「起きたか?」
声をかけられた。
いつの間にか、そばに男がいた。
鉄格子の向こう側にいる男は、それはガタイがよく、腰に立派な刀がさしてある。
「わたしは、……」
そう言いかけた。
けれど、男はそれを制するように手のひらをこっちに向けた。
「なにも言わなくていい。お前の情報など対したことないだろう。使用人の分際で、分家の内密な情報など知るわけないのだ」
「っ」
そのとおりーー
愚問だった。
わたしは、雇われた使用人。なにも知らない。ただ与えられたことをやる。
掃除。炊事。洗濯。草むしり。
ほんとうにそんなことだけ。
なにも知らない。
そもそも、使用人は王族に近づいてはならない。
わたしは、王族のいないときに、お屋敷内を掃除する。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。