いつなんて、覚えてないけど私は小さい頃から声が出せなかった。
嬉しくても、悲しくても声がでない。
私が自分の声を意識し始めたのは、
声を失った瞬間があったからじゃなかった。
最初は気のせいだと思ってた。
喉が詰まる日もあれば、そうでもない日もある。
声を出そうとしても、息だけが漏れる日が、少しずつ増えていった。
周りの大人は首を傾げた。
医者は難しい言葉を並べて、
「そのうち戻るかもしれません」と言った。
誰も、原因を知らなかった。
自分でさえも、まったくわからなかった。
ただ一つ分かったのは、
声を出そうとすると、みんながこちらを見ること。
心配そうな顔で、名前を呼ぶこと。
無理に答えなくていいよ、と言いながら、
それでも答えを待つこと。
その視線が、少しだけ、苦しかった。
だから私は、喋らなくなった。
喋れなくなった。
出ない声を追いかけるより、
黙っている方が、ずっと楽だった。
私は転校した。
何も事情を知らなくて、
ばかにされる方がマシだと思ったから。
同情されるより、ずっと。
そんな時に出会ったのが石神千空くんだった。

︎︎︎︎❤︎ 芽蕗 あなた
︎︎︎︎❤︎ ♀︎
︎︎︎︎❤︎ 失声症












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!