夜の帳が王都を覆い始めた頃、
私は隣にいるこはねの手を強く握りしめ、裏門へと走っていた。
背後では、処刑場に向かう兵達の怒号が風に乗って押し寄せてくる。
こはねも私も、息を切らしながら一度も足を止めなかった。
私はこはねを連れ、咄嗟の判断で城を飛び出した。
王国に背く行為だと分かっていても、
このままだとこはねは冤罪で処刑されてしまう。
それだけは絶対に許せない。
私達は国境の森へ入り込み、
月明かりに照らされた獣道を進む。
風の音にさえ怯えながら。
やがて、王国を遠く離れた小さな丘のふもとに辿り着いた頃、
こはねの足は限界に近づいていた。
私は周囲を警戒しながら、こはねをそっと木陰へ座らせた。
『私が守らなきゃ――』
胸の中でその言葉だけが繰り返される。
その時――
草を踏む、柔らかい音がした。
私は即座にこはねを庇うように前へ出た。
剣はない。戦えるのは素手だけ。でも悔いはなかった。
月光の下に姿を現したのは、
白い装いをした、中性的な黒髪の少年のように見えた。
その少年は私の張り詰めた声に驚いたように瞬きをし、
ゆっくり両腕を上げながら言った。
声は落ち着いていて、敵意は感じられなかった。
私は、まだ警戒したまま一歩足を踏み出す。
少年は少し困った顔で、しかし距離を保ったまま名乗った。
こはねが震えた声で答える。
私はこはねの言葉を遮り、短く言い切った。
一歌と名乗る少年は私達をしばらく見つめていた。
警戒、同情、判断――幾つもの感情が混ざった眼差し。
やがて一歌は静かに口を開く。
その言葉に、私は一瞬だけ目を見開いた。
見ず知らずの他国の人間に、そんな風に手を差し伸べるなんて。
私は、深く息を吸いこみ、
こはねと視線を交わしたあと、
それが、私と一歌の最初のすれ違うような出会いだった。
まだ互いをほとんど知らない。
だけど、どこか似ている影を抱えたもの同士の、
運命の第一歩だった。
To Be Continued ……












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!