第5話

またきっと逢える
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2025/12/27 09:06 更新
数日後。
私は何も告げないまま、静かに宝塚を去った。
そして後日、公式から
『98期 娘役・あなたの名字あなたの下の名前 退団』
という短い発表が出された。
永久輝せあは、その文字を見て、すぐに電話をかけた。
繋がらない。何度かけても同じだった。
永久輝せあ
永久輝せあ
……どういうことなの。
居ても立ってもいられず、
永久輝せあは朝美絢のもとを訪ねた。
永久輝せあ
永久輝せあ
朝美さん、あなたの下の名前の退団理由、
ご存知ですよね?
朝美絢は一瞬だけ目を伏せてから、静かに聞いた。
朝美絢
朝美絢
最後に2人で話したとき、
あなたの下の名前なんて言ってた?
永久輝せあは頭に小さな疑問符を浮かべる。
永久輝せあ
永久輝せあ
……日が暮れますようにって。
朝美絢は小さく息を吸った。
朝美絢
朝美絢
本当に、そう言ったんだ。
それね、「さよなら、また逢う日まで」って
意味なんだよ。
永久輝せあ
永久輝せあ
……え?
朝美絢
朝美絢
あなたの下の名前が言ってた。
退団するって言ったら引き止められちゃうから。直接言えないことは、そうやって濁すんだって。
永久輝せあの喉が、ヒクリと鳴った。
永久輝せあ
永久輝せあ
なんで……退団なんて。
なんで、黙って……。
その言葉に、朝美絢は一度だけ迷ってから、
口を開いた。
朝美絢
朝美絢
……あなたの下の名前は、
ひとこのことが、好きなんだよ。
永久輝せあは言葉を失った。
朝美絢
朝美絢
好きな人の仕事の邪魔をしたくないから、
好きだって想いは伝えないって。
そして続ける。
朝美絢
朝美絢
退団の理由はね、
宝塚に入って「おかえり」って言ってくれる
人ができて、幸せになって、笑顔が増えたか
ら。だから今度は、外の世界に出て、
いろんな人に「おかえり」って言える人にな
りたいんだって。
永久輝せあは震える声で繰り返す。
永久輝せあ
永久輝せあ
……好きな人?
……おかえり?
朝美絢は静かに頷いた。
朝美絢
朝美絢
あなたの下の名前、
両親を幼い頃に亡くして、育ててくれてた
叔母さんも途中で出ていって。ずっと
「おかえり」を返してくれる人がいなかっ
た。
きっとね、ひとこが、「おかえり」って言っ
てくれる人だったんだと思う。
永久輝せあの胸に、これまでの光景が一気に押し寄せる。 
何気なく言っていた言葉。
当たり前だと思っていた日常。
永久輝せあ
永久輝せあ
………。
ポロリと涙がこぼれた。
永久輝せあ
永久輝せあ
もっと……
もっと、おかえりって言いたかった……。
朝美絢はそっと視線を合わせて言う。
朝美絢
朝美絢
日が暮れますようにってさ、
「さよなら、また逢う日まで」っていう
意味なんでしょ?
なら、また逢えるよ。絶対に。
永久輝せあは、ゆっくりと頷いた。
胸の奥に残る後悔と、それでも消えない想いを抱えながら。
永久輝せあ
永久輝せあ
(日が暮れても。また、きっと。)
そう信じるように。

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