第110話

番外編 12月25日
107
2023/12/24 05:07
重複 視点
冬にあるイベントの一つ、クリスマス
外に出れば、街は色鮮やかな電球の飾りで夜でも明るく、2人の男女や子連れがあちらこちらにいる
みんなこの日は笑顔を浮かべ、大切な人と一緒に過ごすことが多いだろう
_救いを求めている人々の声を、まるで存在しないかのように扱い、笑っている
光が強く眩いほど、影もまた強く濃くなる。だから世界から犯罪は消えないし、悲しみも消えない
そんな風に考えてしまう私は、相当ひねくれ者だ
折角のおめでたい日だというのに…と、せっせと準備をしているB組のみんなを横目で見ていた
円場硬成
なーにサボってるんだよ!
笑顔を浮かべたまま、背後から抱きしめてくる円場
あなた
人聞きの悪い…サボってないよ。今は手紙を書いてるんだ
泡瀬洋雪
手紙?
常識人四天王が集まり、手紙の内容を確認しようとしてきたので、一番近い円場に手渡した
すると顔を寄せ合って手紙を読み始めたので、そんなに気になるものなのかと、少し笑ってしまった
突然、常識人四天王全員に抱きつかれ、完全に動きを封じられてしまった
鱗飛竜
…重複は俺らが幸せにする
回原旋
そこは俺って言っとけ。後完全同意
何やら感極まっているように見えるが、何故そんなことになっているのか分からず、小森に事情を説明して手紙の内容を見せてみた
すると何故か準備を進めていたみんなを集め、手紙の内容を嬉々として見せていた
そして何故かみんなが心臓発作でも起きたかのように、胸の辺りに手を当てていた
…変なことを書いた覚えはないんだが。と、不思議に感じて思わず首を傾げてしまった
その様子を見た小森が、どうしてみんながこうなってしまったのかを教えてくれた
どうやらやはり私の書いた手紙の内容が原因らしい
…内容を思い返してみても、原因らしい原因が考えられなかった。更に深く思案してみる
もしやみんなは思い出を残すのは嫌なタイプだったか?思い出なんかいらんってやつ。それとも写真が嫌いなタイプ?たまにいるやつ
だがどちらもしっくりこないので、小森に答えを聞くと『可愛い理由だったから』と言われた。理解不能
あなた
…それよりパーティーの用意しよう?
これ以上聞いても分からないが増えるだけだと思ったので、まだ終わっていないパーティー準備の方に意識を向けた
そこでようやく石像のように固まって動かなくなってしまっていたみんなが準備に取り掛かった
円場硬成
本当に重複って純粋だよな
あなた
?どうして
円場硬成
だってさ__
こちらを揶揄うような、悪戯っ子の笑みで告げられた言葉は、今でも鮮明に思い出せる
…飴玉かと思って期待し、口に入れた途端に広がった落胆するほど綺麗で何も感じないビー玉の味
…四歳頃になって周りが個性を発現し夢見る中、自分だけが夢見ることすら許されない現実
…全てから見捨てられ、孤独に生き犯罪を犯した社会不適合者も悪の存在なんだと教えられる世界
幼い頃に叩きつけられた、希望が奪われる瞬間
今となってはもう覚えていないであろうが、かつて誰もが経験をしたであろうその瞬間
あなた
『サンタなんていないのに、信じてるんだぜ?』…だってさ
荼毘
へぇ
あなた
縋るものがなかった私にとっての、希望とも言えたそれをいとも簡単に壊した
ヒーローもこの世界の価値観も、初めて個性を発現させたあの日から、目の前の全てが信じられなくなった
そんな中でも、サンタの話は全ての子供の夢のような存在だったから、それすら偽りであるとは思いたくなかった。だからその存在をずっと信じてきた
渡我被身子
…その子、刺してもいいですか?
あなた
そんなことしたら、トガ。私は君を永遠に許すことはないよ
それをあの一言で壊されたのは、正直複雑で。それでも、サンタのことが偽りだったことよりも、円場に負の感情を一瞬でも抱いてしまったことが嫌だった
…前はヒーローを目指していたのに、今ではヴィランとつるんで。けれどヒーロー志望の彼らを庇う
結局私はどっちつかずで、何者にもなれない
私は自嘲した顔で、みんなの前で笑ってみせた

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