第96話

パリ編5⃣ 「臆病者な僕」後編
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2022/02/16 02:08
アリスちゃんはレオくんが来た事で、ラファエルくんの事を振り切って離れた。

「レオ…!こ、これは…」

アリスちゃんは何かをレオくんに訴えるも、レオくんは何も言葉を発さない。すると、私は雅に肩に腕を回され、

「純理、戻ろう。ここは俺達の出る幕じゃない」

と言ってきた。

「そうだね…3人で話すのが良いね」

という事で、私は雅と一緒にダイニングルームへと戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ、レオ!聞いてるの!?」

と僕に向かってアリス。するとラファエルが、

「レオ、丁度良かった。話がある。アリス、申し訳ないけど1度外してもらえるかい?」

と言った。

「え……うん……」

アリスは渋々ラファエルの言葉通りに家の中へと入っていった。


残ったラファエルからこんな事を言われた。

「レオ、俺はアリスが好きだ」

それを聞いて胸が苦しくなる僕。そうだよね。アリスにラファエルがハグをしている状態を目の当たりにしたら、きっとそうなんだろうなと察するよ。ラファエルは次に、僕にこう尋ねてきた。

「レオはどう想ってるんだ?アリスの事」


問題はここだ。


僕自身がアリスの事をどう思っているのか。


その時、昼間に雅から言われた言葉を思い出した。






ー遠距離恋愛になるのが嫌だからって理由だけでアリスの事から逃げてるんだとしたら、それは違うと思う。遠距離恋愛以前に、アリスを恋愛対象として見れないのであれば、それならそれでアリスにはしっかりそう伝えれば良いと思う。でも、聞いてる限りそうじゃないよね。本当はもうとっくに、アリスの事を好きになってるんじゃないの?」






そうだ。雅の言う通りだ。




僕は、アリスの事が好きだ。






アリスの僕に対しての気持ちを初めて知った時、その時の僕はアリスの気持ちを粗末にしたくないからこそ、ちゃんとゆっくり考えていこうと思えた。でも、それはまだアリスに恋をしてない自分だから言えたんだ。



まさか、好きになってしまったら、こんなにも自分が臆病者になっちゃうなんて。




好きだからこそ考えてしまう。



好きだからこそ、僕じゃなくて、すぐそばにいるラファエルと結ばれる方が、アリスは幸せになれるんじゃないかって。




僕は雅とは全然違う。





僕は器用じゃないから。





僕には、雅や純理のように遠距離恋愛をし続けられる自信なんてどこにもなかった。






だから僕はラファエルからの質問に、こう答えてしまった。





「アリスは良い友達だよ。これからもずっと」




ラファエルは眉をひそめ、

「本当にそうなんだな!?」

と聞いてきた。

「そうだよ」

と答えると、ラファエルは俺の顔を覗き込み、

「じゃあアリスの事、俺は追い続けるぞ?本当に嘘じゃないんだな?」

という返しが来た。

「……うん。健闘を祈るよラファエル。頑張ってね」

僕はラファエルに笑顔を向けた。するとラファエルは何故か不服そうな顔をして、

「もう良いよ!」

と言って家の中へと戻って行った。


あぁ、僕はとんだ臆病者だ……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

22時頃。会はお開きになり、みんなが帰った後、私達2人は最後にレオくんの家を出る事になったのだが……

「雅!純理!まだ時間平気かい?」

私達はレオくんに引き止められた。

ていうか、さっきの事が気になり過ぎて、私達はむしろレオくんからのその言葉を待っていたのだ。

「全然平気。さっきのラファエルの事かな?」

と雅。

「うん。あぁ、ここじゃあれだから、僕の部屋に移動しよう」

という事で、3人でレオくんの部屋に集まり、私と雅は部屋のソファーに、レオくんはベッドに腰掛けて、あれからレオくんがラファエルくんと何を話したのかを聞いた。

すると、



「ラファエルには、アリスの事は好きじゃないって伝えたよ」



まさかの言葉が飛んで来たので、私達は目を丸くした。


「……え?」

雅は唖然としていた。



「レオくん……本当なの?」


と私は疑問を投げる。


「それがレオくんの本心なの?本当にアリスちゃんの事なんとも想ってないの?」

私がそうやってもう少し詰めていくと、レオくんはこんな言葉を吐き出した。

「僕には、遠距離恋愛なんて出来る自信なんてどこにもないから。それに、僕と恋人同士になったところで、アリスに辛い想いをさせてしまう。ラファエルがアリスを好きなら、そっちを応援したいし、さっき2人はハグもしてたからね。もしかしたらアリスは今、ラファエルの事が好きなのかもしれないよ」

