ノルデスト区は風が吹くたびに、森からの瘴気が流れ込んでくる住宅地となっていた。そのせいか、風が吹くたびに紺色の粉が舞う。家は、風向きが考えられた設計となっており、粉が入らないようにしている。それでも、危惧し、入り口には何重もの布が構成されていた。
瘴気を吸いすぎた人間は、家の壁や地面に項垂れている。どうやら、幻覚や興奮作用などがあり同時に、依存性もあるようだ。よって吸うのは危険と言われている。
6人はマスクを着けた状態で散策していた。家の数はそれほど多くなく、どちらかといえば項垂れている人の数の方が多い。
ベテランメイドサリーは日傘を閉じた。生き物である、傘には悪影響のようだ。
足早に向かおうとしたその時、カリファは再びポンチョの裾を引っ張られた。骨と皮だけのような体付きの人間である。もはや、ここまで窶れていると性別の区別がわからない。髪も真っ白になっており、意識がなさそうだ。掴んできたその人間は唸っているだけである。
ハクロ執事が、蹴り飛ばそうとしたその時、カリファは慌てて止める。
カリファはマスク越しに、その者の顔をそっと両手で掴み、額をつける。
偶然だろうか・・・。窶れたその者は声が届いたのか、一雫の涙を零した。そして小さな声で「女神様・・・」と呟く。そして両手を離すとどこかへフラフラと去って行った。
それを見ていたバロウが拍手をした。
バロウがカリファの両手を握り、キラキラした表情で見つめる。しかし、カリファは後ろめたそうな表情をした。
最愛の人の家族を殺してしまったーー。その罪悪感は一生背負っていかなくてはいけない。
俯いたカリファをみて何かを察し、両手を放して、肩にポンと手を置いた。
カリファは何やら考えこみながら、前を歩いて行った。
他の5人も後について行く。
アナトリ区は瘴気が強く、露店は無いが住宅地が僅かにあり、マスクを着けた変な商人などがチラホラいた。マスクをした6人を見て、何故かマスクのもの達が家の影に隠れて行く。どうやら、格好を見て城に住むもの達だと理解したらしい。
カリファは、隠れて行くもの達がどういう者なのかわからず、執事を呼んだ。
シュン、と落ち込むと同時にどこかご立腹なカリファ。
そんな話をしていると、マスクをした、1人の小太りの男性が近づいてきた。あまりこの辺では見慣れない、帽子を被り、白のフードも肩までしている。しかし、中の服は一枚布を巻いたドラトンやバロウのような格好だ。
カリファが胡散臭そうな目つきで見つめる。
その処刑をした人間が、目の前にいるのにも関わらず、呑気に話す小太りな男。しかし、カリファの後ろのメンバーを見て、彼は急に顔が青白くなり始める。
カリファの顔を見て思わず後退る奴隷商人。
奴隷商人は察すると、悲鳴を上げながら、一目散に家の影へと消えて行った。
カリファは首を傾げながら振り返る。
ふぅん、と返事をすると再び歩き始めた。その後を5人もついて行く。
カリファは歩きながら呟く。
そう話していたその時、森のすぐ近くの家から見慣れた格好の2人が出てきた。2人とも鎧を着ているが、1人の黒髪はすぐに誰だかわかった。
近くに寄ってくる憲兵とクウォンチェ。よく見ると、鎧が血だらけである。それを見たカリファは思わずキャアッ、と悲鳴をあげる。
言いかけたその時、クウォンチェが執事を見つけ、すごい剣幕で執事に近寄って行った。胸ぐらを掴み、ズルズルと、執事を連れ出す。それをカリファが心配そうに見つめる。
何やら遠くでクウォンチェが一方的に怒鳴っているようだ。後からついてきた血だらけの憲兵がベテランメイドサリーに近づく。そして、そっと耳打ちをする。
それを近くで聞いてしまったバロウ。目を見開き、ベテランメイドを見つめる。
その間にドラトンがカリファに近づく。
カリファはクウォンチェを見つめる。
クウォンチェは何やら執事と喧嘩しているようだ。執事は、クウォンチェの動きに合わせて、全て攻撃を避けている。身のこなしは軽く、身体の動きだけであったら年齢不詳である。
カリファは近くにいた、項垂れている人を見つめた。
ドラトンが拍手をする。
先ほどと似たセリフである。
カリファは顔を上げ、ドラトンを見つめる。
その時だ、ドサッ、というなにか地面に落ちる音が響いた。
カリファはハッとしクウォンチェの方を慌てて見る。案の定、執事に伸されていた。
ベテランメイドはルーネル憲兵に、クウォンチェを運ぶよう伝える。
しかし、片手が荷物で埋まっているとはいえ、若い男性を簡単に伸してしまうのは凄い。
庭の出口の門には、憲兵と先ほどの窶れた少女が待っていた。ロシー少女はカリファを見つけると駆け寄ってきてギュッと抱きついた。
カリファは少女の頭を撫でる。
そういうと、両手で大切そうにネックレスを見せた。カリファは嬉しそうに微笑む。
それをそばで見ていたワトソン憲兵が呆れ気味に笑った。
7人は大きな声で笑った。その声に、クウォンチェが気づく。
執事の声に気づき、ルーネル憲兵の背中の上でクウォンチェが暴れる。
ルーネル憲兵の背中から無理矢理下りるクウォンチェ。
そして、執事を指差す。
カリファはベテランメイドを見つめる。ベテランメイドはギュッと目を瞑った。
全員、息を飲む。しかし、執事だけがフォッフォッフォッ、と笑っている。
カリファは少女の手をギュッと握り、門の中へと入って行った。
そして、プリンセスは誓ったのだーー“もう二度と愛するもの達を殺させはしない”と。


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。