「 天童、頼みがあんだけど…… 」
「 頼み?俺に? 」
隣のクラスの田川クン。
2年のとき同クラで、まずまずの話す仲。
「 お前さ、彩白と仲いいだろ? 」
「 それがなに? 」
「 実はさ―― 」
3年になるとそれぞれの進路に沿って授業を選択するわけだが、その授業でレポートを提出することになったとかなんとか。要はそれに協力してくれということ。
内容は“盲目の人の見る世界”がテーマらしく、美術部であるこいつはそれを活かしてあなたが俺の顔をどう見ているのかを再現したいと言うのだ。
「 彩白がお前にやるアレ。形とか分かってんじゃないかなって思うんだよね。彩白にお前の顔を話してもらってさ、それを元に粘土で顔を作っていく 」
アレとはあなたが俺と話すときの行動のことを言ってるんだと思う。
顔に触れて目を開くあなたは目線はもちろん合わないのに、俺を”見ている”ようで、俺だけにされるソレは特別感があって好きなもののひとつだ。
「 どうよ、面白くない?お前もさ、自分がどんな風に想像されてるのか気になるだろ? 」
「 まぁね~ 」
気になる気持ちと、知りたくない気持ち、半々かな。
「 でも田川クン、俺の顔知ってるじゃん?話通りに作れんの? 」
「 作るのは後輩に話付けてる。お前のこと知らないやつだ 」
「 ……俺のこと知らないの!?バレー部のレギュラーって有名人のはずじゃん!! 」
「 興味ないやつもいるんだよ、1年だし余計にな 」
「 え~なんかざんね~ん、面白くなぁ~い 」
「 お前の知名度は今はいいんだよ!俺のレポート!なんか奢るからさ!頼む! 」
「 ダッツのチョコで 」
「 よし!まかせろ! 」
簡単に交渉は成立し、あなたにはこれから頼みに行くと言うので一緒について行った。
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『 へぇ〜面白いね!僕が想像してる可愛くて、かっこいい覚を見せてあげよう! 』
「 ……田川クン……天使がいるよ!可愛すぎない!?あなた!かっこいいバージョンの俺で! 」
「 ……ハイハイ。彩白ありがとね、盛らなくていいからな?想像してるまんまでいいから。じゃ、また集まる日調整するわ! 」
こいつらほんとに友達ってだけ?……天童は違うか。
全員の都合の合う放課後、美術室に集まった。
「 彩白、これ椅子ね、座って。机を挟んだ向かいに後輩が座るからな 」
その場に居たいと言う天童には、後輩と鉢合わせしないように廊下で待っててもらう。
『 それでね、身長高くて、細身で、手足が長くて 』
……ちょっと待て。身体触ってんの?顔触るんだし彩白の中じゃ普通なのかもな……。
「 ……そうなんですね頭部しか作らないので、今回は顔の特徴を聞いていきますね 」
『 あ、うん 』
楽しそうな彩白は天童の特徴を次々と話していく。天童に興味がない後輩は仕方なさそうな相槌を打ちながら淡々と準備を進めていく。
後輩よ、お前は相変わらず愛想がないな……。
「 髪は長いですか? 」
『 目元が隠れるくらいの長さだね、マッシュが伸びたって言ってたよ。前髪も後ろ髪も全体的に逆立てる……伝わるかな? 』
「 はい、なんとなくですけど分かります 」
ある程度、形を作ると彩白に触らせては整えていく。
『 もうちょっと長いかも…… 』
「 ……はい、どうですか? 」
『 そうそうこんな感じ!色はね、赤だよ 』
「 そうなんですね 」
色まで塗る予定はないが、教えてくれる彩白にまたもや愛想のない返事をする後輩。
にしても……
「 ……彩白、色が分かるのか? 」
『 わからないよ。でも、知ってる 』
「 というと? 」
『 りんご、トマト、血液、いちご…… 』
「 さくらんぼも赤いです 」
『 ふふっそうだね、美味しいものばっかりだね 』
赤色自体はどんなものか分からないけれど、“赤いもの”を知っているというあなた。
『 食べ物もそうだけど、やっぱり僕の中じゃ赤と言えば覚かなぁ 』
そう言う彩白は穏やかな声をしていて、その声は天童にも聞こえているだろう。
『 美味しくて、暖かくてね、僕に幸せをくれる色なんだ。赤が一番好きだよ 』
「 ……彩白先輩が思う色はとても素敵ですね 」
彩白には知覚できない“色”というもの。独自の概念で色を理解する彼に、後輩も興味を持ったようだった。
これをどう捉えるかによっちゃ、言われた本人は……
「 っ…… 」
天童が息を飲んだのが気配で分かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。