第30話

東京ロマンス
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2026/07/15 03:00 更新
桜が咲くにはちょっと早い季節。

今日は晴天だった。
入学式は土砂降りの大雨だったから、晴れてよかったと思う。

式やクラス最後の話が終わって、グラウンドに出て来たところだ。
周りには大勢の生徒がいて、それぞれ思い思いの会話をしている。
羽璃ー!
おっ、どぬじゃん、卒業おめでとう
羽璃もね!こっちこっち!みんなで写真撮ろ!
うん、わかった
あれから色々あったけど、ちゃんと俺は卒業式を迎えることができた。
大学にも無事受かることができて、春から大学生だ。
あっ!羽璃!写真撮るよー!
ポーズどうする?
別にピースでいいじゃん
それじゃあ味気ないでしょ!
それは後ででいいから!はいはい寄って寄ってー!
三年生に進級する時、いじめのことがやっと問題に上がったらしく、
またクラス替えが起きて、ほぼほぼ一年生の時と同じメンバーになった。
そのおかげで、俺らは奇跡的に同じクラスになることができた。
先生曰く、かなり珍しい事例らしい。
はいっ!撮れたよ!後でグループチャットに送っとく!
ありがとー!
じゃあ、一旦解散かな、また後でね!
ん、了解
一旦それぞれ他の人と話すらしく、この場は解散するらしい。
どうせ俺らは夜ご飯一緒に食べる約束してるし、
一緒に遊びに行く約束もしてるから、そこまで寂しくはない。
むしろ、今はもう二度と話さないような人と話す時間だろう。
そう思い、離れていくみんなを見送った。
……あっ!うりりん!卒業おめでとうございます!
おめでとう!
ありがとうございます!
校舎の方に向かうと、直輝利先輩と達夜先輩が声をかけてくれた。
わざわざ学校まで来てくれたらしい。
もう、ちゃんと卒業できて安心しました……
ほんまにな、直輝利さん、相当苦労しとったからなぁ……
いやぁ、その節は大変お世話になりました……
あれから、直輝利先輩との関係は続いていて、受験生の時に大変お世話になった。
癒餡も、二年生になった頃にはもう吹っ切れていて、少しずつ先輩との関係もよくなってきて、前ほど復元はしてないけど、また3人で話すことはできるようになった。

達夜先輩にも勉強面で大変お世話になった。
俺が大学に行けたのはほぼほぼ2人のおかげだ。
まあ、ちゃんと卒業できてよかったわ!これで晴れて大学生やな!
大学生活楽しんでくださいね!
はい、ありがとうございます!
まだ話したいところなんですけど、校門の方に癒餡くんとお母さんが見えたので、話して来たらどうですか?
えっ、まだ帰ってなかったんだ。
わかりました、行って来ます!
行ってらっしゃい!
校門に向かって歩いていると、見覚えのある赤髪を視界に捉えた。
……あっ、じゃぱぱじゃん。わざわざ来てくれたのか?
……癒餡くんに誘われたので。
なのに癒餡くんお母さんのところ行っちゃったし、気まずいっすw
あれから、癒餡が手伝ってくれて、じゃぱぱと話した。
癒餡と一緒に事情を話して、無事にじゃぱぱとも和解することができた。
今では俺が話せる唯一の後輩だ。
……まあ、俺にだけなぜか当たりが強いけど。
…まあ、とりあえず卒業おめでとうございまーす
それが卒業する先輩に対する態度か!
冗談っすよw
おめでとうございます
はぁ……
まあ、次はお前らが最高学年だからな。頑張れよ。
はい!任せてください!
返事だけは一丁前だな……
まあ、期待してる
…あっ、あと、部活の先輩に会いに来たのがメインですからね。
勘違いしないでくださいよ
ほんとにかわいくねえなお前!
あれからじゃぱぱは本当に部活の先輩のところに行ってしまった。
ほんとに可愛くねえ後輩。