そう話すレオくんの表情はとても苦しそうだった。

間違いない。レオくんはやっぱりアリスちゃんに既に恋をしていたんだね。

じゃなきゃそんな言葉出てこないし、そんな苦しい顔にならないはずだ。


「だから、ラファエルには『頑張って』って。そうやって伝えたよ」

「そしたら…ラファエルくんはなんて?」

レオくんは作り笑いをして、

「うーん、なんでか分からないけど、もう良いよ!って言われちゃった。邪魔する奴がいないって分かって、ラファエルからしたらラッキーな事のはずなのに」

と言った。すると、ここまで黙って聞いていた雅が口を開いた。






「ラッキー……?ラファエルがそんな事思う訳ないでしょ」





「え?」




雅は真剣な眼差しでレオくんを見つめた。


「レオ。もう自分の気持ちに嘘つくのやめなよ」

その言葉にレオくんは目を見開く。


「ラファエルは君にそんな事を言って欲しかった訳じゃないと思う!彼はただ、レオもアリスの事を好きならそれを真摯に受け止めて、真っ向から勝負したかったんだと思う。それなのにレオが嘘なんかつくから、だから怒ったんじゃない?」

レオくんは目を閉じ、

「だから、嘘じゃないって…」

と弱々しく言う。すると雅は立ち上がり、レオくんの目の前に移動し両肩を持つと、

「それ、俺の目を見て言える!?」

と言って、今にレオくんの事を吸い込みそうな深い眼差しでレオくんの目を見つめた。


見つめ合う2人。次第にレオくんは目を閉じ、綺麗な涙を流した。




「畜生……。こんな状況じゃなかったら……僕はとっくにアリスに気持ちを伝えてるよ!」




レオくんは雅にそのまま抱きつきこう言った。




「好きになりたくなかったよ…」





レオくんのその言葉に雅は優しく、

「なんで?」

と声かける。

そのままレオくんはこう続けた。

「夢の為に日本にいるし、向こうの学校も楽しいし、時に技術面で厳しく言われる事もあるけど、和菓子を作るのは本当に楽しいんだ。その気持ちは凄くあるから日本に住むと決めた事は間違ってなかったとは思ってるんだ。でも、アリスの事を思い浮かべたりするとね、なんで今僕がいる国は日本なんだろう……ってなるんだ。アリスがすぐそばに居たら良いのにって」


そう話すレオくんはとても苦しそう。そんな彼を見た雅はそのままギュッとレオくんの事を抱きしめた。そして雅はレオくんにこう切り出した。


「遠距離恋愛。俺も最初は不安だったよ」


「え?」


「遠距離恋愛した事で、純理が心変わりしてしまったらどうしようとか、俺だってそうやって不安に思う事はあったよ。それでも俺は、純理の事を将来幸せに出来る男になる為にも自分の夢を叶えたかった。だから俺は資格を取る為にフランス留学を決めたんだよ。レオだって、成し遂げたい事があって京都への留学を決めた訳なんだから、そこは自分の目標に向かう為に決めた事はそのまま貫いていけば良いと思うよ」

