第53話

❤️第43話…「見覚えのある獣」
382
2026/08/01 11:00 更新

いいね♡数1600超ありがとうございます🥰!!


あれから地下に連れて行かれ、身動きできない状態で、されるがままに狭い場所に閉じ込められた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
いたっ…、

ひんやりした床の感触が頬に当たる。
そいつは俺を置くとじっと見下ろしてきた。


秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うさ…ぎ…?

確かに兎だけど、身体が異様に大きかった。
目は血走っているし斧を担いでいるし。もしかして、俺は今から切り刻まれるの?

かと思ったらガチャン、と重い扉を閉めてすたすたと去って行った。




佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
しゅうと…?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え、かざね!?どこに居るの!?

今朝、姿がなかったはずの彼の声が近くから届き、慌てて体を起こそうとした。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
多分…隣かも

白い壁に小さな穴が開いていた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
無事なんだね、!?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
あぁ…心配かけたな
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え、しゅうと!?待ってしゅうと居るのか!?

かざねよりも遠い声が聞こえた。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ふうはや!?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
しゅうと…!良かった…

ばしばしと壁を叩く音が聞こえた。おそらく…かざねの隣なんだろう。
壁穴を覗きたくても起き上がることに精一杯でなかなか動くことができない。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
おい、大丈夫か
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
うん…、
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
てか…りもこんは?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
それが…一瞬であのうさぎに俺が連れ去られて、りもこんが確氷さんと二人きりになって…
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ってことくらいしかわかんない
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…まずいなそれ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
あいつだけでも逃げてくれたなら万々歳なのに
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
よりによって動ける俺ら2人が寝込みを襲われた
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
意地汚いよね




瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
ふうはやぁぁぁぁ居るかぁぁ!!?

どこからか軽い、けどふらついた足音が聞こえてくる。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
嘘だと言ってくれ…
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
逃げろよそこは…

隣で転ぶ音がした。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
ばかやろぉぉ!!
俺らのことはいいから逃げろよ!!
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
馬鹿野郎はお前もだふうはや!
ここで大声で叫ぶな!
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
いや…かざねも人のこと言えない…

揚げ足取りをしている場合じゃない。りもこんもあのうさぎに捕まってしまう。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
りもこん…駄目…!ここから離れて!!

しかし叫びも虚しく、廊下の見える鉄格子から速い風が駆けていくのを見た。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
おいあいつ…っ!
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ほんとにまずい…!?


瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
なになになに、!?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
いいから逃げろ!!獣来るぞ!!
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
あぁぁぁっ!!?




風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…。希望は閉ざされた、と

べしょっと床に倒れる。
…いやまず生身であのうさぎに勝てるとか思わない方がいいな。うん、りもこんを責めるべきじゃない。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
おい、離せよ…!力強いな!?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
抵抗すんなりもこん!死ぬぞ!

だんだんと足音が近づいてくる。それは、俺の左隣の部屋で止まった。
うさぎは仕事を終えたかのような足取りで去っていく。表情は達成感でも満足感でもなんでもなく、ただ単に無表情で。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
いッたぁ…!?雑っ
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
りもこん…、大丈夫か
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
マジで…腰限界突破したかも。
てか皆居るんだな
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
お前さぁ…逃げろって言ったのに
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…りもこんは悪くないよ。誰も悪くない

静まり返る。蛍光灯の音だけが時間を刻む。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
てか、ここ何。…俺らはどうなるの
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
知らない。てか俺とりもこん離れすぎてあんまり聞こえない
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
あ、端っこなんだ
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
あんまり呑気に話している余裕はないかもしれないよ

かざねが息を吐く。俺も手汗が滲んでいた。


無機質な白。

冷たい床。

小さな壁穴。

鉄格子の隙間からほんのり臭う薬品。

何もない部屋。


全てが病院の地下とはいえ、考えられない光景ばかり。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
地下…だよね
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
俺とふうはやは知ってたんだよね
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
え、?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え…?
あ、ふうはやが言ってた地下室の話か
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
しゅうとも知ってんの?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
いや…、話題を提示されただけで中身は何も知らなかった
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
あのさ…知ってたなら教えてくれよ…
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
俺らは今頃こんな所にいなかったかもしれないんだぞ

