第9話

第2章 Amore&エフスロス 5
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2023/01/12 14:19 更新
ノルデスト区は風が吹くたびに、森からの瘴気が流れ込んでくる住宅地となっていた。そのせいか、風が吹くたびに紺色の粉が舞う。家は、風向きが考えられた設計となっており、粉が入らないようにしている。それでも、危惧きぐし、入り口には何重もの布が構成されていた。
瘴気を吸いすぎた人間は、家の壁や地面に項垂れている。どうやら、幻覚や興奮作用などがあり同時に、依存性もあるようだ。よって吸うのは危険と言われている。
6人はマスクを着けた状態で散策していた。家の数はそれほど多くなく、どちらかといえば項垂れている人の数の方が多い。
ベテランメイドサリーは日傘を閉じた。生き物である、傘には悪影響のようだ。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
思っていたよりも・・・ひどいわね
バロウ・グノー/宗教者
バロウ・グノー/宗教者
ノルデスト区でこの状況です。アナトリ区はもっと酷いです。稀に暴力を振るってくる者もいます
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
フォッフォッ、ここは早めに通り過ぎますか
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
そ、そうね・・・
足早に向かおうとしたその時、カリファは再びポンチョの裾を引っ張られた。骨と皮だけのような体付きの人間である。もはや、ここまでやつれていると性別の区別がわからない。髪も真っ白になっており、意識がなさそうだ。掴んできたその人間は唸っているだけである。
ハクロ執事が、蹴り飛ばそうとしたその時、カリファは慌てて止める。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
待って!!!
カリファはマスク越しに、その者の顔をそっと両手で掴み、額をつける。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
『ディオよ、この者に幸あれーーディルカーラン』
偶然だろうか・・・。窶れたその者は声が届いたのか、一雫ひとしずくの涙をこぼした。そして小さな声で「女神様・・・」と呟く。そして両手を離すとどこかへフラフラと去って行った。
それを見ていたバロウが拍手をした。
バロウ・グノー/宗教者
バロウ・グノー/宗教者
素晴らしい!やはりカリファ侯爵、アナタは我々の女神だ!ぜひ、一緒に神について学びましょう!
バロウがカリファの両手を握り、キラキラした表情で見つめる。しかし、カリファは後ろめたそうな表情をした。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
いや…私は、きっと神に嫌われていると思うわ・・・
最愛の人の家族を殺してしまったーー。その罪悪感は一生背負っていかなくてはいけない。
俯いたカリファをみて何かを察し、両手を放して、肩にポンと手を置いた。
バロウ・グノー/宗教者
バロウ・グノー/宗教者
何を背負っているかわかりませんが・・・ここ人たちの分まで生きるのが大切ではありませんか?
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
ここの人たちの分まで?
バロウ・グノー/宗教者
バロウ・グノー/宗教者
そうです。ここの方々や亡くなった方は戻りません。ですがその人たちの分まで生きることはできます
カリファは何やら考えこみながら、前を歩いて行った。
他の5人も後について行く。




