[りょう視点]
「りょうの誕生花は美女撫子なんだって。」
「伊達男って意味もあるみたいだよ。」
頭から離れない、ある女の子の言葉。
別に好きじゃなかった。
その女の子が俺のことを好きなのはわかってた。
ちょっとした暇つぶしで付き合ったら
いつのまにか離れられなくなってた。
好きで、仕方なかった。
ただ、俺がこの子と生きるにはあまりにも
時間が足りなくて、
何度も、何度も泣かせた。
あれだけ会う時間が少なければ
浮気だと思われても仕方なかったなぁ。
最後に言った言葉があの言葉。
「りょうの誕生花は美女撫子なんだって。」
「伊達男って意味もあるみたいだよ。」
きっと浮気してるって思われてたんだろうな。
離れて3ヶ月、自分の花言葉を調べた。
「なんだ、美女撫子以外にもあるじゃん。」
離れて半年、その子がいつも落書きしていた
スケッチブックを見つけた。
よくこれに俺も落書きして笑ってくれてたな。
1枚、1枚、めくるたびに思い出す。
不思議と悲しいとか、辛いっていうのはなくて、
会いたい、それだけの気持ちだった。
最後のページには紅花の押花がはさまっていた。
「なんだよ、最初からそう言ってくれればよかったのに。」
6月11日の誕生花、紅花の花言葉は
大切な人、愛する力、だった。
……会いたいな。
俺もあと50年、60年後にはそっちに行くよ。
そしたら笑って紅花の花言葉を教えて欲しい。
教えてくれるまで、精一杯生きるから。
だから、離れてても笑ってて、もう泣かないで。
心配だろうけど遠く離れた空から、見守ってて。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。