雅は腕だけでなく言葉でレオくんの心を抱き締め続けた。

「レオ。未来がどうなるかなんて誰も分かんないけど、君がアリスやラファエルに本当の気持ちを伝えない事には何も始まらないよ」

レオくんはその言葉にハッとさせられていた。雅は腕を解き、レオくんの肩を持って再度目を見つめた。

「まず自分から動いていかないと、失敗する事も出来なければ、成功する事だって出来ないんだよ」

「雅……」

するとレオくんは手で涙を拭い、雅の言葉に首を縦に振った。


「雅の言う通りだね。逃げたままじゃ、何も始まらないよね」



するとレオくんは立ち上がり、こう言った。





「俺、会いに行って来る…!!」





ーーーーーーーーーーーーーーーー

雅と純理から背中を押された僕は、家を飛び出してとある人の元へ走った。向かう途中に掛けた電話に相手も出てくれて、家の近くの広場で待っていてくれる事になった。

僕は明日には日本に帰ることになっているから、もう本当に今しか時間が無い。


僕はその相手の姿を捉えて名前を叫ぶ。



「ラファエル!!」




まずはラファエルに本当の気持ちを伝えるべきだと考えた僕は、広場でラファエルと合流した。僕はラファエルに頭を下げて謝った。

「ラファエル、さっきはごめん。アリスの事だけど……」

「うん」

頭を上げ、僕は緊張しつつもラファエルにちゃんと気持ちを伝えた。

「ごめん。本当は僕も、アリスの事が好きだ」

ラファエルは真面目な顔をして僕の言葉をしっかりと聞き入れてくれた。


「アリスはパリにいるけど、僕は日本にいる。だから、アリスに気持ちを伝えた所でこの先どの道上手く行かないかもしれないって、自分の気持ちから逃げてたよ。でも、間違ってた。ちゃんと伝えない事には何も始まらないって。失敗する事も成功する事も出来ないんだって事に気付いた。だから僕……この後、アリスにも会ってくる!!そこでちゃんと、自分の気持ちを伝えてくる」


するとラファエルは、

「やっぱりそうなんじゃん」

と言った。

「え……?」

「やっと本心言ってくれたか」

どうやらラファエルは、僕の気持ちに気付いていたようだ。この状況、ラファエルからしてみたら僕の存在なんて邪魔なはず。でも、僕の言葉を否定するような事なんて一切投げてこなかった。

「さっきだって、本当はレオのその言葉が聞きたかっただけなんだよ。俺は正々堂々向き合いたかっただけだから」

そう言われて、さっきの雅の言葉を思い出した。



ーーラファエルは君にそんな事を言って欲しかった訳じゃないと思う!彼はただ、レオもアリスの事を好きならそれを真摯に受け止めて、真っ向から勝負したかったんだと思う。それなのにレオが嘘なんかつくから、だから怒ったんじゃない?



どうやら雅の言う通りだったようだ。それどころか、


「行けよ、レオ。アリスん所行ってこい」

と、後押しまでしてくれた。

「……え?どうして……」


ラファエルは言った。


「勘違いするなよ?俺はただ、アリスが悲しむ所を見たくないだけだからな。それにお前には今日しかないんだから、だからこう言ってやってるだけだぞ。もしお前がこの先中途半端にアリスの事を想ったり、泣かせたりしようもんなら、俺はいつでもアリスの事奪いに行くからな」

そう言って威張りつつも、最後には優しく微笑んでくれた。

「うん!覚悟してかかるよ!」

「おう!」


そして僕は、アリスの家へ向かった。

でも、アリスは電話に出ない。

結局連絡が取れないまま、先に僕がアリスの家の前に着いてしまった。もう寝てしまったのか??僕はアリスの部屋に面している方まで移動をして、2階の窓を眺めた。
アリスの部屋は暗い。やはり寝てしまったのか?すると、少しして部屋に明かりが灯る。その瞬間僕はアリスにもう一度電話をかけた。

そしてやっとの事で


「も、もしもし!?レオ!?」

電話が繋がった。

「ごめんなさい。お風呂に入ったり寝る支度をしていて気が付かなかったわ!」

「あぁ、そうだったんだね…。ごめんね、夜遅くに」

「それは良いけど…どうしたの?」

「実は今、アリスの家の前に来てるんだ。……アリスに会いたくて」

「へ……!?」

するとアリスは窓から顔を覗かせてくれた。アリスは僕の姿を発見して、そのまま僕に目を落とす。スマホを繋いだままアリスは話し出した。

「レオ……。ヤダ、どうしよう……」

と、アリスはソワソワしていた。

「レオ、来てくれたのはとても嬉しいのだけど、この時間にドア開けて外出て行ったら、うちのタルトがその音聞いて吠え出しちゃうかもしれないわ。家族みんな寝ているし、だから外に出るのは厳しいの」

「あぁ、そうだった……」

彼女の家で犬を飼っている事を忘れていた僕。時間も0時手前。家族が寝ている所までの配慮が全然なってなかった。

「それなら、僕がそっちに行く!!」

アリスの部屋の窓から斜め少し前に木が生えている。

「え!レオ、無茶よ…!あなた運動神経そんなに無いじゃない!」

「大丈夫!!」

僕は1度電話を切り、スマホをポケットにしまった後にその木を登り始めた。

何度か足の引っ掛けどころが悪く、登るのに失敗したけれど、何とかして太い枝の所まで辿り着き、そこに腰掛ける事が出来た。それに、アリスの部屋の窓には小さなバルコニーが付いている。なので僕は、せーのと自分に声をかけ、バルコニーへと移る事に成功した。

