敵の数が多い。
一人一人の戦力には勝っていても、じわじわと体力が削られていく。
敵の攻撃が頬を掠めて、ティナリは顔を歪める。
血を拭って、すぐに弓を引く。
手を弛める訳にはいかない。
なるべくこちらが攻撃し続けて、時間を稼がなくては。
空とセノが到着するまで、あとどのくらいかかる?
こちらの時間稼ぎのつもりだったが、
相手は何故ここに下っ端しか送ってこない…?
嫌な予感がした。
……何かがおかしい。
こちらの作戦が見透かされている?
ここを抑えつつ、空とセノが到着したら交代してあなたとコレイの元へ向かうつもりだった。
ティナリと共に戦っていたレンジャーが、
敵の攻撃を受けてその場に倒れ込むのが見えた。
ティナリはレンジャーに駆け寄って彼を背後に隠した。
怪我をしているが、命に別状はなさそうだ。
足を引き摺って彼が家の中に下がっていくのを見届ける。
さすがのティナリの表情にも、焦りが滲んだ。
スラサタンナ聖処に辿り着くと、
ナヒーダの隣には既にセノがいた。
そう言って差し出された缶詰知識に、空は触れた。
もうこれの使い方は慣れている。
ナヒーダが調べた魔神の封印方法、呪文……
それからセノが得た情報を併せて見出された、
封印中に起こりうる周囲への影響の予測。
セノ一人の力ではエネルギーが足りない。
空の持つ力をセノに分ける必要がある。
ナヒーダは少し困惑しているようだった。
空とパイモンは目を合わせて首を傾げる。
ナヒーダは少し考えて、不安そうな表情を浮かべた。
放浪者の無駄なことが嫌いな性格からして、直ぐに帰らないということは、何かあったに違いない。
そのまま少しの沈黙が流れた後、
入口から何やら音がした。
ナヒーダが扉を開けると、鳥が入ってきた。
空はティナリからの短い言伝を呼んで、
セノを見て頷く。
その言葉に、空とセノは並んで走り出す。
パイモンも全力で2人に続いていった。
……やられた、狙われていた。
見られていた。
セノが居たのに、ティナリに呼ばれるまで気が付かなかったなんて。
間に合え、間に合え……!
やっとピースが揃った。あとは組み立てるだけなのに。
絶対に助ける。……あと少し、君に届け。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。