第3話

1話│葛藤の段
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2025/03/22 13:08 更新


__ここが丁度いい、線引きのタイミングだった。
あなたの苗字あなたの名前「これで元(・)通(・)り(・)になるでしょう?」
綺麗に封を閉じた二通の手紙。一枚、また一枚と書き終わるまでに随分と時間をかけてしまったが、完成した手紙に妙な達成感とほんの少しの罪悪感が揺らいでいた。
手間の多い手紙にしたのには理由があった。直接会ってきり丸に伝えればどれだけ楽だった事か何度も考えた。
でも、こうするしかなかった。何時までもきり丸を縛ってはいけない。きり丸にはきり丸の人生がある。
脳裏に浮かぶのは、楽しかった日々の記憶。最後に会って抱きしめたかった。もう、会うことも無いけれど
あなたの苗字あなたの名前「……元気でね。きり丸」
道中で会った飛脚に書いた二通の手紙を託してから荷物を手にして、思い出のある家を去る。振り返りはしない

唯一後悔していることがあるとすれば、きり丸(あの子)宛の手紙には辛いであろう、呪いの言葉を残してしまった。
私から手放したくせに、未だきり丸に未練タラタラなのが面白くて、悔しくて、私は誰もいない道中で笑う
あなたの苗字あなたの名前「……どうか、きり丸が幸せになりますように」
呟いた言葉は水の音と混ざって消える。きり丸を手放して遠くの地へ行く私は、ただそれだけを願っています。
 
 
授業が終わった放課後、今日はどの委員会も仕事があるからか、一段と声が部屋に響いて心地よかった。
そんな、生徒達の声をBGMにして、一年は組の抜き打ちテストの採点をしている所に廊下を走る音が聞こえ、間髪入れずに大きな音を鳴らし部屋の扉が開かれる。
不破雷蔵「土井先生……!」
土井半助「……雷蔵?そんなに切羽詰まった顔をして、どうしたんだ?」
不破雷蔵「きり丸がっ、急に泣き出してしまって…!」
部屋に慌てて入ってきたのは、五年ろ組の不破雷蔵だった。意外な人物の訪問に驚きを見せたが、視界の端で雷蔵に連れられてぐしゃぐしゃの顔で泣いているきり丸の姿が現れ、これは只事じゃないと顔を強ばらせた。
土井半助「きり丸!?」
きり丸「っ、土井…土井先生ぇ゛ぇ………!」
泣きながら、震える手で何枚もの紙を握り締めるきり丸の背中をゆっくりと擦りながら、優しく問いかける。
土井半助「……私が聞いてあげよう。どうしたんだ?」
きり丸「う゛ぇっ、ひぐっ……」
土井半助「困ったなぁ、雷蔵。何があったんだ?」
不破雷蔵「えっと、事務の小松田さんがきり丸宛にと手紙を持ってきたんですが、きり丸がその手紙を読み出した途端泣き出してしまって………あの、中在家先輩の代わりに僕がこちらに駆け付けた次第です」
土井半助「成程……その手紙は?」
不破雷蔵「きり丸の手に……頑なに見せようとしないので、手紙の内容までは知りませんが…」
何も知らない私に事細かく事情を説明してくれた雷蔵に感謝の言葉を述べてから、きり丸へと視線を移した。
土井半助「きり丸、それは私達には話せない内容か?」
きり丸「………」
心配そうにこちらを覗く私を、ちらりと見てから真っ赤になった瞳から零れる涙を無視してきり丸は口を開いた。
きり丸「……おれ、お姉さんにっ…捨て、られた」
土井半助「……は、」
不破雷蔵「えっ、?」
驚く私達を他所に一層手紙を強く握りしめて、お姉さんと声を漏らし縋るきり丸の啜り泣く声が、静かになった部屋に響いて、私には痛かった。
 
