第50話

届け
905
2023/04/18 12:37
ティナリ
……っ!
敵の数が多い。
一人一人の戦力には勝っていても、じわじわと体力が削られていく。
ティナリ
次から次へと……これじゃキリがない!
敵の攻撃が頬を掠めて、ティナリは顔を歪める。
血を拭って、すぐに弓を引く。

手を弛める訳にはいかない。
なるべくこちらが攻撃し続けて、時間を稼がなくては。

空とセノが到着するまで、あとどのくらいかかる?
ティナリ
(……まだ、執行官がここに居ないのは幸いだった…………ん、待てよ……?)
こちらの時間稼ぎのつもりだったが、
相手は何故ここに下っ端しか送ってこない…?
ティナリ
(まるで……時間稼ぎじゃないか。)
嫌な予感がした。
……何かがおかしい。

こちらの作戦が見透かされている?

ここを抑えつつ、空とセノが到着したら交代してあなたとコレイの元へ向かうつもりだった。
ティナリ
……まずい。早く2人の元に……っ!
レンジャー
……くっ…………ぅ!
ティナリと共に戦っていたレンジャーが、
敵の攻撃を受けてその場に倒れ込むのが見えた。
ティナリ
危ない!下がって!
ティナリはレンジャーに駆け寄って彼を背後に隠した。
怪我をしているが、命に別状はなさそうだ。
レンジャー
ティナリ……ごめん……。
ティナリ
……気にしないで、僕の方こそごめん。
後で治療するから、今は止血して家の中にいてくれる?
足を引き摺って彼が家の中に下がっていくのを見届ける。
さすがのティナリの表情にも、焦りが滲んだ。
ティナリ
(ここを離れる訳にはいかない……空、セノ……早く……!)
パイモン
ナヒーダ!
スラサタンナ聖処に辿り着くと、
ナヒーダの隣には既にセノがいた。
セノも来てたんだ。
……それで、方法が見つかったの?
ナヒーダ
ええ。……確証を持つにはまだ早いけれど、
私が見つけたこの方法と、セノが持ってきてくれたこの研究成果を併せれば……可能性は低くないはずよ。
そう言って差し出された缶詰知識に、空は触れた。
もうこれの使い方は慣れている。

ナヒーダが調べた魔神の封印方法、呪文……
それからセノが得た情報を併せて見出された、
封印中に起こりうる周囲への影響の予測。
……わかった。

セノがこれを実施する間、寄ってくるであろう魔物を倒しつつ……セノに元素力を送り続ければいいんだね?
セノ
その通りだ。
セノ一人の力ではエネルギーが足りない。
空の持つ力をセノに分ける必要がある。
ナヒーダ
本当は、元素力を分け与えることに関しては私が得意とすることなのだけれど……。
ごめんなさい。あなたに任せてしまって。
パイモン
気にするな!ナヒーダが居なかったら、こんな方法だれもわからなかったぞ!
ナヒーダ
ええ。お願いね。
ところで……
ナヒーダは少し困惑しているようだった。
空とパイモンは目を合わせて首を傾げる。
ナヒーダ
放浪者を、見ていないかしら。
パイモン
え?アイツがオイラたちをここに呼んだんだから、とっくに帰ってきてるんだと思ってたぞ……。
ナヒーダは少し考えて、不安そうな表情を浮かべた。
放浪者の無駄なことが嫌いな性格からして、直ぐに帰らないということは、何かあったに違いない。
ナヒーダ
そう、おかしいわね……。
そのまま少しの沈黙が流れた後、
入口から何やら音がした。
ナヒーダ
……あら?お客さんみたい。
ナヒーダが扉を開けると、鳥が入ってきた。
セノ
……!まずい、ティナリだ!
パイモン
森が襲われてるってことか?!
空はティナリからの短い言伝を呼んで、
セノを見て頷く。
ナヒーダ、ごめん。行かなきゃ。
ナヒーダ
ええ、急いであげて。
……まだ間に合うはずよ。
その言葉に、空とセノは並んで走り出す。
パイモンも全力で2人に続いていった。

……やられた、狙われていた。
見られていた。

セノが居たのに、ティナリに呼ばれるまで気が付かなかったなんて。
(……そんなの、「博士」が来てるに決まってる…………!)
間に合え、間に合え……!
やっとピースが揃った。あとは組み立てるだけなのに。

絶対に助ける。……あと少し、君に届け。

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