「あ!立花くん!」
お風呂上がり、六年長屋に向かったら長い髪を下ろした立花くんの後ろ姿をみつけた。声をかけると、振り返って不思議そうな顔をする。
「どうした?もう化粧は落としたんだな」
『あはは…もったいなかったけどね。これ、町で…。大したものじゃないんだけど、六年生みんなで食べて』
「いいのか?」
立花くんが包みを受けとってくれる。
『うん。今日、ありがとうね。ちょっと恥ずかしかったけど…いい経験になったよ』
笑って言うと、立花くんも少し笑った。
「まあ、またしたくなったら私のところに来たらいい」
『そ、そうだね。その時はお願いします。あ、食満くんと潮江くんに会って、またねって言ったんだけど…よろしく伝えといて』
うむ、と立花くんが頷いて、俺は手を振って彼と別れた。職員室と学園長先生のところにはお風呂の前に持って行ったし、あとは五年生だ。
五年長屋に行くと、待っていてくれたのか直ぐに戸が開いて、勘右衛門くんが手招きしてくれた。
近づいて中を見ると、みんな集合している。
不破くんが「ようこそ」と言って、場所を空けてくれた。その横で鉢屋くんが俺のことを半目で見ている。
「わざわざ私たちの部屋じゃなくても…」
「まあまあ、そう言わないで」
『あ、これ。ちょっとだけだけど…』
包みを前に置くと、ハチくんが「おほー」と言って、開け始める。
「お、これ、美味いってタカ丸さんが言ってたところの菓子だ」
『え?ほんと?良かった!』
「ああ…なんだか聞いたことがある名前だと思ったら、あの店だったんだ」
久々知くんが思い出す素振りをして、頷いた。
勘右衛門くんがお茶をいれてくれる。
『今日は楽しかった、ありがとう』
「いいえ。今度は授業関係なく出かけましょうね」
『優しい…』
ジーンとする。ありがとう不破くん。そしてそれに頷くみんな。
「さ、いただこう!」
勘右衛門くんがそう言って、みんなそれぞれお礼を言ってくれながらお菓子を取る。
「……ほら」
鉢屋くんが俺にお菓子を寄せてくれた。
思わず顔を二度見する。
「な、なんだよ」
『い、いや…』
「あなたさん、三郎が委員会呼んでくれないの気にしてるんだよー」
『あっ』
「別に、呼んでないっていうか…そんなわけじゃ…」
「美味しいのだ」
「良かったね兵助。それでさあ、俺が来てもいいよって言ったのに、三郎が嫌がるかもしれないし嫌われてるから俺なんて行かない方がいいって。もう、しおらしいのなんのって」
『ちょっと、勘右衛門くん』
そこまでは言ってない。
「三郎、まだ紹介してないの?図書委員会はこの前の活動のとき、補修の様子まで見てもらったのに」
「火薬委員会も」
「生物委員会も、孫兵のペットまで見てもらったよ」
「用具委員会と会計委員会も、もうとっくに紹介し終えてるらしいよ。保健委員会も」
「あの作法委員会も早い段階で呼んだらしい。綾部が懐いてるとか」
『え!そうなの、不破くん』
綾部くん、懐いてたんだ。たしかに、「友だち!」とは言われた。懐いてたんだ。
「三郎も本当はもうとっくに、もういいやって思ってるんでしょ?」
不破くんが少しからかうように言った。鉢屋くんは不破くんに言われたからか、大きく否定も出来ないようだ。
「っ、私は、ひと言も来ちゃいけないなんて言ってない!」
「どうぞ来てくださいって言わなきゃ。俺は断られちゃったんだからさー」
勘右衛門くんが追い討ちをかける。
「どうぞっ、来てください!!」
悔しそうに言った鉢屋くんを囲んで、笑いが起きた。
『いいの!?』
「お菓子で絆されたわけじゃないですから!!」
「はいはい。わかってるよ。あなたさん、このお菓子、美味しいです」
ハチくんがニコニコしている。嬉しい。
「お給料、こんなに人のために使っちゃって。お人好しだなあ」
「よく集まって話はするけど、お菓子があるお茶は久しぶりなのだ。ありがとう、あなたさん」
『ううん、俺も嬉しいし楽しい』
鉢屋くんともちょっと近づけた気がするし…。
『ありがとうね』
***
沢山おしゃべりして、自分の部屋に戻ってきた俺は達成感に浸っていた。
半ば無理やりだったけど、鉢屋くんも誘ってくれたし…。町も珍しいものが多くて、楽しい一日だった。
あ、軟膏塗らなきゃ。伊作様に怒られる。
『次はいつ行けるかな。貯金しておこうっと』
布団を出して、横になる。明日からはまた仕事だ。
よく歩いたし甘いお菓子を食べたからか、すぐに眠気がやってきた。
委員長……なんだっけ、学級委員長委員会だっけ。楽しみだな。いつ活動するんだろう。
***
『早かった』
次の日、事務室に勘右衛門くんが呼びに来てくれて、委員会に顔を出すことになった。
ちょっと行ってきます、と言った俺に「あれぇ、まだだったんですか」と小松田さんがのほほんと言ってきたが、笑顔でスルーした。こっちはやっとの思いなんです。
「あ、来た」
三郎くんが廊下に出て待っていてくれた。意外だな、と思う。
「はい、注目ー」
部屋に入ると、三郎くんが手を叩いた。
「この人はあなたのみょうじあなたさん。事務員だよ。知ってるね」
はーい、と勘右衛門くんがニコニコして手を挙げる。
「一年い組、今福彦四郎です!」
「一年は組、黒木庄左ヱ門です」
ふたりともすごく真面目そうだ。
「学級委員が所属してる委員会で…学園長直属の委員会だ。勘ちゃんから聞いてると思うけど…イベントの審判とか、実況をやってるかな。突然の思いつきにも対応したり…まあ、そんな感じ、です」
「学級委員か…みんなしっかり者なんだね」
「まあ…」
「お土産、ありがとうございました!は組のみんなも喜んでました!」
「あ、い組も…。ありがとうございました。美味しかったです!」
「下級生みんなにも買ってきてたのか?」
「そりゃあの大荷物になるわけだ」
五年のふたりが少し引いている気がする。
「みんなに買ってきてくださったんですか?お金、無くなっちゃったでしょう」
「庄ちゃんったら冷静ね…」
『あはは…お金はいいんだ。ここでお世話になって、助かってるから』
本当に助かっている。あの日放り出されていたら、もうとっくに死んでるだろう。
『みんなも優しいし…楽しく過ごさせてもらってる』
「…そんな風に言われたら、私が気まずいじゃないか」
「あ、言っちゃうんだそれ」
『はは…でも本当は優しいんでしょ。後輩のこと心配してたんだもん』
「…」
「三郎ったら黙っちゃって」
勘右衛門くんは楽しんでるみたいだ。一年生の二人からも生暖かい視線をいただいた。
『勘右衛門くん、いろいろありがとう』
「勘ちゃんでいいですよ」
『か、勘ちゃん…』
「はい」
最近ジーンと来ることが多い。歳かな。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。