少しの時間三人して黙り、静寂が流れる。それから、幸次郎さんが何かを思い出したかのように口を開いた。
午後のどこかに入れられた手紙。もし、緋乃が帰ってきてすぐに、その手紙が届いていたとしたら。もう9時間以上経過していることになる。
私は身代わりで使う手帳と、男の子から受け取った手紙を手に取ると、外に飛び出した。下駄もまともに履かずに家をでてしまったせいで、途中でバランスを崩して転びかけた。その衝撃で、下駄の鼻緒が切れてしまった。
私はあきらめて下駄を脱ぎ、開いている方の手で下駄を持ち上げた。地面についたのは、まったくの無防備な裸足だ。
走り出そうとするとき、後ろから幸次郎さんの声がした。
幸次郎さんは、私の手に持っている下駄に目をやった。
幸次郎さんは素早く下駄を直すと、私の前に差し出すように置いた。
私は今度こそ下駄をしっかり履いて、夜道を走った。
私はその家の扉をたたいた。しかし、全く反応がない。私はもう一度叩く。
しばらく様子をみてまっていると、扉が静かに開いた。私は身構えて、出てきたひとの顔を見つめた。周りが暗く、ほとんど何も見えない。しかし、迫力だけは、闇の中でも感じた。
自分でも驚くような、弱弱しい、か細い声が出た。いつかの事件を思い起こさせるセリフ。そして、私に向けられているであろう、重たくて、絡みついて逃げさせない、そして苦しく憎悪に満ちた視線をありありと感じ取ってしまう。
気づくと私は一歩後ろに後ずさっていた。しかし、その相手はもう二歩進んできているようで、距離が詰められているのを感じた。明らかに、不利だった。
自分の置かれている危機を、今更ながらに悟った。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!