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あれから地下に連れて行かれ、身動きできない状態で、されるがままに狭い場所に閉じ込められた。
ひんやりした床の感触が頬に当たる。
そいつは俺を置くとじっと見下ろしてきた。
確かに兎だけど、身体が異様に大きかった。
目は血走っているし斧を担いでいるし。もしかして、俺は今から切り刻まれるの?
かと思ったらガチャン、と重い扉を閉めてすたすたと去って行った。
今朝、姿がなかったはずの彼の声が近くから届き、慌てて体を起こそうとした。
白い壁に小さな穴が開いていた。
かざねよりも遠い声が聞こえた。
ばしばしと壁を叩く音が聞こえた。おそらく…かざねの隣なんだろう。
壁穴を覗きたくても起き上がることに精一杯でなかなか動くことができない。
どこからか軽い、けどふらついた足音が聞こえてくる。
隣で転ぶ音がした。
揚げ足取りをしている場合じゃない。りもこんもあのうさぎに捕まってしまう。
しかし叫びも虚しく、廊下の見える鉄格子から速い風が駆けていくのを見た。
べしょっと床に倒れる。
…いやまず生身であのうさぎに勝てるとか思わない方がいいな。うん、りもこんを責めるべきじゃない。
だんだんと足音が近づいてくる。それは、俺の左隣の部屋で止まった。
うさぎは仕事を終えたかのような足取りで去っていく。表情は達成感でも満足感でもなんでもなく、ただ単に無表情で。
静まり返る。蛍光灯の音だけが時間を刻む。
かざねが息を吐く。俺も手汗が滲んでいた。
無機質な白。
冷たい床。
小さな壁穴。
鉄格子の隙間からほんのり臭う薬品。
何もない部屋。
全てが病院の地下とはいえ、考えられない光景ばかり。
2人は口をつぐんだ。でも、りもこんの言った言葉に棘があるわけでもなかった。
図星なのか、彼も黙り込んでしまった。
むわんとした空気が伝う。
数分後、ふうはやが沈黙を破った。
全員(かざね以外)叫んだ。特に端っこの方からはどこかに頭をぶつける鈍い音も添えて。
うさぎは一度だけ鉄格子を斧で叩いて威嚇すると、すたすたと去って行った。
やっぱり二足歩行しているだけでゾッとする。
完全におふざけ兼脱獄会議がぶち壊された。冷や汗が垂れる。
絶望的だった。逃げ場のない箱に閉じ込められているのだから。生憎、負傷人ばかりで解放されたとしてもまともに動ける人は半数。まともと言っても完全ではないが。
一瞬、静まり返った。
空気を読まないボケとツッコミが披露される。いつもなら笑っていたかったけどそれどころではない。
鉄格子の隙間から見えるその笑みは知っているはずなのに、やけに不気味だった。
俺らを舐め回すように廊下をゆったりと往復する。
ガシャァァンッ‼︎
うさぎがギラギラと目を光らせてりもこんの鉄格子を斧でぶっ叩いた。
息を呑むのが左から聞こえる。俺も心臓が跳ねた。
目は全く笑っていなかった。そのまま、うさぎの肩に手を添える。
びくりと斧を取り落としかける。
囁き声だったが、俺にははっきり聞こえた。うさぎは表情は変えないものの、微かに震えている。
…何を、2倍?
周りの温度が下がった気がした。
のんびりと手を振って消えた。
うさぎもしばらく俯いていたが、気を取り直したかのように斧を担いで廊下の奥へ走って行った。
何も言葉が出てこなかった。
情報量が多い。
やっぱり碓氷先生は怪しさ満点だし、うさぎの様子はなんだかおかしいし、なんだか嫌な予感がするし。
言い聞かせるような声は酷く弱々しかった。
〝俺ら、多分あのうさぎのこと知ってるぞ〟
うさぎは短くて5年、長くて10年以上生きると言われている。
俺も体育の暇な時間、兎小屋を眺めていることもあった。黄色い柔らかな毛並みの小さなうさぎだった。確か高学年の生徒が世話を担当していたような…。
かざねが息を呑んだ。俺も変な予感がした。
斧を持った黄色い毛皮の巨大なうさぎ。普通ならありえない。
誰も確定的な情報は持ち合わせていないらしい。
自分でも結構ドスの効いた声が出て固まった。
確かに、見た感じではあのうさぎはいい体型とは言えなかった。痩せに近い。
だんだん仮定と結論が一致してくる。
途切れた。想像できても言うまでの行動に出られない気持ちはよくわかった。
あんなに従順になって。斧を振り回して。
人間への復讐なのか、はたまた別の意思なのか。
…自由でないのはあの顔を見てわかる。
かざねが座り込む音が壁越しに溶けた。
病室のように暖かいベッドも、利便性を備えたテーブルも、優しい彩菜先生も…今では夢のまた夢だ。
冷たい床は体温を奪うように光っている。
クーラーの効き過ぎた部屋のように肌寒い。
ふうはやとかざねが壁越しにぴったりと身を寄せた。
やってることがひもじさのそれだった。…が、今はそれくらいしか手段がない。
部屋が隣同士の2人組で壁を挟んで寄り添い合う構図ができあがった。あんまり暖かさの違いは感じられないが、安心感は倍増。
4つの檻からいつものような笑い声が飛んだ。1人だったら、絶対にこんな空気感は生み出せないだろう。
…それが、いつまで続くのか。
すたすたと足音が近づく。
ふうはやの檻の扉が開く。トレイの音が聞こえた。
次は隣のかざね。
流石に警戒心が食欲を上回っている。
檻の扉を開けたのはまさかのうさぎで、俺は壁から手を離して反射的に後退った。無感情にトレイを床に置き、それだけだった。扉が閉められる。
うさぎがりもこんのところにも置いてる間に、トレイを覗き込んだ。…確かに、レストランにもありそうな見た目のステーキだった。
少しだけ間があったのを俺は聞き逃さなかった。
そして、静かになった。
りもこんの声色にはおふざけが抜け落ちていて、警戒の裏腹に心配が滲んでいる。
彼の咀嚼音はかざねにしか聞こえないだろう。
ぽつりと、感想が漏れた。
フォークの音が聞こえる。
フォークが落ちかけた。気を取り直し、震えを押さえて肉片を口に運ぶ。
かざねが正直だった。
美味しくない。硬い。パサパサしている。ステーキは好きだけど、これは口に合わない。
部屋の隅のペットボトルを掴む。
この空間に、少しだけ違和感を覚えた。
俺ら皆、牛肉は好きなはずなのに。派閥がある。
そして、ふうはや。飯を美味しいと言ったことは何度もあるが、執着気味な状態は今までになかった。
その変化は、日に日に見えていくこととなる。
スクロールお疲れ様です。
第43話もお読みいただき、ありがとうございます!
前回は本当にありがとうございました😭30近くいいね数がいってて逆に申し訳なくなります…。第2章もそろそろピークなのでご自分のペースでお付き合いくださると幸いです。なんとか週2投稿できました…こりゃ大変だ😳
夏コラボ始まりましたね〜!久しぶりにリアタイできて満足✨またこの絡みが見れるなんて幸せです。
では、次のお話でお会いしましょう。
次は多分金曜かな…できたら水曜日にも投稿します!























編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。