気を取り直して、校門にいる癒餡と母さんの元に向かった。
帰っててよかったのに
お前、来て早々言うセリフがそれかよ……
ほんとにね、折角待っててあげたのに……
もういいの?ちゃんと友達と話して来た?
うん、それにあいつらとはいつでも会えるし
そう?じゃあもう帰る?
うん、でも俺、寄るところある
はっ!?じゃあ一緒に帰らないの!?折角待ってたのに!?
だから帰っててよかったのにって言ったじゃん……
先に言ってよ……
まあいいじゃない。癒餡、帰るわよ
はーい……
明らかに不機嫌な癒餡を見送る。
確かに言い忘れてたわ。ごめん。

…でも、どうしても行かないといけないところがあるから。
卒業式。
俺にとってはそんなに特別でもない日。

泣くほど学校が楽しかったわけではないし、
別れを惜しむ程の友達もいない。
完全に暇を持て余していた。
あっ!飛露さん!ご卒業おめでとうございます!
乃愛さん、ありがとう
いや〜、飛露くんも遂に大学生か〜、時の流れは早いね〜
おじさんみたいなこと言わないでよw
はぁ!?まだぴちぴちの20歳ですけど!
あっ!そうそう!私たち、飛露さんの親ですか?って言われたんですよ!ひどくないですか!?
私もまだぴっちぴちの20代なのに!!
乃愛さんと夫婦か〜……w
なんですか?詩葉さん?
イエ、ナンデモアリマセン
2人は相変わらずで安心する。
…卒業式くらい、真面目であって欲しかったけど。
あのさ、来てもらってごめんだけど、先帰っててくれない?寄るところあるからさ。
えー…?まあ、いいけどさぁ〜
わかりました!でも遅くなりすぎないでくださいね!
2人は話が早くて助かる。
もうこの場所に用はないし、早く移動してしまおう。
……もう、ここに来るのも3回目だな
何回来ても、ここは特別な場所だった。

俺と飛露が初めて会話した場所。
逃避行の始まりの場所。

だからこそ、ここで終わらせないといけない気がした。
久しぶり、羽璃さん、全然変わってないね
…飛露くんもね
今回は俺が先だったらしい。後ろから声をかけられた。

久しぶりに飛露の声を聞いたけど、全然変わっていなかった。
あの時と同じ、透き通った声。
……懐かしいなぁ。もう、2年くらい経つよね
……だな
会話は続かない。だけど気まずさはない。
懐かしい感覚だった。
……飛露くんは、大学はどこ行くの?
東京の大学行くよ。だから、春から1人暮らしかな
やっぱりか。予感はあったんだ。

飛露は、なんとなく東京に行くだろうと思ってた。
彼は、東京に特別な感情がありそうだから。
羽璃さんは?
俺は家から通えるところだよ。1人暮らしするお金ないし
ふーん、そっか
飛露の視線がずれる。
自分で聞いてきたくせに、興味なさげな返事をする。
……ねえ、なんであの時、待ってるって言ったの?
ずっと聞きたかったことだった。

俺と飛露は友達ではない。
だからもう、あの日から二度と会うことはないと思っていた。
実際、あの日以降クラスでも話すことはなかった。
俺と飛露の目的は終わったから。
だから、なんで俺を呼んだの?飛露くん。
…返しにきたんだ。
あの時は渡しそびれちゃったから
……返す?何を?
飛露は鞄から一枚の紙を取り出した。
お世辞にも綺麗とは言えないような紙だった。
くしゃくしゃにしたものを、無理矢理引き伸ばしたような。
はい、これ。
差し出された紙を手に取る。
見覚えのある絵が見えた。

途中で嫌になって辞めた、あの描き途中の絵。
……あっ、これって……
はい、次は落とさないでね
そう言って飛露は俺に背を向けて歩き出した。

……いつ拾ったのだろう。
いつのまにか無くしていたから覚えていない。

飛露は、こんなものをずっと大切に保管していたのだろうか。
羽璃さん、
…なに?
飛露が振り向く。
まだ何かあるのだろうか。
……次は、完成させてね
…!
そう言って、飛露は俺の返事も聞かずに歩き出す。

……あぁ、そうだったんだ。
なんだ、そんなことだったんだ。
……勿論、次は俺がそっちに行くよ
俺の声は飛露に届いただろうか。
もう飛露は見えなくなってしまったから分からない。
“待ってる”
そう聞こえた気がした。
紙をできるだけ丁寧に鞄にしまう。
飛露とは反対の方向へ歩き出した。

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