2人は口をつぐんだ。でも、りもこんの言った言葉に棘があるわけでもなかった。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
悪い…なんか巻き込みたくなくてさ…
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
好奇心で行こうとしたふうはやが悪い
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
おい、かざねも同罪だぞ

図星なのか、彼も黙り込んでしまった。
むわんとした空気が伝う。

数分後、ふうはやが沈黙を破った。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…よし、脱獄するか
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
待て待て待て、よく考えろ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
安心しろ、これが終わったら俺
…結婚するんだ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
それ死亡フラグ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
知ってたか
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
誰と結婚するの
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
てか未成年じゃん
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
そりゃもちろんブロッコリーと
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…は、?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
わかった、生きてたらお前のために
サラダボウル持って行ってやる
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
サラダボウルより前提が重い
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
俺はお酒の代わりにドレッシング持って行くね
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
じゃあ俺は粉チーz
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
ただのサラダパーティじゃねえか
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
でもそれだと嫌だな…
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
俺は皆と普通にパーティしたい
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…、お前ら緊張感はどこに置いてきた
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
プライドと一緒に焼却炉へ
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
全く笑えないね
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…まぁ、そんな会話がずっとできるように脱出してやるってわけ




佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
………檻の前にうさぎ居るけど



全員(かざね以外)叫んだ。特に端っこの方からはどこかに頭をぶつける鈍い音も添えて。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
待って待って待って言ってよぉぉ!!
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
心臓潰れた…
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
だからよく考えろって言ったんだ
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
そのときから居たの!?
うさぎは一度だけ鉄格子を斧で叩いて威嚇すると、すたすたと去って行った。
やっぱり二足歩行しているだけでゾッとする。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…終わった
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
どうすんの。絶対報告しに行ったでしょ

完全におふざけ兼脱獄会議がぶち壊された。冷や汗が垂れる。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
……え、本当に希望なくなったよ?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
大声で話すからだろ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
なんでそんなに冷静なのか
俺には理解できない
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
どうすればいいんだ…

絶望的だった。逃げ場のない箱に閉じ込められているのだから。生憎、負傷人ばかりで解放されたとしてもまともに動ける人は半数。まともと言っても完全ではないが。
碓氷
碓氷
はいはい諸君。ご機嫌いかがかな?

一瞬、静まり返った。


瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
お前が黒幕だな?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
落ち着け色々早い

空気を読まないボケとツッコミが披露される。いつもなら笑っていたかったけどそれどころではない。
碓氷
碓氷
あはは、手荒になっちゃってごめんね。でも本当は君らが謝るべきなんだけど

鉄格子の隙間から見えるその笑みは知っているはずなのに、やけに不気味だった。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
俺らが謝る要素あります?
碓氷
碓氷
あるある。主に君だよ佳沙音君…いや、かざね君
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…おんなじですよ
碓氷
碓氷
黙ろうか
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
はぁ!?かざねが何をしたって言うんだ!
碓氷
碓氷
彼が気が付かなかったらまずは風雅…いやふうはや君だけ回収するつもりだったのに。半日で全員収容だもの

俺らを舐め回すように廊下をゆったりと往復する。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
は、?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
なんでふうはやだけ…
碓氷
碓氷
別によくない?まぁ誰からでもいいんだけどさ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…おい…何を企んd




ガシャァァンッ‼︎

うさぎがギラギラと目を光らせてりもこんの鉄格子を斧でぶっ叩いた。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…っ!

息を呑むのが左から聞こえる。俺も心臓が跳ねた。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…そんなに言えないのかよ
碓氷
碓氷
そりゃ企業秘密だもん

目は全く笑っていなかった。そのまま、うさぎの肩に手を添える。
碓氷
碓氷
こらこら乱暴は駄目。
この前窓ガラス割ったんでしょ

びくりと斧を取り落としかける。
碓氷
碓氷
次変なことしたら、2倍ね

囁き声だったが、俺にははっきり聞こえた。うさぎは表情は変えないものの、微かに震えている。

…何を、2倍?


佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…おい、そいつ大丈夫か?
碓氷
碓氷
この子の心配する暇があるんだね、
かざね君
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
おい…とりあえずここから出せよ!
碓氷
碓氷
それは…できないなぁw
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
ふざけんなてめえッ!!
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
出してください…なんで…なんでこんなことするんだよ…!


碓氷
碓氷
…お互い願いを叶えられる方法
なんだから。我慢してよね

周りの温度が下がった気がした。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
は…?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
どういう意味だ
碓氷
碓氷
ま、そういうことで
碓氷
碓氷
じゃあね、次は朝ごはん持って行くよ

のんびりと手を振って消えた。
うさぎもしばらく俯いていたが、気を取り直したかのように斧を担いで廊下の奥へ走って行った。


瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…、

何も言葉が出てこなかった。
情報量が多い。

やっぱり碓氷先生は怪しさ満点だし、うさぎの様子はなんだかおかしいし、なんだか嫌な予感がするし。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…やっぱ…俺のせいだったりするのかな
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
絶対そんなことない
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
それはそう
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…俺もそう思う
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
……、そうだよね

言い聞かせるような声は酷く弱々しかった。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…なんか見覚えあるから言ってみるけど




〝俺ら、多分あのうさぎのこと知ってるぞ〟


瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…え?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…あんな二足歩行の化け物と知り合いとかごめんだけど
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…あ、でも…俺ら通ってた学校ってうさぎ飼ってたよね?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…確かに

うさぎは短くて5年、長くて10年以上生きると言われている。
俺も体育の暇な時間、兎小屋を眺めていることもあった。黄色い柔らかな毛並みの小さなうさぎだった。確か高学年の生徒が世話を担当していたような…。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
そう。俺見たことあるんだけど、毛並み黄色いんだよ
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…なんとも言えないけど、関係あんの?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
着ぐるみかもしれないよ?…え、?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
気付いたか?
学校のうさぎ、急に消えたんだぞ
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え、いつ?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
しゅうとは知らないと思う。俺が4年生のときに流れたんだ。うさぎが消えたって。皆いなくなったって
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
本当かそれ。俺も知らないんだけど
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
かざねの事故の後…だったもんな。
その後、さらに奇妙な噂が流れた
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
え、あれそうなの?
生徒の一斉下校と先生方の早めの帰宅

かざねが息を呑んだ。俺も変な予感がした。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
得体の知れない何かが、
校内を歩いているらしい
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…え、それがあいつなの?

斧を持った黄色い毛皮の巨大なうさぎ。普通ならありえない。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
待て…なんであいつだと確信持てるんだ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
俺も最初は信じなかった。
だけど小屋に兎は1匹もいない
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
悪戯とかじゃないの?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
勝手にうさぎを逃すとか校則破ることに等しいだろ
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
だとして、あんなにでかくなって帰ってくるか?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…そこは俺もわからない
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ちなみに3人の中でうさぎのお世話を担当したことある人いる?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…いや
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
やったことないけどクラスメイトならやってたかな
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
俺もやったことない

誰も確定的な情報は持ち合わせていないらしい。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
ただ…確かボロボロだったよな?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え、そうなの?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
小屋の中蜘蛛の巣だらけで。俺その時用事あったから次の日にクラスメイトに聞いたんだよ。ちゃんと世話してるかって
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…反応は?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
笑顔で、「してるよ」って
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
怪しいな
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
先生には言った?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…恥ずかしいけど言った
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
偉いな…で、なんて言ってた?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
気にすんなって
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
は?

