真名 視点
私が生まれた環境は、世間で言う"最悪"であった
昭和の時代でも珍しいほど劣悪な環境で、ずっと自分は必要ない存在だと思っていた
いや、それは今でも変わっていない
ただ、少しだけ楽しみなことができた
私の何処に惹かれたのかは知らないが、こうして毎日のように顔を合わせては金で吊ろうとする彼
名を九井一。金の為ならなんでもやる男であると、風の噂で聞いたことがある
しかし、この様子を見るに全くそうは見えない
今も断ってすぐに威嚇のように唸り声をあげて、不満を身体全体で表すものなのだから、彼の脳内は犬猫のようなものだと勝手に思う
拗ねたような、悔しそうな声で俯く
顎に手を当てて、考え込む
恐らくあの言葉の続きは『死なないでくれるのか』とか、そういうものだろう
私が死のうとするのは一種の癖のようなものだから、それを無くすには……
そこまで思考して、ある考えが浮かんだ
はっきりと直らないことを告げると、分かりやすくその綺麗に整った顔を歪める
それを見て無意識に口角が上がり、鼻先がくっつきそうなほど顔を近づける
目を見開き、息を呑むのが分かる
ほんのりと赤くなった頬に手を添える
誰も愛してはくれない日々に、君から告げられる愛とも取れる言葉の数々
それを毎日のように続けられたら、私の方が惹かれてしまうのも無理はないだろう?
しかも君は、それを無意識にしている
……だから、君もずるい













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。