 
土井半助「きり丸、それは……本当なのか?」
気付けばそう口を開いていたが、これはきり丸を疑っている訳では無い。急に言われて信じられなかったのだ。
『お姉さんが死にそうだった俺を攫ってくれたのが始まりで、家に着いたら温かいご飯もお風呂も、タダでくれて……そこで初めて俺は幸せだって知った』
『えー、計算が早い理由ぅ?それもお姉さんのおかげだな。俺が上手く生きれるようにってある程度の知識は時間かけて教えてもらった』
『迷惑かけてばっかだからさ、いつか俺はお姉さんには恩返ししたいなって思ってて……その為に早く一人前になりてぇってずっと考えてんだ』
戦争孤児だと話すきり丸が、嬉しそうに乱太郎やしんベヱにお姉さんの事について話すのを微笑ましく見守っていたから、嘘だと言って欲しい気持ちが強かったのだ。
きり丸「おれっ、お姉さんにとって邪魔だったのかな………」
土井半助「そんな訳ないだろうッ……!?」
遂にそう口に出したきり丸に、いや、出させてしまった事実に私はやるせない気持ちを胸に閉まって、離さないように腕の中へきり丸を抱え込んだ。
きり丸「……ご、ごめ……お姉さん、俺のせいで…ごめんなさい……!」
かつて、山田先生が私にしてくれたように小さな背中をとん。と優しく叩けば、唇を噛んで耐えていた僅かな隙間から不規則な嗚咽と呼吸が再び聞こえる。
不破雷蔵「…っ、土井先生、これを………」
土井半助「……あぁ」
私がきり丸を抱き締めた事で、きり丸の手から落ちた手紙を拾った雷蔵が手紙を読んで顔色を変えた。
そして、私へと件の手紙を渡す。泣いているきり丸に気付かれないようにその手紙の文字を追えば、何となくお姉さんという人の人物像が見えてくる。これは違う。
土井半助「……これはきっと何かの間違いさ、きり丸。こんなにきり丸を大事にしていて、手放す理由がないじゃないか」
きり丸「っ、え?」
土井半助「ごめんな、きり丸宛の手紙を勝手に読んでしまった。……でも、手紙を読む限りお姉さんはきり丸を手放したくなかったんじゃないか?」
きり丸「な…んで、だって手紙には!」
土井半助「これは私の考えだが……手放すなら、こんな手紙を書く必要は無いんじゃないか?」
私の言葉にかっと目を見開き、手にしていた手紙を勢いよく奪い返したきり丸は怒りを顕にしていた。
きり丸「……先生、確かに俺がお姉さんに迷惑かけてるのは痛い程分かってる。でも言い方ってものがあるんじゃねぇんすか」
不破雷蔵「土井先生、流石の私でも神経疑いますよ」
土井半助「違う、誤解だ!えっと……その手紙にはきり丸への愛が沢山書いてあるだろう?」
不破雷蔵「確かに書かれていましたが、先生の言う手紙を書く必要は無い理由に繋がるんですか?」
きり丸「…………」
土井半助「前提として、きり丸を手放すと伝えるなら手紙じゃなくてもいいはずだ。直接会って伝えた方が早いからな、でも態々手間の多い手紙にしたという事はそうしなければいけない事情があった」
不破雷蔵「それって……」
土井半助「……そういう事も視野に入れなくてはいけない」
忍術学園を恨み殺意を持つものも多くは無い。そこに子供を通わせる家族が危険な目に遭う事はよくある話で、学園の場所を吐かせるために指を折る、人質にし子供を呼び出す、暴行するといった事が過去にもあった。

もし、お姉さんが今、同じ目に遭い手紙を使ってこのような手を使ったとしたら……早急に学園長先生に伝えなければいけない。

私は手紙を持って、困惑しているきり丸に気づかれないよう言葉を慎重に選び、口を開いた。
きり丸「…土井先生、雷蔵先輩?」
土井半助「きり丸、その手紙を私が預かって少しお姉さんの事を調べてみるよ。きり丸の事を大切にしているお姉さんが急に手紙一枚で、きり丸を手放す理由がないからね」
きり丸「でも……」
不破雷蔵「きり丸、僕も土井先生と同じ考えだ。お姉さんの事、僕には分からないけど…きり丸を大事にしてたのはこの手紙を通じてよく分かったよ」
きり丸「……うん」
土井半助「一旦保健室で目を冷やしてから部屋に戻りなさい。この事は誰にも他言してはいけないよ」
人差し指を口の前に持ってきて伝えると、きり丸は涙を拭って覚悟を決めたかのように私の言葉に頷いた。
きり丸「……先輩は」
不破雷蔵「え、僕?もちろん他言はしないし、土井先生と一緒にきり丸の言うお姉さんの事を調べるよ」
土井先生「雷蔵……」
不破雷蔵「お姉さんの事、分かったら直ぐにきり丸に報告する。大丈夫、土井先生も一緒だから」
きり丸「……分かった、」
私達の言葉に再度頷き、部屋を去るきり丸の背を見届けてから雷蔵と一緒に学園長先生の庵へと向かった。
土井半助「……学園長先生、お話があります」
 
 
※キリ目線で書くつもりが、いつの間にかドイ目線になってしまった泣

確実にこの作品はちょくちょく目線が急に変わると思いますので
無理そうでしたらブラウザバックでお願いします(今更)

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