自分でも結構ドスの効いた声が出て固まった。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…流石に怒っていいと思う
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…だよな。愛着持たなかったのかサボってたんだろうな

確かに、見た感じではあのうさぎはいい体型とは言えなかった。痩せに近い。
だんだん仮定と結論が一致してくる。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
しばらくして、うさぎが消えた数日後に帰りの会で先生に言われたもんな。これからしばらくは一斉下校&お遊びでも居残り厳禁って
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
普通にびっくりしたよね
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
んで、さらにその数日後、体育館向かいの校舎の窓ガラスが堂々と割れてたんだよね
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
さ、さっき言ってた…
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
嘘だろ…ほぼ確定じゃん
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
でも…なんであんな直立二足歩行しだしたのかわかんない
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
いや、それはもう…

途切れた。想像できても言うまでの行動に出られない気持ちはよくわかった。

あんなに従順になって。斧を振り回して。
人間への復讐なのか、はたまた別の意思なのか。

…自由でないのはあの顔を見てわかる。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…なんか…可哀想の言葉じゃ済まないよな
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
俺らも結構すごい人生を歩んでるけどね?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
生命カゴキブリってこういうことか
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
ちなみに全然嬉しくない
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
そりゃそうでしょ

かざねが座り込む音が壁越しに溶けた。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
じゃ、改めて脱出計画立てるか
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
お前は諦めの悪さがゴキブリ並み
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
その顔面蹴り飛ばしてやりたいわ、絶対笑ってるだろ
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
扉は外側にしか鍵付いてないし…窓はそもそも地下だから無いし鉄格子は硬いし
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
完全に閉じ込められてるよね
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
もうやだマジで…出たい
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
寒いし…、

病室のように暖かいベッドも、利便性を備えたテーブルも、優しい彩菜先生も…今では夢のまた夢だ。

冷たい床は体温を奪うように光っている。


風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…はくしょんッ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
………、いや今は夏なのに

クーラーの効き過ぎた部屋のように肌寒い。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
風邪ひいちゃう
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…ふうはや、壁に寄れ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
無駄かもしれないけど、ほら

ふうはやとかざねが壁越しにぴったりと身を寄せた。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…え、今そっち何かしてる?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
壁にくっついてる
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
あ~…壁も温められて一石二鳥

やってることがひもじさのそれだった。…が、今はそれくらいしか手段がない。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
りもこん、俺らも
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
いいよ。じゃあ…真ん中ら辺で
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
おっけー

部屋が隣同士の2人組で壁を挟んで寄り添い合う構図ができあがった。あんまり暖かさの違いは感じられないが、安心感は倍増。


風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…ずっとこうしていたいかも
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
妙に素直だね
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
いいだろ別に
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
しゅうとの体温高いな
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
え、伝わったw?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
逆にふうはやは生きてるか怪しいけど
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
俺ってそんなに冷え性だったっけ?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
あー、日光がないから光合成できないか
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
光合成と熱って関係あんのか…?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
あっさりとお野菜枠認めてる…

4つの檻からいつものような笑い声が飛んだ。1人だったら、絶対にこんな空気感は生み出せないだろう。

…それが、いつまで続くのか。

すたすたと足音が近づく。
碓氷
碓氷
やぁ、朝食の時間だよ…って、随分と変わった光景だね
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
おい笑うな
碓氷
碓氷
笑ってない笑ってない。ほら

ふうはやの檻の扉が開く。トレイの音が聞こえた。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え……何これ、?
碓氷
碓氷
ステーキだけど?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
正直ゲテモノを想像してた
碓氷
碓氷
あっはは、刑務所でも野菜スープとかのイメージあるのにな。僕は優しいよ

次は隣のかざね。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…、何の肉?
碓氷
碓氷
…さぁ?言えないな
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
はぁ、!?あっぶね食うところだった

流石に警戒心が食欲を上回っている。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
言わないと食べない。
回答次第でも食べない
碓氷
碓氷
はいはい、牛だよ普通の
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
本当か…?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
ふうはや、一斉に食うから待ってろ
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
おっけー
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
怪しいな
碓氷
碓氷
ほら君、しゅうと君のところとりもこん君のところにお願い

