
…でも、どうしても行かないといけないところがあるから。
卒業式。
俺にとってはそんなに特別でもない日。
泣くほど学校が楽しかったわけではないし、
別れを惜しむ程の友達もいない。
完全に暇を持て余していた。
2人は相変わらずで安心する。
…卒業式くらい、真面目であって欲しかったけど。
2人は話が早くて助かる。
もうこの場所に用はないし、早く移動してしまおう。
何回来ても、ここは特別な場所だった。
俺と飛露が初めて会話した場所。
逃避行の始まりの場所。
だからこそ、ここで終わらせないといけない気がした。
今回は俺が先だったらしい。後ろから声をかけられた。
久しぶりに飛露の声を聞いたけど、全然変わっていなかった。
あの時と同じ、透き通った声。
会話は続かない。だけど気まずさはない。
懐かしい感覚だった。
やっぱりか。予感はあったんだ。
飛露は、なんとなく東京に行くだろうと思ってた。
彼は、東京に特別な感情がありそうだから。
飛露の視線がずれる。
自分で聞いてきたくせに、興味なさげな返事をする。
ずっと聞きたかったことだった。
俺と飛露は友達ではない。
だからもう、あの日から二度と会うことはないと思っていた。
実際、あの日以降クラスでも話すことはなかった。
俺と飛露の目的は終わったから。
だから、なんで俺を呼んだの?飛露くん。
飛露は鞄から一枚の紙を取り出した。
お世辞にも綺麗とは言えないような紙だった。
くしゃくしゃにしたものを、無理矢理引き伸ばしたような。
差し出された紙を手に取る。
見覚えのある絵が見えた。
途中で嫌になって辞めた、あの描き途中の絵。
そう言って飛露は俺に背を向けて歩き出した。
……いつ拾ったのだろう。
いつのまにか無くしていたから覚えていない。
飛露は、こんなものをずっと大切に保管していたのだろうか。
飛露が振り向く。
まだ何かあるのだろうか。
そう言って、飛露は俺の返事も聞かずに歩き出す。
……あぁ、そうだったんだ。
なんだ、そんなことだったんだ。
俺の声は飛露に届いただろうか。
もう飛露は見えなくなってしまったから分からない。
“待ってる”
そう聞こえた気がした。
紙をできるだけ丁寧に鞄にしまう。
飛露とは反対の方向へ歩き出した。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。