アナトリ区は瘴気が強く、露店は無いが住宅地が僅かにあり、マスクを着けた変な商人などがチラホラいた。マスクをした6人を見て、何故かマスクのもの達が家の影に隠れて行く。どうやら、格好を見て城に住むもの達だと理解したらしい。
カリファは、隠れて行くもの達がどういう者なのかわからず、執事を呼んだ。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
彼らは一体なんなの?
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
おそらく薬物の商人です。もしくは臓器買取り屋か奴隷商人ですね
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
あら、奴隷商人は普段ここにいるのね。売っている奴隷は“まがいもの”?それとも・・・綺麗なの?
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
おそらくほとんどが、まがいものかと
シュン、と落ち込むと同時にどこかご立腹なカリファ。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
せっかく綺麗な状態で売ったのに、瘴気漬けにされたら嫌なものね!
そんな話をしていると、マスクをした、1人の小太りの男性が近づいてきた。あまりこの辺では見慣れない、帽子を被り、白のフードも肩までしている。しかし、中の服は一枚布を巻いたドラトンやバロウのような格好だ。
ドルフ・ゴーラ/奴隷商人
ヒッヒッヒッ・・・。本物をお探しかい、お嬢様よぉ。うちに何体かありますぜぇ?
カリファが胡散臭そうな目つきで見つめる。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
・・・平均的な年齢層は?
ドルフ・ゴーラ/奴隷商人
おおよそ、10才前後ですねぇ。一月ひとつきちょっと前に処刑があったんでその時の子供を拾ったんですわ
その処刑をした人間が、目の前にいるのにも関わらず、呑気に話す小太りな男。しかし、カリファの後ろのメンバーを見て、彼は急に顔が青白くなり始める。
ドルフ・ゴーラ/奴隷商人
こ、こここ・・・こ、これはこれはハクロの旦那じゃあありませんかぁあ・・・。何故このようなところにーーではまさか!!!
カリファの顔を見て思わず後退る奴隷商人。
ドルフ・ゴーラ/奴隷商人
ま、まさか・・・アンタ・・・いや、アナタ様は!!!
奴隷商人は察すると、悲鳴を上げながら、一目散に家の影へと消えて行った。
カリファは首を傾げながら振り返る。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
ハクロ爺知り合い?
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
ふむ、確か少し前に仕事でお世話になった記憶が
ふぅん、と返事をすると再び歩き始めた。その後を5人もついて行く。
カリファは歩きながら呟く。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
しかし、こんなにも瘴気が強いと、マスクのフィルターもすぐにダメになりそうね
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
早めにここを去りましょう
そう話していたその時、森のすぐ近くの家から見慣れた格好の2人が出てきた。2人とも鎧を着ているが、1人の黒髪はすぐに誰だかわかった。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
クウォンチェ?!どうしてこんなところに?!
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
カリファ?!・・・お嬢様?!
近くに寄ってくる憲兵とクウォンチェ。よく見ると、鎧が血だらけである。それを見たカリファは思わずキャアッ、と悲鳴をあげる。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
それは・・・まさかクウォンチェの?!
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
いや、違う・・・。これはーー
言いかけたその時、クウォンチェが執事を見つけ、すごい剣幕で執事に近寄って行った。胸ぐらを掴み、ズルズルと、執事を連れ出す。それをカリファが心配そうに見つめる。
何やら遠くでクウォンチェが一方的に怒鳴っているようだ。後からついてきた血だらけの憲兵がベテランメイドサリーに近づく。そして、そっと耳打ちをする。
ルーネル・ウェンド/憲兵C
女性を“バラす”のは流石に心が痛みますね。あんな若いのはもう二度と御免ですよ
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
先ほど、ハクロ執事から聞きました。森に捨ててきたのですか?
ルーネル・ウェンド/憲兵C
はい。作業中、クウォンチェのやつ初めてだったので、ずっと吐いてましたよ。まぁ、今回の件で心身共に強くなったと思いますよ。しかし、火葬をしないなんてめずらしい
それを近くで聞いてしまったバロウ。目を見開き、ベテランメイドを見つめる。
その間にドラトンがカリファに近づく。
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
カリファ侯爵は、この森をどう思います?
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
私は・・・焼き払った方がいいと思いますね
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
ほほう、それはまたどうして?
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
森から取れる巨大繭は確かに商業としては大切です。ですが、こうも影響が出ているのでは邪魔でしかないわ。それに・・・ここに住む者達も幸せとは思わないでしょう
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
カリファ侯爵、幸せとは平静を保つ事によって感じられるのです。自然に生きてこそ、幸せなのです。彼らのこの姿はこれはこれで自然なのでは?
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
私の幸せはーー
カリファはクウォンチェを見つめる。
クウォンチェは何やら執事と喧嘩しているようだ。執事は、クウォンチェの動きに合わせて、全て攻撃を避けている。身のこなしは軽く、身体の動きだけであったら年齢不詳である。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
愛する人と一緒にいられるだけで幸せだわ
カリファは近くにいた、項垂れている人を見つめた。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
ここの人たちにも大切な人が出来れば、きっと何かが変わるわ
ドラトンが拍手をする。
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
いやぁ、勉強になります!カリファ侯爵、アナタは我々にとって革命家です!ぜひ、一緒に哲学について学びましょう!
先ほどと似たセリフである。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
革命ね・・・。私はそういう人間ではないわ。私は自分自身の目標のためだったら手段を選ばないだけよ
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
手段を選ばない?では・・・森を燃やす事に関してなにか着手しているのですか?
カリファは顔を上げ、ドラトンを見つめる。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
いいえ、それが出来なくて困っているのよ。私はあくまでも女で、いずれはどこかの伯爵と結婚し、政権もその人に握られてしまうわ。・・・きっとね
ドラトン・イデラ/哲学者
ドラトン・イデラ/哲学者
それでは、民衆を味方につけてはいかがです?きっと、カリファ侯爵の背中を押して下さいますよ。今日みたいに、たまに民と触れ合っていけばですが・・・
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
そう簡単に上手くいかないのよ・・・。外に出られたのも、今日が最初で最後だと思うわ
その時だ、ドサッ、というなにか地面に落ちる音が響いた。
カリファはハッとしクウォンチェの方を慌てて見る。案の定、執事に伸されていた。
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
フォッフォッフォッ!手加減致しましたので、ご安心下さい
ベテランメイドはルーネル憲兵に、クウォンチェを運ぶよう伝える。
しかし、片手が荷物で埋まっているとはいえ、若い男性を簡単に伸してしまうのは凄い。
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
それではカリファお嬢様・・・帰りますか
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
・・・そうね