檻の扉を開けたのはまさかのうさぎで、俺は壁から手を離して反射的に後退った。無感情にトレイを床に置き、それだけだった。扉が閉められる。
うさぎがりもこんのところにも置いてる間に、トレイを覗き込んだ。…確かに、レストランにもありそうな見た目のステーキだった。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
うぇ…ど、どうも
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…で、なんで肉?
碓氷
碓氷
…君ら成長期だから

少しだけ間があったのを俺は聞き逃さなかった。
碓氷
碓氷
さ、あとはごゆっくり。1時間後に回収するから。別に食べなくてもいいけどそれくらいしかないからね
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
絶対に飽きる……
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
しゅうと、そこじゃない
碓氷
碓氷
大丈夫、大丈夫。人によっては慣れるさ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
嘘つけ…
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
今日だけで飽きる自信がある
碓氷
碓氷
あはは、まぁどうしてもと言うなら考えようかな。じゃあまたね

そして、静かになった。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…どうする?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
マジで信じられん
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…一方的だもんね
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
俺が毒味しようか?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
ほんとに言ってる?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
不味かったとしても、これを食って生きてかないといけないんでしょ?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
肉だけって脳筋かよ…
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
まぁまぁ。信じろって俺を
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
味の保証だけしてもらおうか
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
じゃあ…頼んだ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
これでぽっくり逝ったら死んでも許さないからな
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
理不尽すぎる

りもこんの声色にはおふざけが抜け落ちていて、警戒の裏腹に心配が滲んでいる。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
じゃ、いただきまーす

彼の咀嚼音はかざねにしか聞こえないだろう。
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
…どう?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
生きてる?
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
…ふうはや?


風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
…美味い

ぽつりと、感想が漏れた。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え、めっちゃ美味いんだけど…本当に牛肉?
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…牛肉も普通に美味しいよ?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
いやいやいや、食べてみ?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
これで演技だったら怒るからな
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
怖い怖い怖い…
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
本当に…え、信じられないくらい美味いんだけど
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
本当に、?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
うん
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
…じゃあ俺いくわ

フォークの音が聞こえる。
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
あ、意外と…いける
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ほ、本当に?信用していい?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
りもこんが言うなら…そうなのか?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
ねぇもう無くなったんだけど!?
意外と少ない!
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
えぇ!?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
お前速くね!?

フォークが落ちかけた。気を取り直し、震えを押さえて肉片を口に運ぶ。


佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
……うぇッ…

かざねが正直だった。
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
なにこれ…

美味しくない。硬い。パサパサしている。ステーキは好きだけど、これは口に合わない。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
えぇ、嘘ぉ…
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
口に合わなかったか
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
不味くない…?
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
どこが!?
佳沙音(かざね)
佳沙音(かざね)
やばい…俺は無理だ
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
無理しない方がいいかもな…
秋灯(しゅうと)
秋灯(しゅうと)
ちょ、水…っ

部屋の隅のペットボトルを掴む。
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
え、いらないなら頂戴
瑠威(りもこん)
瑠威(りもこん)
やめろふうはや、2人が餓死する
風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
ちぇ、




この空間に、少しだけ違和感を覚えた。
俺ら皆、牛肉は好きなはずなのに。派閥がある。

そして、ふうはや。飯を美味しいと言ったことは何度もあるが、執着気味な状態は今までになかった。



その変化は、日に日に見えていくこととなる。


風雅(ふうはや)
風雅(ふうはや)
………


スクロールお疲れ様です。
第43話もお読みいただき、ありがとうございます!

前回は本当にありがとうございました😭30近くいいね数がいってて逆に申し訳なくなります…。第2章もそろそろピークなのでご自分のペースでお付き合いくださると幸いです。なんとか週2投稿できました…こりゃ大変だ😳

夏コラボ始まりましたね〜!久しぶりにリアタイできて満足✨またこの絡みが見れるなんて幸せです。

では、次のお話でお会いしましょう。
次は多分金曜かな…できたら水曜日にも投稿します!

プリ小説オーディオドラマ