「レオ……!!」

アリスも窓を開け、バルコニーに出てきてくれた。

「なんて無茶な……」

「ごめんね。どうしてもアリスに直接伝えたい事があったの」

すると、アリスがクスクスと笑い出した。

「な、何が可笑しいんだい!?」

と僕が言うと、

「ふふふ、ごめんなさいレオ。なんか……バルコニーにまで登ってくるなんて、まるでロミオとジュリエットみたいねって思って」

という返しが来た。

「え……!?」

「こんなシーンあったわよね?このシチュエーション、なんだかとてもロマンチックだわ!」

そう言ってアリスはにこやかに笑ってくれた。その笑顔に僕は鼓動を速くした。

「じゃあ……僕はロミオなの?」

「そうなるわね!」

そんな話をしながら、アリスと見つめ合う僕。月明かりに照らされていたアリスは、とても美しくて可愛かった。


「……そんなロミオからの言葉、聞いてくれる?」

「うん。良いわよ。何?」


この瞬間が1番緊張する。


でも、僕はもう自分の気持ちに嘘をつかないと決めたんだ。


雅だって、純理だってそうだし、


ライバルであるラファエルまでも背中を押してくれたんだ。


僕はアリスの手を取り目を真っ直ぐ見ながら、



「僕、アリスの事が好きだよ」



と伝えた。



「え……!?」


アリスは僕の言葉にかなり耳を疑っているようだった。


「ア……アリスが僕の事を今どう思ってるかは分からない!けど……前にアリスの気持ちを知って、そしたらだんだん……だんだんとアリスの事が僕の中でどんどん大きくなっていったんだ……。その……えっと……。僕は明日になったらまた日本に帰ってしまうけど……でも……でも、それでも僕はアリスが……アリスが好きです!だから、ちゃんと気持ちを伝えたくてここに来た」


言えた。ちゃんと気持ちを伝えられた。


伝えた直後は緊張のあまりアリスの顔なんて全然見れなかったけど、アリスはそんな不器用な俺をギュッと抱きしめてくれて、

「私も……私もね、今もレオの事が好きよ」

と言ってくれた。

「え…!?本当!?」

アリスは上を見上げ、僕の目を見てこう言った。

「そうよ。今も気持ちは変わっていないわ!だから、レオからこんな事言って貰えるだなんて、私からしたら夢みたいよ!とても嬉しいわ。日本とパリで離れ離れなのは凄く寂しいけれど、なんだろう……レオと両想いなんだって知れたら私、なんだかとても気持ちが軽くなったわ!」

と言って照れ笑いを浮かべる彼女。

「嬉しいわ、レオ。伝えに来てくれてありがとう。本当にありがとう……」

「僕こそ。アリス、気持ちを聞いてくれてありがとう!それに、僕の事をずっと好きでいてくれて本当にありがとう」

一方で僕は気付けば涙を流していた。

「レオったら、涙脆いのね」

そう言うアリスも、僕の涙する姿を見て、もらい泣きをしていた。

「アリスこそ……」

僕たち2人はギュッとお互いに強く抱き締め、体の体温を感じ合った。



そしてこう伝えた。


「ねぇ、アリス?この先アリスにはたくさん辛い想いをさせてしまうかもしれない。僕自身も寂しいし、不安はたくさんあるけど、でも……でも……!!アリスさえ良ければ、雅と純理のように、離れていても繋がっている関係になりたい」


そしたらアリスはこう答えてくれた。


「うん。私も不安はあるけど、雅と純理ちゃんに負けないように、私達も頑張りましょうね!これからよろしく、レオ!」


「うん!」


アリスと両想いになれた事で、遠距離恋愛に対しての不安が半分こされたような、そんな感覚になれた。

アリス、これからどうぞよろしく。


僕とアリスはお互いに見つめ合い、唇をそっと重ねた。






パリ編6️⃣へ続く

次の6️⃣がパリ編最後のお話になります🇫🇷
また純理と雅は遠距離恋愛に…。

次回もお楽しみに✨

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