第5話

3話|相身互いの段
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2025/03/31 02:07 更新


蝉の鳴く声が開いた窓から響く。一年は組の教室では夏休みの課題について、土井先生が説明している。
土井半助「さて、明日から夏休みだが……お前たち!夏休みの宿題はそれぞれに合わせて用意したから、他の者の宿題を写そうとしても無駄だからな?」
「「「「えぇ〜っ!?」」」」
文句の声をあげる乱太郎達の声を聞きながら、俺は手元の紙に書かれた『読書感想文』に楽そうで良かったと安堵する。
本はお姉さんから沢山貰って読んだ。種類は様々で南蛮のものや歴史ものがあったはずだ。そこから好きなのを選んで書けば終わるから、アルバイトに専念できるな。
黒木庄左ヱ門「じゃあ皆、また夏休み明けに!」
庄左ヱ門の言葉で乱太郎としんベヱを除く、は組の皆が忍術学園の門前を通り抜けて、家へと帰っていく背中を俺は見送った。
乱太郎「きり丸はどうするの?」
きり丸「ん、俺ぇ?もう少ししてから帰る」
お姉さんは手紙に家はそのままにしているから好きなように使ってくれて大丈夫だと残していたけど、帰る気にはならない。帰ったらひとりを実感してしまうから
きり丸(じゃあ……どーするかなぁ)
忍たまの長屋は夏休みで丁度閉まっちまうからな、最悪のバヤイは雨風が凌げる廃寺でも良いかもしれない。
うん、そうしよう。俺の中でその選択肢が決まり、二人に別れの言葉を入れ、門を出ようとした瞬間に背後から俺の名前を呼ぶ声がした。
きり丸「__土井先生?どうしたんすか?」
土井半助「あぁ、まだ帰ってなくて良かった。……きり丸、私と一緒に帰ろう」
きり丸「……………え、?」
 
 
俺の歩幅に合わせて横で歩く土井先生の姿を見上げた。逃げ出せそうな隙もない事から、どうやら本気で俺と帰るつもりらしい。
きり丸(なんで、俺に優しくするんだろう……いい事なんて無いのに)
土井先生は優しい人だ。関わりづらいであろう俺にいつも優しくしてくれる。お姉さんの件だって関係ないのに泣きじゃくった俺の為に今も空き時間が出来たらお姉さんを探してくれている。
そう、土井先生は関係ないのだ。それなのに当たり前のような顔で一緒に帰ろうと手を差し伸べて言った。
『私と一緒に来る?』
恐ろしかった。俺を受け入れてくれる優しさの中に、また裏切られるんじゃないかと、そればっかり考える。
這いつくばって、死ぬ前に俺は生かされて、そして、全て失った。どうして、土井先生が俺に優しくするのか、お姉さんから教えて貰った知識を幾ら使っても分からない。
こういう時、迷わず過去の俺なら聞いていた。けど今は聞くのが怖い。差し伸べてくれた優しさが失われるような気がして勇気が出なかった。
土井半助「……きり丸?少し歩くの早かったか?」
二つの目を俺に向けて、立ち止まる土井先生の口から聞こえたのはやっぱり、俺を心配する言葉だった。
きり丸「いや、別に早さは丁度いいっすよ。ただ、ぼーっとしてただけなんで、気にせず先に進んでください」
__ついでに俺を見捨てて、そのまま自分の家に帰ってください。と願いを込めながら俺は言った。
土井半助「……私がきり丸と帰りたいんだ。それだけではダメか?」
俺の顔を見て、悲しそうにする土井先生の顔に心が、鷲掴みにされたような締め付けられる感覚がした。
きり丸「っ、」
苦しいような、悲しいような、何と説明すればいいのか分からない。そんな気分が俺の心を支配する。
土井半助「……おいで、きり丸」
手を繋ごう。と差し出された手が俺の前に現れる。それに俺は恐る恐るその手を握った。繋がれた手は温かい。
きり丸「土井先生温かいんですね」
俺の言葉に土井先生は強い力で繋いでいる手を握り返した。少し痛いし強すぎるなの裏には土井先生の絶対離さないも含まれているのだが、俺はそれを知らない。
 
 
パチパチと火が爆ぜる音。囲炉裏を囲むようにして、串刺しにした魚が焼けていくのを俺は眺めていた。
土井半助「きり丸、これなんかは丁度いい焼き加減になったな。食べなさい」
きり丸「……ありがとうございます、」
俺は差し出された魚を土井先生の手から受けとって、口に運ぶ。パリッとした直後、口の中で甘みが広がった。
土井半助「どうだ?」
きり丸「…え、あー、美味しいです?」
土井半助「なら良かった」
パチッと再び音が鳴って、火種が飛ぶ。頃合いかのように薪を焚べる土井先生の手が止まったのは、俺が口を開いたからだ。
きり丸「どうしてそこまでしてくれるんすか?」
土井半助「……私と同じような境遇で育ったからかな」
俺は目を見開いた。その様子に土井先生は驚く様子もなく、ゆらりと揺れる火を見ながら、言葉を紡いでいく。
土井半助「私は一人で生きて足掻いて、その先で助けて貰った。だから、気にかけてしまうのかもしれないな」
いつかの時に見た朗らかな笑みを浮かべながらそう言った土井先生に、俺は、ダメだと知っていても。
また、同じように絆されてしまうんだ。
土井半助「さ、明日からは忙しくなるからな?」
きり丸「え?急に何の話してんすか?」
土井半助「その、ドブ掃除が明日あって……」
きり丸「……まさか、それを俺にやらせるつもりなんすか?」
俺の言葉に目を逸らす土井先生を問いつめる。冗談じゃない、タダでなんかごめんだ!と言うはずだったが、お邪魔してるんだから、これくらいはしないといけないよな。
きり丸「……まぁ?別にいいっすけど、その時は俺のアルバイトも手伝ってくださいね!」
土井半助「あぁ、これで取引成立だな」
外はもう暗くなって、星が、開けていた窓から輝いて見える。ドブ掃除を手伝ってくれる働き手が増えて、嬉しそうにする土井先生を尻目に、俺は深い溜息を吐いた。
 
 

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