庭の出口の門には、憲兵と先ほどの窶れた少女が待っていた。ロシー少女はカリファを見つけると駆け寄ってきてギュッと抱きついた。
ロシー・ケリア/少女
ロシー・ケリア/少女
おかえりなさい!お嬢さま遅いですぅー!!!
カリファは少女の頭を撫でる。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
遅くなってごめんなさいね。ネックレスは・・・きちんと守れたかしら?
そういうと、両手で大切そうにネックレスを見せた。カリファは嬉しそうに微笑む。
それをそばで見ていたワトソン憲兵が呆れ気味に笑った。
ワトソン・ブル/憲兵B
その子、俺が「少しだけ見せて」とか「少しだけ貸して?」って聞くと「やぁ!!!」って嫌がって絶対に渡そうとしないんですよぉー
7人は大きな声で笑った。その声に、クウォンチェが気づく。
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
あ、あれ・・・オレ・・・いったい・・・
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
まぁ、仲が宜しいようでよかったです
執事の声に気づき、ルーネル憲兵の背中の上でクウォンチェが暴れる。
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
ハクロ執事!!!テメェだけは・・・許さねぇ!!!
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
クウォンチェ、今日はどうしたのよ?!アナタおかしいわよ?!
ルーネル憲兵の背中から無理矢理下りるクウォンチェ。
そして、執事を指差す。
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
だって・・・だってこいつは・・・ローリアを殺したんだぞ!!!許せるかよ!!!
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
・・・・・えっ?
カリファはベテランメイドを見つめる。ベテランメイドはギュッと目を瞑った。
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
ウソ、よね・・・?だって、朝体調悪いって言ってて・・・それで・・・
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
サリー・ラッシュ/ベテランメイド
・・・申し訳ございません。私も先ほど聞いた所業しょぎょうです・・・
クウォンチェ・シェンリ
クウォンチェ・シェンリ
それに・・・それによ・・・。オレ、色々ローリアの相談乗ってたんだよ…。ローリアのお腹には…子供もいたんだぜ
全員、息を飲む。しかし、執事だけがフォッフォッフォッ、と笑っている。
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
・・・産んでおりましたら周りが迷惑致します。その件でしたら、ドーザ公爵様やターラ公爵夫人から了承済みです
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
それでは・・・お父様が?
ハクロ・ヒューザリア/執事
ハクロ・ヒューザリア/執事
“私情を挟むようだったら切り捨てろ”という御命令でしたので。森に捨てさせて頂きました
カリファ・イヴ・サロス侯爵
カリファ・イヴ・サロス侯爵
・・・そう、わかったわ
カリファは少女の手をギュッと握り、門の中へと入って行った。

そして、プリンセスは誓ったのだーー“もう二度と愛するもの達を殺させはしない”と。

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