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第61話

其の五十九 夜道
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2026/02/21 05:08 更新
少しの時間三人して黙り、静寂が流れる。それから、幸次郎さんが何かを思い出したかのように口を開いた。
池田幸次郎
池田幸次郎
そういえば、この手紙はいつから…?緋乃さん、どこかで出かけましたか?そのときにはまだありませんでしたか?
緋乃
緋乃
午前中に、商店街に行きました。でも、それだけです。帰ってきたとき、お昼前には、まだ手紙は見かけませんでした
池田幸次郎
池田幸次郎
じゃあ、そのあとに…。何か物音とかしなかったんですか
緋乃
緋乃
はい。気づかなかったので…たぶん
午後のどこかに入れられた手紙。もし、緋乃が帰ってきてすぐに、その手紙が届いていたとしたら。もう9時間以上経過していることになる。
(なまえ)
あなた
今すぐ行きましょう。これ以上、あの子を待たせるわけにはいきません。私は今からでも行きます。たとえ、人に、あの家の人に、非常識な女だと言われたとしても。私は、私にできることをしたいんです。せっかく、助けを求めてくれたんですから
私は身代わりで使う手帳と、男の子から受け取った手紙を手に取ると、外に飛び出した。下駄もまともに履かずに家をでてしまったせいで、途中でバランスを崩して転びかけた。その衝撃で、下駄の鼻緒が切れてしまった。
(なまえ)
あなた
あっ…!
私はあきらめて下駄を脱ぎ、開いている方の手で下駄を持ち上げた。地面についたのは、まったくの無防備な裸足だ。
池田幸次郎
池田幸次郎
待ってください…!
走り出そうとするとき、後ろから幸次郎さんの声がした。
池田幸次郎
池田幸次郎
何が起きるかわからないので。こんな危ないところに、一人で行かせるのは、時間帯云々よりもっとまずいです
幸次郎さんは、私の手に持っている下駄に目をやった。
池田幸次郎
池田幸次郎
切れたんですか?鼻緒
(なまえ)
あなた
ああ…はい
池田幸次郎
池田幸次郎
直しましょうか。あなたの下の名前さんは、この時代にまだ慣れていないでしょうから。100年後には、下駄は普段使いしないんですよね。こうして手に今持っているということは
(なまえ)
あなた
…よくわかりましたね。お願いしてもいいですか
池田幸次郎
池田幸次郎
はい
幸次郎さんは素早く下駄を直すと、私の前に差し出すように置いた。
池田幸次郎
池田幸次郎
どうぞ。急ぎましょう
私は今度こそ下駄をしっかり履いて、夜道を走った。
(なまえ)
あなた
ここですかね?住所があっていれば、ここのはずなんですが
私はその家の扉をたたいた。しかし、全く反応がない。私はもう一度叩く。
(なまえ)
あなた
ごめんください
しばらく様子をみてまっていると、扉が静かに開いた。私は身構えて、出てきたひとの顔を見つめた。周りが暗く、ほとんど何も見えない。しかし、迫力だけは、闇の中でも感じた。
男の子の母親
男の子の母親
あなたですか。うちの息子を殺したのは
(なまえ)
あなた
…ひっ
自分でも驚くような、弱弱しい、か細い声が出た。いつかの事件を思い起こさせるセリフ。そして、私に向けられているであろう、重たくて、絡みついて逃げさせない、そして苦しく憎悪に満ちた視線をありありと感じ取ってしまう。


気づくと私は一歩後ろに後ずさっていた。しかし、その相手はもう二歩進んできているようで、距離が詰められているのを感じた。明らかに、不利だった。


自分の置かれている危機を、今更ながらに悟った。

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